人間型
一度穴が開けば、そこを一気に押し広げるのが「魚鱗の陣」だ。
全軍一丸となって突貫を行う。
対するヴラム側は、これから広域制圧を行おうというのか、全体的に広がる前だったため、なかなかに「分厚い」状態だった。突き抜けるまでにはかなり時間がかかりそうだった。
上空から見えたならひし形の陣形をした軍が、先端のとがった角からヴラムの長方形を切り裂くのが見えただろう。
しかし、その快進撃も7割ほど進んだところで頓挫する。
最初に獲物とされたのは戦騎の一人だ。
彼は半ばで防御特化の虫型と交戦していた。手間のかかる虫型に時間をかけてしまい、焦りが周囲への注意を疎かにした。その瞬間
「ごふっ!?」
わき腹にねじ込まれる人の拳。人外の膂力で放たれたそれは、哀れな犠牲者の内臓を一撃で破壊する。
突如現れた襲撃者は、血だまりに沈んだ戦騎を一顧だにすることなく、次の犠牲者へと向き直る。
「ヴラーナ!?」
「いや、人間型だ!」
「腕と足が黒いぞ! デカブツと同じだ! 胴体か頭を狙え!!」
そう。
その新たなヴラムは人と同じ姿をしていた。
服などは着ていない。成人男性と思わしき裸体をそのままにしている。
目を引くのは、鍛えられたかのように見える体つきよりも両手両足。強襲型と同じように黒く染まり、白い肌とのコントラストがいっそ滑稽に見える。
表情は戦場にいることが不思議なほど茫洋としていて、定まらない視線を虚空に向けている。口からは涎を垂れ流しており、とてもまともには見えない。
この場にいた戦騎や光姫は夏の大討伐で強襲型と交戦した経験があり、下水道の実験体の事も知っていた。よって、手持ちの情報からほぼ正解を言い当て、即座に対応する。
戦騎の一人が正面から挑みかかり、首を狙う。横凪一閃、見事首を刈り取った。
それに合わせるように駆けだしていた二人の戦騎。一人は剣の柄で首を奥に弾き飛ばし、もう一人はハンマーで残る胴体を吹き飛ばした。強襲型と同じタイプだった場合、爆発を起こす危険性があったからだ。
その予想は正解で、弾き飛ばされた首のほうが爆発し、周囲にいたヴラムを飲み込んだ。胴体の方はそのままで、地面に血を垂れ流している。
危なげなく人間型を処理した三人だが、戦場を視認するとその表情が硬くなった。
同じ姿のヴラムが、分かる範囲で4匹。森の中ゆえ、視認性が悪くて目に映る範囲と言うのはそれほど広くない。全体ではかなりの数がいると予想された。
この場にいた全員に、緊張が走る。
人間型は、その硬直を感じ取ったのか彼らを無視して、木々を利用し上を取り、そのまま軍の中を目指す。
「人間型は首が爆発する! 強襲型と同じだ! どうにか処理しろ!!」
せめて警告だけはと大声を出す戦騎。
しかし、彼の警告は届かなかった……。
木々の枝や幹を足場にし、蹴りながら進む人間型。
その一つを光姫の一人が≪ライトニング≫で撃墜した。
倒されたヴラムは引力により落下し、人の少ないところに落ちた。ヴラムが落ちてくるのが分かっていてその近くを通る者などあまりいない。二人ほど戦騎がとどめを刺す必要があるか確認に向かったぐらいだ。
落ちてきたヴラムはすでに死んでおり、それを確認した戦騎は先へ進もうとした、が。
ヴラムは爆発し、周囲に肉片をまき散らす。その直撃をうけ、戦騎二人が死亡。周囲への影響は木々が緩和したために少なかったが、動揺が広がる。
人間型のヴラムという、ある種の生理的嫌悪を催す存在であると同時に、倒した後の処理が必須と言う厄介さ。それが人間の心に悪影響を与えるのだ。
同様の状況が各地で展開され、軍の動きから鋭さは失われていた。
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