ダルムシュタット奪還戦(表)
日の出とともに行動を開始した軍は、静かにに、だが風のように早く部隊を展開する。
本当なら時の声でもあげ、戦意向上を行った方がいいのかもしれないが、ヴラムにこちらの行動をあえて知らせる義理はない。誇りではなく生存を賭けた戦いなのだ。是非もない。
今回の作戦は、地上と地下からの2面作戦。
まず地上の部隊が東門に接近し、戦う。
敵が東門に集中したら、地下の部隊が地上に出て、その背後を突く。
囲んで戦うのが有効なのは、人間であろうとヴラムであろうと関係ない。生物である以上、対人戦のマニュアルはある程度だが有効だ。対人ではないが、対生物というなら応用で済む範囲だ。
それに、作戦を立て、その通りに流れを進めるのは軍全体の士気を高める。「流れ通りだ」「いける」「やれる」といった思考は、硬直化を受けてはいるが固くて折れず、都合がよい。逆に作戦が崩壊したときなどは脆いのだが――そこは「上手くやる」のが戦闘指揮官の腕の見せ所でもある。ここ最近を見れば、軍の戦闘回数は激増している。規模の方も大規模になり、練度も十分。不安材料は少ない。
今回の敵の数は約12000匹。
軍は約3000人であることを考えれば戦力比は4倍。
ただし、その3000は5万を打ち破った5000のうちの3000だ。
予想では損失は100以下で終わるだろう。
そしてその予想は現実となった。
朝の7時を回ったところで、戦闘は開始された。
予定通り東門を攻め立てた部隊は門の上を占拠、高所からの一方的な蹂躙劇の始まりである。
ヴラムの側も近場から登ろうとするが、これはすべて狙い撃ちにされる。ヴラムの方が数が多いとはいえ、それはダルムシュタット全域を見た時の話だ。時間単位でみれば、最初の10分の間に門で戦ったヴラムの数はおおよそ1000匹。地上部隊だけでも数は互角で質がかなり上とあれば、些細なミスならフォローができるし、何より精神的な安定感がある。大討伐では軍を蹂躙してきた強襲型も、高所からなら難なく倒せた。……あのヴラムで危険なのは、どうやら脚だけらしい。
時間がたてば、余所から大回りして壁の上まで上るヴラムも出てくる。
同じ高され戦うといった場合、敵の射撃というのは回避が難しくなる。なにせ、自分が躱しても、その後ろに仲間がいるかもしれないからだ。そうなると迂闊な回避行動ができなくなり、防御して相殺が基本になる。相殺は理力の消費が重く、消耗戦は軍には不利だ。数の差はこんなところで足を引っ張る。
ならばどうするか。
高さを捨て、街に降りる。レイナスもやったように、それが数少ない正解である。
部隊単位で散らばり、あらかじめ決めてあった場所で戦う軍に、ヴラムも散開して当たる。
このころになるとヴラム側も数の利を活かそうと、ある程度まとまった集団を形成してから攻めてくるようになった。
時間単位でみれば、街に降りてからの10分で2000匹近い数を相手にしなければならなくなった。とはいえ、家などのがれきをうまく使う事で多数を一度に相手することはなく、殲滅速度は落ちるが堅実に数を減らしていく。
地下の部隊が動いたのはこのころだ。
味方が高所を維持できなくなったのを確認すると、予定していた場所から一気に躍り出る。
殲滅速度が落ちたことで、東門付近は3~4000匹の一大集団が形成されていた。当然のように指揮官型が指揮を執っているので敵サイドに混乱はみられず、軍と同様にある程度は理にかなった行動をとっていた。つまり、塊で動いている。
これを好機とばかりに、味方を巻き込まないよう地下の部隊は≪薙ぎ払え≫で一気にヴラムの数を削る。
地下の部隊が参戦したことで数の均衡はあっさり覆る。≪薙ぎ払え≫で2000匹まで削られたヴラムは2000人の軍に、あっさり殲滅されることとなった。
過半数が殺されたヴラムではあるが、その戦意が落ち込むことはなく、最後の攻勢を仕掛ける。
人間の軍のように潰走されないので、叩き潰す側には非常に都合がよい。
最終的には大通りに集まろうとしたヴラムに≪薙ぎ払え≫を中心とした大規模殲滅用の光術を使い、生き残ったヴラムを掃討して奪還作戦は成った。
終わってみれば戦闘時間は約1時間。
実に簡単に、ダルムシュタットを奪い返せたのであった。
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2014年3月21日 誤字修正
× 見方が高所を維持できなくなったのを →
○ 味方が高所を維持できなくなったのを




