盤上の読み合い
ダルムシュタットに戻ったレイナスが見たのは、自分と同じく、ヴラムの残骸を持った仲間たちだった。
南門の前だが、そこで何人かが集まって話をしていた。
「――で、こうやって撃退したわけだ。場所は――」
「俺たちの戦ったのは――」
主に戦闘があった場所の確認で、地図を指しながら説明している。
レイナスに気が付いた資材管理の担当官は、その手にあるヴラムの残骸を見て、眉をひそめた。「罰として単独で動かした結果、ヴラムに襲われて死にました」では体裁が悪い。危険管理の杜撰さを突き付けられたようで面白くないのだろう。
だが、感情を仕事と区別して考えることが出来るようで、レイナスの話を聞き、戦闘があった場所の確認をする。
場所については南門に集まった人間の話だけを見てだが、門から8㎞程度南に行った山岳地帯のみである。良質な石があるということで切り出し作業を措定他のだが、その周辺のみで襲われている。平地や森の中にいた場合は襲われず、逆に襲ったレイナスぐらいしか戦闘をしていない。
どこもヴラムは2匹で動いていたようで、数も含め、場所の方も法則性があり、「何かの意図」を感じさせる状況だ。
通常種、要するに一番弱いヴラムが2匹というのは、一般人ならともかく、戦騎や光姫にはまったく歯が立たないレベルである。以前ならいい勝負をする者もいたが、何度か死線を潜り抜けた成果が表れ、以前より実力を増した今の戦騎や光姫には単独であっても楽な相手である。
これが隠密型など、最上位種認定されたヴラムであれば話は変わるのだが……「手ごろな相手をぶつけられた」だけに、相手の意図をだれもが読み切れないでいる。
雑魚とはいえ、戦力は戦力だ。数を揃え、遊撃させるもよし。側面・背面を突けば戦うことはできる。射撃をさせ、弾幕要員にしてもいいし、使い道がある駒を使いつぶすその意図は、読み切れるものではない。
どこかモヤモヤするものを抱えたまま、レイナスは宿舎に戻る。
仕事の方は中断したままだが、この状況で仕事をさせるのは危険すぎると上が判断し、戻るように言われたのだ。
「レイナス、お帰り」
「先輩も戻ってきたんですね」
宿舎に戻れば、シャルとリーゼも部屋にいた。
外で仕事をしていた二人のところにもヴラムは現れたらしいが、近くにいた他の戦騎が瞬殺してしまったので、出番はなかったという。おかげでリーゼは少し不満そうだ。
「それにしても……何があったんでしょうね? やってることの意味がまったくわかりません」
リーゼは小首を傾げながら考えるふりをするが、彼女は考えるより動きたがる人間である。疑問を口にしたのは、先輩二人が答えてくれないかな、という甘えだ。
「陽動、もしくは示威行為。あとは時間稼ぎ?」
ぱっと思いつく意見をシャルが言う。
最後の一つが正解なのだが、そのことはまだ誰も知らない。
「長期戦略だけど、こっちの意識を戦闘状態で維持して、疲れを溜めさせるとか?」
レイナスもそれ以外の考えを言うが、これも一応正解である。
人間は平常時と興奮状態と、二種類の意識を持っている。戦闘状態は興奮状態の一形態で、極度の集中を発揮する代わりに、脳に負担をかけている。よってあまり長く維持ができないし、疲労もしやすい。休んだとしても疲れは抜けず、戦闘時にはそれが原因で不覚を取る者もいる。
散発的に攻撃行為を繰り返すことで不安をあおり、休息をとらせないのは戦争における基本戦術の一つだ。
今回の攻撃があったことでしばらくは警戒態勢を取らざる得ないし、防衛陣地の構築もしばらく延期になるだろう。1日か2日の遅延になるだろうが、軽微とはいえ被害を気にしないのであれば、時間稼ぎも兼ねた良い手である。
同じような結論に上層部を含む幾人かが気が付き、その対策が取られる。
サーチ&デストロイ。
敵が戦力を終結させている場所があると思われるので、そこへの強襲である。
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