血戦(真) 包囲網
人間型のヴラムは総数、1000匹が生産されていた。
強襲型をベースに、人間サイズまで縮めた最新型のヴラムだ。
強襲型は「大きく、正面からの攻撃に強い」ことが長所だった。少なくとも人間同士の戦いにおいては、体が大きいというのはそれだけで強さになる。普通に考えるなら全長10mの強襲型は、相当な脅威になるだろう。4本の脚は体を支えることもあり、普通の攻撃ならまず通らないよう固くしてあり、顔の周りは闇術で守れる。強い、はずだった。
しかしそれも対処法が確立するまでの話だ。
初戦ですら特性を見破られ、即座に対応されてしまった。不意をつけたことで多大な戦果を挙げることができたものの、ピーキーな特徴というのは型にはまった時の強さは相当だが、逆に型にはめられた時の脆さも相当だった。生産コストもばかにならないため、最初のロット以降は生産されていない。
では、強襲型の存在が無駄だったかというと、そうでもない。
少なくとも、大きく作る事の無意味さを理解できた事と、体のごく一部の硬化技術、生体爆弾化技術の獲得につながったのだから。
既存種に新たな技術を投入する手間をかけることはできないが、硬化技術の転用である虫型と、サイズダウンして基本性能を大幅に落としたが強襲型とほぼ同じコンセプトの人間型の生産が行われた。
高い防御力により生存能力の高い虫型は、足止めや時間稼ぎにうってつけである。
人間型は、その視覚効果も手伝って精神的なダメージを人間に与える。
単体では「勝利する」ための力を持たないこの2種であるが、それを見越した新種を用意するのもヴラーナの立てた戦術だった。
そう。
攻撃用の、新種である。
「“虫”と指揮官を先に潰せ! 他は後回しでいい、後続に任せろ!!」
軍の進みが、人間型の登場で遅くなったタイミングで「それ」は現れた。
見ただけでは通常種――要するに雑魚――と同じ外見をしたそのヴラムは、距離100mに人間が現れたことで本性を見せる。
通常種は四足の獣。犬などの姿に近い。それが、異形へと姿を変えた。
変えたと言ってもそう大きな変化ではない。ただ、首が増えただけだ。
首を2つに増やしたヴラムはその口の中で魔力を収束させ、それを闇術の弾丸として撃ち出した。撃ち出された弾丸は、バスケットボール程度の大きさ。視認性は悪くなく、狙われたと思しき戦騎は回避行動をとる。しかし十分回避できると思われたそれは、戦騎の前で破裂した。
散弾とかした一撃は、戦騎の体を蹂躙する。一発の重さはないものの、顔など急所に当たれば死傷は免れない。周囲にいた他の戦騎も巻き込み、たった一撃で10人以上が戦闘不能になった。
そのかわり、ヴラム側も無傷ではない。
先ほどの攻撃を行ったヴラムは、自身の力をすべて使い果たし、自壊する。
見た目のみならず、基本能力もまた通常種の延長なのだ。圧倒的攻撃力を与えられたものの、ただそれだけ。使えば自壊、一回だけの攻撃にすべてを賭けた神風特攻のような犠牲戦術。
それが、この変種“双頭型”だった。
「つ、通常種の中に変種を発見! 広範囲攻撃を仕掛けてきます! 通常種にも警戒を!」
それを目の当たりにした光姫が周辺へ警告する。
その叫びに呼応して、また、軍の足は止まる。
この変種だけだったら、まだ何とかなっただろう。
しかし攻撃前の見た目が通常種と同じだったことで、より多数に警戒することを軍は強いられた。
やる事が増えれば、進軍に使えるリソースの欠乏へとつながる。獲物の足が止まったのなら、最初に交戦し、軍を逃がしたヴラムも追撃できる。
ここにきて、最悪の状況は整えられた。
ヴラムによる、軍の包囲網が完成したのだ。
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