独断専行により肉体労働中
ダルムシュタット奪還から7日ほど経過した。
現在は、残りの陥落都市を攻め入る前の、事前調査中である。
レイナスたちは今回の調査から外され、リチャードらと他の本職の方々のみが動いている。
外された理由については、レイナスが前々回の偵察で独断専行をしたことが理由に挙げられる。前回はそのことについて深く協議する間がなかったので徴用されたが、今回はその時の反省を込めて防衛陣地の作成作業を割り当てられている。当然、肉体を酷使するタイプの仕事だ。
「これで……ラスト!」
レイナスが石材を資材置き場の専用スペースに置く。
勢いよく置けば石材にひびが入ったりする可能性が高いので、置くときはゆっくりと置かねばならない。その分、力が必要で人を選ぶ辛い仕事だ。
石切り場から資材置き場までは台車のような道具で運んでいたが、最後の積み下ろしはこのように人力でやらねばならない。戦騎という身体能力強化をできる人間は、こういう時に重宝する。……この場には、戦騎か光姫しかいないが。
「お疲れ様。はい、ドリンク」
「お、ありがとう」
仕事が終わったレイナスに、近くに待機していたシャルが飲み物を渡す。
果実の汁を冷えた水で割った、ごくありふれた飲み物である。酸味と甘みが少し感じられる癖のない味で、肉体労働で火照った体には極上の幸せを与えてくれる。
使っている果物はこの辺りで採れたもの、水は近くの川の水である。水については、もちろんあの下水とは関係ない場所からついさっき汲んだ水だ。どちらも現地で調達できる品である。
戦争をしに来たので、ごく一部の金持ち以外は茶葉や珈琲豆のような嗜好品は持ち込んでいない。そんな中だろうと少しでもいいものを用意したいと、シャルが心を砕き足を使って用意した果実水である。レイナスは感謝しながら水筒を空にした。
「罠の設置は終わったのか?」
「うん。こっちよりもずいぶん早く終わったよ。レイナスの仕事は特に時間のかかる、きついところだから……」
「罰だしなぁ」
「本当なら私たちもこっちなのに……。ごめんね」
現在、石運びはレイナス単独の仕事である。
本来ならシャルやリーゼも連帯責任なのだが、実際に無茶を勝手にやったのはレイナスなので、レイナス一人で罰を受けることになったのだ。
他の場所では複数の運搬担当者が配置されているのだが、この場所のみは、レイナス一人でやるように言われている。もちろん、終わるまで休むことは許されない。
このようなことを言っていると効率が悪いやり方のように見えはするが、職場を毎日変更し、トータルで見た時、どこも同じぐらい進むように調整されているので問題なかったりする。
仕事が終わったということで、二人連れだって仮設宿舎に戻る。
仮設宿舎は、ダルムシュタット内でそこそこ使えそうな建物を接収し、多少補修して食うと寝るに困らない程度の機能を持たせた建物である。住み心地はあまりよくないが、テントで野営するよりはずいぶんマシである。
ちなみに部屋割りは男女別ではなく、光姫と戦騎・従騎が一緒にあって一部屋使うことになっている。攻められた等の緊急事態に備えるためであり、特に他意は無い。
食事については当番制で、それなりに腕がいいと評判の者を中心に持ち回りで行っているのだが、当たりはずれが多かったりするのが難点だ。
「お帰りなさい。夕飯、部屋にもっていってありますよ~」
宿舎には同室最後の一人、リーゼが待っていた。
レイナスは仕事に時間がかかり、戻ってくるのが遅いために、夕飯の時間が他の者と合わない。そのため、シャルが迎えに行く間、リーゼが3人分の食事を部屋まで運ぶのが慣習となっている。
「ありがとう、リーゼ。今晩のメニューは何かな?」
「魚の香草蒸しと麦パンですよ。今日はスープ、無しでした」
「スープなしかぁ。ちょっと厳しいね」
「あ。でも、牛乳が貰えたから、そっちで食べろって事みたいです」
「ん。ありがとう。待たせてごめんね」
部屋に戻る前にメニューを確認するレイナス。
に麦パンは結構かたくて、汁物を浸して食べるのが一般的だ。あまり美味しくないし硬いので不評なのだが、保存性に優れている。軍だけでなく、旅では必須の食料といえる。
牛乳については、ここまで牛が運ばれてきたということを示している。
奪還戦を決めてから11日が経過している。戦闘要員は最低限の荷物だけで進軍したが、補給物資やその他資材を持ち込むための輜重部隊は荷車に荷物を載せ、馬でここまで移動してきたのだ。そのため移動に10日もかかり、今になってようやく到着したということだ。
「荷物が来たってことは、もうすぐ本格的に動き出すってことだよな?」
「うん、ようやく進軍用の食料と装備が来たってことだよね」
食事を終え、寝る前の時間、3人は体を休めながらおしゃべりをしていた。
話題はその日によって違うが、今日はようやく来た物資、そしてそれが届いたことによって動くであろう状況についてだ。
軍を動かすというのは、お金が必要になる。
そしてそれ以上に、食料が必要になるのだ。
今の季節は夏と秋の間ぐらい。森深いエルグライアの地なら、どこでも現地調達ができるだろう。しかし、現地調達では時間がかかるし、確実性がない。どうしても、自前で用意した食事というのが必要になってくるのだ。
なので、ここ最近は現地調達メインの、強制日替わりメニューだったのだが。
「でも、偵察部隊の方が戻ってきてからじゃないですか?」
「あ、そっか」
進軍に必要な物資は届いたが、情報なしで動くのは下策である。
そのことをリーゼが指摘し、レイナスは一瞬言葉に詰まるが。
「うーん。お偉方なら、移動先で情報を受け取って、その場で行先を決めそうな気がするよ?」
シャルはそれより別の視点でものを見た。
ここまでの拙速具合なら、確かに軍の上層部は速度を最優先しそうな気がする。
3人はその後も少し喋っていたが、すぐにベッドに横になる。
明日もきっと、長い一日になる。
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