表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

そして姫と騎士が出会う①

 学園都市ハーフェルに、鉄靴(てっか)の規則正しい音が響き渡る。中央大通りを戦騎の軍が行進しているのだ。石畳の通りを重装の戦騎が通れば響き渡る音もあってとてつもない迫力がある。

 大通りの脇では行進を見るため人々が集まり、彼らに歓声を上げている。通り沿いの店舗からは2階や屋上から花弁(はなびら)の吹雪で祝福を行う人もいる。戦う力を持たないだれもが彼らを信頼し、頼っているからだ。

 町の人々にとって戦騎と光姫は誇りであり、憧れであり、命綱なのだ。だれしも戦騎たちには好意的な目を向けている。まれに傲慢に振る舞う者もいるが、そういった馬鹿はすぐに「教育」される。これは我の強い部下を上の意向に忠実に従わせるための別件制裁の側面もあるのだが、規律を保ち周囲からの援助を引き出すための行為でもある。外面はよい方が好都合なのだ。


 戦騎が前列を務め、その少し後ろを光姫が続く。後列には従騎が続き、最後尾に学生たちが並ぶ。パレード用の編成なので住民に判りやすく並べた結果だ。壮観な戦騎に畏怖を覚えさせ、華やかで美しい光姫に憧れの視線を集め、従騎の数に頼もしさを覚えさせ、学生にこれからを期待させる。


 総勢3200名の行進は3ヶ月に一度の恒例行事、ヴラム大討伐の知らせである。

 普段から何かあればすぐに駆けつけヴラムを討伐しているのだが、これは対処療法だ。大討伐はヴラムの巣がある陥落都市『ダルムシュタット』への軍事行動だ。

 ダルムシュタットを解放できないわけではないが、その場合、ダルムシュタット防衛のための人員や予算の目途がつかないのでこうやって定期的に討伐を行い、ヴラムの数を減らしているのだ。

 旧主要都市復興となれば人員や予算の規模はとてつもなく要求される。内部の完全な安全確保(殲滅活動)に加え、都市防壁の復旧、周辺農村の開拓、交通網の整備、都市運営が軌道に乗るまでの食料の確保。それらを行いながらもヴラムに邪魔されないだけの防衛網の構築。人も金も物も、どれだけあっても足りることはない。

 戦騎にとってヴラムの戦闘能力はすでに脅威といえないレベルなのだが、社会的・経済的にはまだ敗北から立ち直れていないのだ。



 だからヴラムの数を減らすにとどまっているのだが、この大討伐にはもういくつかの理由がある。


 まず、倒したヴラムは素材として使える。

 ヴラムの素材を使う事で敵からの索敵を逃れるようにしたり、ダメージを減らしたりできる装備を作れる。ヴラムの中でも上位種と認識される個体は≪光術≫に対する≪闇術(マグス)≫を使う事があるのだが、闇術に対抗できる防具はヴラム素材から作っている。

 また、生活の中でも皮製品や食用肉として流通し、他のものより高級品として重用されている。

 最近は戦騎による騎兵隊を編成するために、騎乗動物を育てる餌にも必要となっている。研究用にも死体は重要なサンプルになり、生きたままヴラムを確保することさえある。


 定期的にダルムシュタットの状況を確認し、異変がないかを察知するのも重要な目的の一つだ。

 今は準備が整わないので見送られてはいるが、いずれは取り返し生活拠点とするつもりなのだから、情報は常に最新のものを使って奪還計画を練り、必要な資材に食糧、人員の計算をしている。

 噂レベルで、あと10年以内に奪還作戦が実行されると言われている。


 他にも、軍事訓練という意味もある。

 部隊単位で実戦経験を積んでいる戦騎たちだが、大規模軍事行動にはまた別の経験値が要求される。勘を鈍らせないため、より効率的に動くため、戦術研究も含めて軍の訓練として大討伐は必要なのだ。


 あとは小規模になった“はぐれヴラム”を戦騎の卵たちに討伐させて実戦を覚えさせるのも主要ではないが大事な目的だ。

 ヴラムは基本的に集団行動をしていて、最低でも10匹単位で動いている。このままだと“卵レベル”の学生には手が出ないので、大討伐でほんの2~3匹まで散ったところを狙わせている。安全で確実な育英の場として大討伐は有効なのだ。





 パレード最後尾にレイナスはいた。学生としての出陣はこれで5回目である。ほとんど何もできなかった1回目と違い、何度もやってきればコツも、求められるものもわかっている。


