ダルムシュタット奪還戦(下)
「地上は順調みたいですね」
「こっちだって順調だろ?」
現在、レイナスがいるのは東門から3㎞ほど離れた場所の、地下。昨日、この下水道を探索したということで強襲部隊の案内役を仰せつかったのだ。他の者、リチャードやスティーヴらも別の強襲部隊を案内すべく、別行動をしている。
リーゼとレイナスは上を見ながら、索敵術で戦況の推移を確認していた。シャルは理力節約のため、休憩している。
通常の索敵術では使用者中心の円を描くような形で索敵を行うのだが、リチャードとの会話からヒントを得たレイナスたちは索敵術の方向性を持たせ、4~5㎞先まで見通せるようになっている。さらに索敵方向を回転させる事で360°全域をカバーする。それがリチャード式広域探査の秘密だった。
見ることが出来たとしても、敵の配置とその数が減っていく様を感じ取るしかないのだが、それでも順調に数が減っていくことから、戦況がこちらに有利であると把握していた。
「また出ました!」
「了解!」
そうやって戦況を確認しながら待機していると、周辺を≪音響探索≫で警戒していた者が警告の声をあげた。
その声に防衛担当者は腰を上げ、「実験体」が出現した場所を探る。
≪音響探査≫は周辺に理力波を放ち、その反射で敵の位置を探る索敵術である。正確には音とは違うのだが、それに近い性質を持たせているのでこのような名前である。
「実験体」は通常の魔力や理力を探知する方式では見つからないものの、動きが緩慢なうえに隠密術を使っているわけでもなく、今ではただの的にしかならない。人間の姿をしているとはいっても、救う手段もなければ助けようという余裕もない。よって、「実験体」は遠距離からの狙撃のみで処分される。
遠距離というのは、生体爆弾が混じっていることを懸念して、そのような処分をしている。強襲型の死体が黒玉を出した時、半径7~8m程度、死体からの距離で言えば2m未満が「絶対に生き残れない距離」となる。あれよりサイズの小さい「実験体」がどの程度爆発するかは予測がつかないため、安全策として最低200mは離れた場所から射撃で仕留めることが義務付けられていた。
慎重に事を進めているが、これはしょうがない。「今まで見た実験体が生体爆弾ではない」ことと「次の実験体が生体爆弾であること」は関係ないため、気の抜けない状況が続いているのだ。
「お、戦況が動いた」
「光姫と戦騎が壁から降りましたね」
壁の上という高所を破棄せざる得ない状況に移り変わったところで、レイナスたちは立ち上がる。
索敵手の報告に、地下の強襲部隊は肉食獣のごとき笑みを浮かべた。
「ようやく暴れられるか」
「いえ、もう1分ほどお待ちください。都合良く、敵は部隊をまとめて動こうとしています。ほどよく塊ができたところをまとめて頂く方が、効率がいいです」
地下でじっとしているのは、正直なところ面白くない。仲間が戦っているというなら尚更だ。
ようやく暴れられると嬉しそうにしたところ、出鼻を挫かれたので強襲部隊の隊長は面白くなさそうな顔をした。
「それまで、友軍は持つんだろうな?」
「大丈夫、ですね。1分どころか5分は余裕で持ちそうです」
作戦上、待てと言われて待つのは構わない。ただし、それは仲間が無事だという保証があってのことだ。仲間の犠牲を許容してまで作戦に従う気はないと、目で隊長は語る。
それをいつものように受け流すでもなく、真正面からレイナスは切り返す。命を懸けて戦う仲間を無駄に危険にさらす趣味は無い。無駄でなければやるのだが。とにかく、今は仲間の反応を感じる限り、大丈夫そうと結論付けた。
少し睨み合っていたが、隊長が折れた。仲間を信じることにしたのだ。目の前のレイナスと、地上で戦う者たちを。
その後、地下の強襲部隊は地上に躍り出ると先に戦っていた地上の部隊と合流。一気にヴラムを殲滅する。
その戦いの中、レイナスはヴラーナが、なぜ人間とヴラムの融合体など作ろうとしたのかが気にかかっていた。
奪還戦は快勝に終わったが、レイナスの心には暗く重い雲が覆うように、不安や嫌な予感が立ち込めていた。
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