再出撃
「俺たちの扱いが悪いと思うんだ」
野営に準備が終わり、夕飯の時間帯。
レイナスはシャルとリーゼ、スティーヴらと一緒にご飯を食べている。
そこでレイナスは現状への不満を漏らした。
「速攻が有効っていうのは分かるんだ。でも、帰ってきてすぐに出撃とは……ふつう思わないだろう?」
全員が同意し、頷く。
そう。
あの集会で説明された作戦の一つ、逆侵攻は翌日に移動を開始する突発スケジュールだった。ダルムシュタットの様子を知り、速攻を仕掛ければ確実に落とせると上層部は判断したのだった。
結果として5日の距離を4日まで短縮し、着いて早々仕掛けるところまでが予定として組まれている。
ただし、無策というか、偵察もなしで攻め入るつもりはなかったらしく。リチャード率いる偵察部隊は先行し、敵の数を調べておくよう言い渡された。つまり、彼らだけは集会直後の出発を命じられたのだ。手荷物もなく送り出され、食料や水などは前回設営した補給基地の物を使っている。かなり酷い。
人類存亡をかけた戦いではあるが。さすがにこれは無いとほぼ全員が思っている。
「ばーさんが無茶を言うのはいつものことなんだよ。慣れろ」
若手の不満を聞いたリチャードは苦笑しながらたしなめる。横でベルダも無表情ながらもコクコクと首を縦に振っている。
「それに、情報は鮮度が命だ。俺たちが情報を伝えて、動き出すまでにかかった時間はそのまま情報の劣化につながる。今動かなきゃ、アイレンを戦場にしかねんのさ」
今回の強行軍の一番の理由はそこにある。
レイナスは防衛戦を先に考えたが、その場合、前回と同規模であったとしても、アイレンの街中に被害が出る可能性が高い。多くの戦死者を出し、戦力の低下した状況ではしょうがない。これ以上戦力を捻出することはできないし、むしろ今でも無理を通しているのが現実だ。一つのミスが命取りになりかねないほど状況は厳しい。
だからダルムシュタットを奪い返し、防衛陣地として使いたいのだ。
「ま、今回は『下水道』の使用許可もある。前回ほど苦労しないだろ」
表情の硬い若手にリチャードは笑いかける。
今回の作戦では、『下水道』を使って戦う許可が下りている。
『下水道』と聞くと大したことのないものに思うかもしれないが、この世界では自力で作ることのできない建築施設だ。それを戦場にし、使えなくすることを許可したというのは、将来的に大都市として機能しなくなっても構わないという覚悟の現れだ。
ここで負ければ将来などないのだからこの決断は当然のように見えるかもしれない。しかし、二度と手に入らない貴重な宝を捨てる決断は、必ず戦後に非難されるだろう。上層部は英雄であることを捨て、大罪人として裁かれることすら受け入れている。
当然のように、説明した時には悲鳴が上がった。
レイナス自身、正気を疑った。
しかし戦術としては有効だと認めなければ、先に進めないのも事実。
反対意見も感情論のみで合理性を欠き、考え直すよう求める声は対案を出せずに潰された。
そのまま決定は覆らず、今に至る。
「まー、俺たちの任務は戦うことじゃない。情報を持ち帰ることだ。最低限、それだけは頭の片隅にでも残しておけよ」
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