ダルムシュタットの夜
偵察から一夜明けてすぐ。本隊が合流した。
偵察部隊と違い補給物資を持っての行軍だったため、1日遅れたのはしょうがないことで、むしろ4日でアイレンからダルムシュタットまでを移動したのは無理をしての事だっただろう。普通なら5日かかるのだから。
リチャードは合流して早々に報告書を提出し、仮眠に戻った。
報告書を見た上層部は「人間とヴラムのキメラを発見。未確認だが、最悪生体爆弾の危険性あり」という一文に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
しかし、結局やることは変えない方向で話は進んだ。地下と地上の2面作戦。ダルムシュタット奪還作戦は翌日の朝、レイナスたちから見て半日の休憩を挟んで行われることになった。
休憩に入り、皆が寝静まった夜。
シャルはレイナスのテントを訪れていた。同じテントにスティーヴと他2人がいたが彼らは起こさないように、シャルは外からレイナスに光術を使った。
起こされたレイナスは索敵術でシャルがいることに気がつくと、外に出た。シャルがこのようなことをするのは珍しく、レイナスの顔には疑問が浮かんでいる。
「レイナス……ちょっといいかな?」
「……ああ」
二人並んで夜の森を歩く。
一応、周辺の警備を行う名目である。そうでもなければ決戦前夜にこのような行動が許されるはずもない。
「私たち、生き残れるよね」
「勿論だ。ダルムシュタットの奪還までは、ほぼ確実にうまくいくだろ」
「その後は?」
「その時になるまで分からないな。相手がどれだけの戦力を残しているのか。どんな戦力を残しているのか。まったく分からないから、生き残るために最善を尽くすとしか言えないよ」
「そっかぁ」
シャルはレイナスの曖昧な答えを聞くと、夜空を見上げた。
森といっても木々がまばらで、見上げた空は広い。
空は雲ひとつなく、星明かりが地を照らしている。
シャルの足が止まり、レイナスはそれにあわせる。
シャルの表情は儚げで、レイナスにはどこか現実味がないようにも感じられた。
「ねぇ、お願い、いいかな?」
心配そうなレイナスに気がつくと、シャルは両手を後ろに隠して笑いかけた。
いきなり変わった表情に、レイナスは虚を突かれた。
「私の名前を、覚えていてほしいの。だから、聞いて。私の事を」
そこで一度、目を閉じる。
この名乗りを上げるのは、本来ルール違反だ。学院でもごく一部の人間しか知らない秘密を打ち明ける覚悟をシャルは決める。
「私の名前はシャルロッテ=グル=エルグライア。シャルロッテ=“ウェスペリーナ”=グル=エルグライアになれなかった出来損ないの第3王女。英雄の血を――」
「はい、そこまで」
最初の名乗りまでは呆然としていたが、次第に自嘲の混じる独白に変わっていく台詞を、レイナスは止めた。
台詞を止めるためということで、鼻を抓まれたシャルは抗議の声を上げようとするが。
「名乗りは聞いたし覚えておく。後半の、ツマラナイ台詞はいらないだろうが」
若干ではあるが、レイナスは怒っている。
シャルは大切な仲間で、1年以上一緒にやってきたパートナーだ。自嘲とはいえ、貶められるのを黙ってみている趣味はない。
お説教のひとつでもしたくなるのは当然だろう。
「家名がどうとか、血筋がどうかは関係ないだろ。少なくとも戦場じゃあそんなものに意味がない。これまで一緒にやってきた仲だろう? 細かい話は全部横においてさ、『みんなでがんばって生き残ろう』。それだけでいいじゃないか」
怒りつつ、呆れつつ。
シャルの鼻を抓んだままで、レイナスは言葉を重ねる。
言われた台詞に「いい雰囲気」と考えてしまったシャルだが、自分が鼻を抓まれたままと言う事に気がつき、あわてて自由を取り戻す。
「ほれ、そろそろ戻るぞ」
そういってレイナスはシャルの手をとり、野営地に戻っていった。
シャルは抗議するが、あまり大声を出すと巡回中の他の者に何かあったと思われるかもしれない。
本人は不服そうにしているつもりだったが、その表情は少し笑っていた。
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2014年3月21日 誤字修正
× 血筋がどうかは何系ないだろ →
○ 血筋がどうかは関係ないだろ




