壁の上から
「戦力差は20倍、質の面でも新種混じりでかなり厄介。なのに俺たちは疲労困憊で理力は尽きかけ。でも、ここで勝たなきゃ生き残れない。改めて考えると、すごい状況だな。一戦するごとに、どんどん状況が悪くなってる」
ダルムシュタット外壁の上で、外にいるヴラムを見ながらレイナスはつぶやいた。誰に向けた言葉でもなく、現状を確認するためのつぶやきだったが、絶望がにじみ出ている。何をやっても生き残れないこの状況では仕方のないことかもしれないが、彼の場合は絶望を破滅主義に置き換え、自滅覚悟で戦いかねない危うさがあった。表情を見れば笑っているのに、目の奥には暗い何かが蠢いている。
ヴラムの数についてはリチャードが調べたので、ほぼ間違いない。
主力、一番数が多いのは通常種と言うのがせめてもの救いだが……虫型、人間型、双頭型がそれなりの数と、指揮官型が100以上いるので油断などできない。
「まー、ヴェロニカ嬢には何か考えがあるみたいやし? 自棄になるにはちょう早ないか?」
独りでいたレイナスに影が差す。ドリンクを両手に持ったスティーヴだ。
レイナスが外を眺めていたのはヴラムの様子を目視で窺うためで、周囲にはちゃんと許可をもらって動いている。
ヴラムは隊を再編し、作戦を練っているのかもしれない。上から軍と同じように整然と並ぶヴラムを見ると、その想像が間違っていないようにレイナスには感じられた。あのまま力押しで押し切るより、こちらに回復の時間を与えてでも、策を使った方が損耗を少なくできると敵の大将は考えているように思えた。
ヴラム側もブライザッハを落とされたことで後が無い。
互いに戦力の補充ができない状況下なので、無茶をしたくないのはどちらも同じ。それを逆手に取ろうと先に無茶をした人間側がヘマをしたわけだが、ヴラム側は乗ってくれないようだ。堅実に事を進めている。
「そっちのお嬢らは何していまっか?」
「二人とも回復中だよ。シャルはすぐに動けるようになるけど、リーゼは不味いかも」
二人の様子を思い出し、レイナスは顔をしかめる。
受け取ったドリンクを口にしながら、スティーヴに二人の様子を説明する。
シャルの理力は最大値こそ低いものの、何気に回復力だけはすごい。普段の訓練でもすぐにバテては休憩を入れ、すぐに回復し終えてまた訓練をするということを繰り返していた。戦場でも倒れる寸前まで理力を使い切ることが多い。その経験の賜物だろう。
が、リーゼは余力を残しながら戦うことに慣れている。基本的に誰でも、レイナスもそうなのだが、戦場では無茶をしないようにペース配分をする。どこかに行くなら帰りは必ずトラブルを想定するよう、骨の髄まで叩き込まれている。よって、限界ギリギリと言うのは訓練のみで、シャルほど経験しない。ここ最近は何度も死線を潜り抜けているが、ちょっと経験を積んだだけの人間とは年季が違うのだ。
結果、シャルは10分の休憩でほぼ完全に理力を回復させたが、リーゼは良くて5%程度だ。リーゼの理力はシャルの約10倍なので、回復量を数値で考えるなら、シャルは倍近い回復力という事になる。
「はー。シャルもなかなか凄いんやなぁ。その理力を他の光姫にまわせりゃ、ずいぶん楽になるのになぁ」
「それが出来れ……理力の共有化…………“双姫の加護”ならあるいは、いけるか?」
ふと、レイナスの中に思い出された“双姫の加護”状態での、理力の移動、共有化。
状況はシャルとリーゼで逆転しているが、試す価値があるように感じられた。
「すまん、ちょっとシャルのところに戻らせてもらう!」
「え? ああ、おい!?」
レイナスはドリンクを飲み干すと、空のグラスをスティーヴに押し付け、シャルのもとへ駆け出して行った。
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