 春の大討伐といわれるこの遠征が、レイナスの運命を大きく変える。







 ダルムシュタット近郊で軍は部隊を展開する。

 今いるあたりは近隣では数少ない平原で、軍がまとまって動くに最も適した場所だ。ヴラムの集団を引き付けるトレイン部隊が戻ってくるまで整列し、待機している。

 この戦闘に参加する者のうち、実戦が初めてというのは学生の中でも15歳になったばかりの連中しかいない。学生の参加人数は約600人。そのうち200人と少しが今回初の実戦になる。当然のように本職の戦騎と光姫が何人か引率に付き、彼らを指導する。

 レイナスたちは2年目の経験者なので引率はつかず、ある程度の指示を最初に受け、一定エリアの索敵と殲滅を頼まれる。しかし評価により担当エリアが増減するので、レイナスともう一組が受け持つのはごく限られた狭い範囲しか任せてもらえない。

 レイナスたちは森から離れた川辺の一帯を任された。おそらくはあまりヴラムが来そうにない場所。ヴラムを狩るせっかくの機会ではあったが、指示を順守することだって評価につながる。指示を受けた学生たちは担当エリアを地図で確認し、レイナス達もまた、担当エリアに向かった。



 このあたりは森の中だったが、川の近くは少し開けていて視界が良い。指示でも川の周辺のみで行動するように言われているので、わざわざ森に近寄ったりはしない。一応、気配を探るべく、交替で≪光術≫を使うことになった。

 今は光姫の娘が担当している。


「しっかしまぁ、マジで暇だな、こりゃ」


 レイナスと同室少年、クロスがぼやいた。

 川の近くは主戦場から北に2㎞ほど離れている。ダルムシュタットが主戦場から南東の方なので、ヴラムはまずこちらに来ないだろうと予想された。

 索敵担当から少し離れたところに座った男二人が、肩を並べて小声で会話をしている。


「仕方ないさ。はぐれじゃなくて野良にでも賭けるさ」


 敵が来なければ評価も何もない。主戦場へ正式に参戦する上の連中とは差が開く一方だが、ここで命令違反をするようなら更に扱いが悪くなる。おそらくだが、今回はそういった「命令に服従できるかどうか」を試しているようにレイナスは感じた。

 この従軍訓練だが、たまにこうやって学生を試すような内容の指示が出される。功を焦って命令違反をするかどうかを見ようとするのだ。もし命令違反をすれば、最悪は懲罰房に入れられることもありうる。去年はそれで従騎に落とされた同輩もいて、教訓として誰もがそれを知っていた。


「でもさぁ、野良ってたくさんいるだろ? そんな中に突っ込んだら余計に評価が落ちねぇ?」

「状況次第。一当てして逃げるだけでもいい。めったにない実戦なんだ。とにかく、一回でもヴラムと戦いたいよ」

「ま、本当に運次第だよな。なるようになるって信じるしかないか」

「ああ」


 クロスは天を仰ぎ、空を見る。

 レイナスは組んだ手を強く握り、祈るように目を閉じた。シャルロッテは空気を読んで静かにしている。


 何度か交替で索敵を続けていると、レイナスの番の時、微かに反応があった。

 何かは分からないが、主戦場側からこちらを目指しまっすぐ進んでくる生き物の反応。咄嗟に≪光術≫で聴覚を強化する。


「数は1匹分? こっちに向けて真っ直ぐに来る。警戒を」


 声を抑え、全員戦闘態勢で迎える。

 レイナスたちを目指しているのか、それともただ逃げているだけなのかはわからない。全員が気配を殺し、静かに闘志を燃やす。


 それから少し。がさっという音が聞こえ、森の中から一人の少女が現れた。

 黒髪の、光姫の制服を着こんだ少女だ。左胸の校章の色は青。自分たちより一つ下の新人だ。

 少女が一人で現れたことにレイナスたちはさらに緊張を深める。

 通常、光姫は戦騎をワンセットで組む。主戦場を受け持つ学生であればさらに従騎も付き従っているはずだ。それなのに、目の前の少女はたった一人。彼女の戦騎たちのことを想い、レイナス達は先ほどまでとは違う緊張に包まれる。


「お願、い。みん、なを、助けて」


 目の前の少女が途切れ途切れに助けを求める。自分ではなく、「みんな(戦騎たち)」を助けて、と。

 助けられる命があること、助けなければならない命があることに安堵し決意を固めるレイナス達。まずは目の前の少女の不安を打ち消すため、力強くこう答えた。


「任せろ」

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