8日目の朝
ダルムシュタット奪還から8日目。
レイナスが目を覚ます頃。周囲は騒がしかった。
この部屋を使う3人のうち、レイナスはいちばん目覚めが遅い。女性二人にしてみれば、寝顔など見られたくないからだ。特に、朝起きる直前の寝顔というものを。
なので、体を伸ばしてほぐし、着替えてから朝食を摂りに食堂へ向かう。道中で手洗い小用を済ませたレイナスが見たのは、軽い怪我をした同僚の姿だった。
「おはよう。その怪我、どうしたんだ? 夜勤だったけど、何かあったのか?」
「ん? おお、おはよう、レイナス。何かと言っても騒ぐほどのことじゃないさ。小規模の襲撃があったぐらいで、大して被害も出なかったし、俺と他に何人かが軽い怪我をしただけで終わったからな」
怪我をして包帯を巻いている戦騎であったが、表情に暗いものは無い。
敵の襲撃に備え、周辺の巡回と重要拠点――主に補給物資置き場――の防御は万全だ。どうやらその警邏をしている際、遭遇戦になったようである。
「ふーん。あとで話を聞きに行くかもしれないから、その時はよろしく。じゃ、おやすみ」
「おう、おやすみ」
もう少し詳しく話を聞きたかったレイナスであるが、自分は朝食前で相手は就寝前だ。これ以上時間を割くのは良くないと判断し、軽く挨拶をしてお互いその場を離れる。
話をしていた分、シャルとリーゼはレイナスを待っているだろう。そのことを考えてレイナスは小走りで食堂に向かうのだった。
「ああ、やっぱりこっちでもその話をしてたのか」
「はい、夜間の遭遇戦はこっちに来てから初めてでしたので」
「あー。何気に、こっちから戦いを挑む感じだよね?」
「そうですねー。先輩は肉体労働ですけど、私たち巡回組は結構頑張って殲滅してますよ」
「ええ、巡回を始めてから3回、ヴラムと遭遇しています」
「……羨ましいような、そうでないような…………」
食堂でレイナスを待っていた二人にまず頭を下げ、レイナスは席に着く。
二人は怒ることでもないと笑って謝罪を受け入れ、そのまま食事となった。
食事中の話題は、先ほど聞いたばかりの遭遇戦。
巡回で周辺の野良ヴラムを削ってはいたものの、向こうが積極的に襲ってきたのはこれが初めてだ。当然、みんな気にしている。
ヴラムと比較して、人間側の索敵術は高性能である。闇術に索敵術は無いと言われる所以で、戦闘は大体が先制攻撃を仕掛ける側である。襲撃を受けるときは隠形術で姿を隠しているところに踏み込んだ時ぐらいで、移動しながら隠形術を使い積極的に襲ってくるというのは、実は珍しかったりする。
どういうことだろうと首をひねってみても何も考えは浮かばず、被害の軽微さから散発的なものだし、ただの偶然ではないかと結論付けられる。
朝は、そうやって過ぎていった。
朝食が終われば、レイナスは昨日と同じ、石運びである。
資材管理の担当者に今日の作業エリアを確認し、作業に入る。
当然一人で、周囲には誰もいない。喋る相手もいないのでレイナスは黙々と作業を続けていた。
すると、レイナスの索敵術に、わずかだがヴラムの反応があった。
微かであったが、それを間違えるほど温い生き方をしていない。即座に戦闘態勢になり、反応のあった場所まで駆け抜ける。
駆け付けた先には見慣れたヴラムの姿が。数は通常種が2匹。この数ならば、と応援も呼ばずに一瞬で2匹とも切り捨てる。
「……何か起きるっていうのか?」
昨夜の襲撃、今のヴラム。
どこか違和感のある現状。
自分だけでは考え付かない何かがあるような気がして、ヴラムの残骸を手に、レイナスはダルムシュタットに戻っていった。
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