決起集会
レイナスたちがアイレンに帰還して翌日の昼過ぎ。
アイレンにいる戦騎と光姫、ほぼすべてが集められた。
すでに学院とか軍の区切りはなくなり、戦える者は戦わねばならないと一つの組織として再編された。卒業を待たずに軍に入ること自体は問題ないが、かつてそれに焦がれた身として、レイナスとシャルの心中は複雑だった。
リチャードたち偵察部隊が帰還したことを知っている者たちは集められた理由を理解していたが、そうでない連中、たとえば昨日昼間から飲んでいた者たちなどは何が始まるのかと首をかしげていた。
「よく集まってくれました」
レイナスたちが来てから30分程度。
ようやく全員が揃ったのだろう。今後行われる作戦の説明が始まった。
壇上には老女と中年男性二人が登っている。
老女はこの軍の最高司令官で、男性二人は幕僚の中でも特に腕の立つ者で、護衛を兼任し、付き添っている。
そのうち最高司令官が声を張り上げている いや、マイクなどは使っていないが、肉声で、穏やかに声を響かせているのだ。集まった戦騎と光姫は合計5000人をわずかに超える規模。その全体に届く声を、まるで普通に喋っているみたいに聞こえるよう、出している。
「まず、先の戦いで貴方達がしてくれた献身に深く感謝します。800人もの仲間が命を落とした厳しい戦いでしたが、我々は見事勝利を収めました。本当に、ありがとうございます」
老女が頭を下げる。
最高司令官である彼女が頭を下げるというのは軽くない。その意味を全員がかみしめる。
が、もう一つのことを何人かは気にし始めた。
「厳しい戦いを終え、傷も癒えぬ皆さんに、今一度お願いをしなければなりません。先日の戦いはこの町を守るための戦い。我々はあの時確かに勝利しました。しかし敵を率いる将、ヴラーナは未だ健在。陥落都市のいずれかに潜んでいることでしょう。この戦いは、彼奴等を討たねば終わりません。我々は全ての戦いに終止符を打つべく、陥落都市への遠征を決行します」
場にどよめきが広まった。
この遠征を予想していた者もいるだろう。遠征があるかもと、噂話程度に何度も話題となっただろう。だというのに、動揺を隠せない者がかなり多い。
何10年に一度の大規模戦闘。前回は20年前なので、生きてその戦いに参加した戦騎や光姫もいるだろう。だからこそ、どよめきは大きい。陥落都市を廻る次の戦いなど、あと30年か40年はないと有識者たちが言っていたからだ。実際、かつての英雄が残した言葉でも語られるように、人口や防衛力の都合で維持ができないことは明白だったからだ。
「あれだけ倒したんだし、もう大丈夫じゃないのか」「奪還しても維持できるのか?」「戦力は十分なのか? ヴラーナを倒せるだけの戦力はあるのか」などと、不安を口に出す者が溢れ返る。逆に戦意をあらわにする者たちもいるのだが、こちらは少数派で全体的には悲観的な空気が漂っている。
「皆さんの中には不安もあるでしょう。ですが、やらねば生き残れないのです。アイレンのみなさん。アイレンに駆けつけてくれた皆さん。街に残した家族を思い出してください。隣にいる戦友の顔を見てください。もし戦わなければ、それが永遠に失われるのです。目を閉じ、散っていった戦友を思い出してください。彼らが貴方達に残したものはありませんか? 思い出に残るその姿に、背を向けますか? 我々は、今日を生き、明日を掴む義務があります。そのために、今一度、貴方達の力を貸してください」
騒めきに支配された場に、言われた言葉はあまりにもありふれたものだった。
しかし、深く澄んだ声が一つ紡がれるたびに、不安が鎮まっていく。戦意が高揚していく。
騒めきはなくなり、凛とした空気に変わる。
不安と恐怖にかられた集団が、一個の軍に生まれ変わる。
もとより背水の陣というのもあるだろうが、心を決めるきっかけを、それぞれが掴んだ。
その後作戦の概要が説明されるが、その無茶苦茶さに覚悟を吹き飛ばされ阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのだが、やらねば勝てないことを金科玉条に無理やり説得され、他の案は切り捨てられ、半ば呆然とした戦騎と光姫が残された。
レイナスも半ば当たり半ば外れたその作戦に、しばし思考を停止させていた。
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