血戦前日
補給物資を受け取ってすぐ、ブライザッハへの進軍を決めた軍上層部。
全戦力を使い、一気に勝負を決めることになった。
しかし、これは賭けでもある。
もともと人類側は、このタイミングでの決着を予定していなかった。相手の攻撃を跳ね返し、返す刀で殲滅するのが当初の予定であった。時間経過でヴラムの数が増えるだろうことは確かに予想の範囲内であったが、それでも敵の保有戦力を削ってから進軍する予定だったのには訳がある。
主力を無視して、後ろに行かれるのを嫌ったからだ。
例えばである。どこか1都市を狙った場合、他2都市からダルムシュタット側に進軍され、そのままアイレンまで手を伸ばされた場合。
敵の保有する戦力にもよるが、人類側が一方的に蹂躙される可能性がある。
ここにいる主力級の戦力は戦いを経て強くなったが、後方の友軍は、いまだに昔のままである。アイレンの戦力が抜かれた場合、確実に他の都市も落とされるだろう。
一応程度の保険をかけてはあったが、それはあくまで保険である。頼ることを前提にはしていない。
敵に指揮官がいるのなら。
願わくば。
こちらを潰すべき脅威と見做し、総力戦を仕掛けてほしい。
それが人類側の願いだった。
軍は行動を開始し、道中何事もなくブライザッハ近郊まで進む。
偵察部隊も途中で合流し、ブライザッハに新型の繁殖施設らしきものがあることも分かった。巨大な繁殖施設もあったし、おそらくそれが強襲型の繁殖施設であろうことも決め手となった。倒し方が確立されつつあるとはいえ、強襲型は脅威だ。今のうちに排除できるならそれに越したことはない。ヴラーナの有無は別にして、「倒さねばならない」という気持ちが軍に行き渡る。
無論、その分苦戦が予想されるが、事前に厳しい戦いになるという心構えがあれば簡単には崩れなくなる。
それに、事前情報があれば、戦場で強襲型を見ても余裕すら生まれるだろう。「知らない」「考えになかった」はかなりの強敵なのだ。逆に対処法が確立されてしまえば型に嵌めるだけでいい。
今回のブライザッハ攻略戦は、戦場を広域にするゲリラ戦に近い。
敵がどのように考えるかは横に置き、繁殖施設の破壊を目標に掲げる。
一回の戦いですべて破壊する必要はなく、短期集中攻撃を肝とする。
具体的には、小規模な部隊で確認された繁殖施設12ヶ所への同時攻撃で敵を分散させ、うち一つを本命とし、戦力を集中運用。繁殖施設を速攻で撃破したら撤収する。もちろん守りが弱ければ、ダミー攻撃の部隊も繁殖施設の破壊に動く。それを、繰り返すのだ。
途中からこちらの意図は読まれるだろうが、それまでに3か所以上繁殖施設を破壊してしまえば、どのような形で決着がつくのであれ、今後非常に有利になるはずだ。
このような作戦をとる理由はいくつかある。
外壁に上っただけで視認可能な強襲型の繁殖施設はいい。体育館並みのサイズのそれは、とても目立つ。重点破壊目標だ。
しかし、一般的なヴラムのサイズは人間とそう大きく変わらず、繁殖施設も相応の大きさになる。一般家屋を改装して中を使われているので、建物の適当な破壊工作も視野に入れて動くことになる。理力の消耗が大きくなるので、複数回に分けて攻める必要があるのだ。
また、相手に準備時間を与えれば、運が良ければ一回二回は敵の配置から「壊されたくない建物」の割り出しも行えるだろう。
それに、相手は「施設を防衛する必要がある」のだ。わざわざ一回で攻めきる理由も薄い。もし退いたこちらに対し追撃を行おうとするなら、それを無視して再度攻め込むという選択肢が出てくる。その場合、薄くなった敵の守りを縦横無尽に蹴散らすことも可能になるだろう。数が少なければそれを駆逐するだけでいい。相手が戦力分散の愚を犯してくれる方が戦いやすいのだ。
なお、相手には援軍のアテがあるので、籠城が愚策で無いのも大きい。
持久戦に持ち込むのは、相手の戦力をこちらに集中させる為でもあるのだ。
「未知の新型。敵が考えそうな強化ヴラムのリストか……」
「攻撃特化、射撃特化、防御特化、飛行能力。射撃で距離を取れなくなるかもしれないのは痛いですよね」
「防御特化なら、私の出番ですね。……飛ばれると、対処できないと思うけど」
「そこは俺もだな。リーゼに任せるしかない。頼んだぞ」
「はい! 任せてください先輩!」
攻略戦の前。最後のミーティングが行われた。
ゲリラ戦なので、細かく班分けして行動する。そのために光姫と戦騎を1部隊とするタイプの戦いを仕掛ける。
街中に攻め入った後の対応は完全にスタンドプレーが許されている。予想される敵の戦力を考え、対応可能であれば自分たちなりの戦力で、対応できそうになければ他の仲間と連携で戦う。そのための打ち合わせだ。
レイナス達は北側から攻める部隊に組み込まれたが、予想だけでシミュレートしきれない部分もあるので、大勢で戦術を考えている。
射程外から攻撃を受けた時の話や、飛行能力もちには虫のようにホバリングするときと鳥のように滑空するときでどう対処するのだとか、強襲型の足を破壊するための訓練を防御特化に応用し持ち込むにはどのような手順があるか。他にも既知のヴラムへの有効だった対処方法の共有など。
たまに聞いたことのない話がでてくるので、途中まで聞いたことのある話も油断せずに覚えておく。
この戦いが終われば。
その思いを胸に、戦士たちのミーティングは真剣に行われていた。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。




