カフェテリアのコーヒーは苦い
「お前ら! 生きていたのかコノヤロー!!」
「2週間も戻ってこないから心配したんだよ!」
「お前らがいなくて俺たちがどれだけ苦労したか……っ!! 今度飯奢りやがれ!!」
レイナスたちが学生寮に戻ると、それに気が付いた学生らが集まってきた。
心配する者、防衛戦の苦労を語る者、それぞれが一斉に喋りだす。声も大きく一気に騒がしくなるが、自然と仲の良いもの同士でグループができ、各々散って行く。互いに話し合いたいことがあるし、ゆっくり喋るのに立ちっぱなしというのはよろしくない。食堂や、その他座れる場所に喋りながらも歩いていく。
レイナスら3人の場合、一番仲のいいのが一緒に偵察任務をこなしたスティーヴたちである。彼らが他の学生と行ってしまうと、ポツンと取り残される。この辺りは6年以上一緒にいた人間と、アイレンに来て半年も経っていない人間の差と言える。
あとで冷静になった時にレイナスたちを置き去りにしたことに気が付くのだろうが、任務後と戦後の妙なテンションでは気配りできる者がいなかった。苦笑しあい、3人は自分たちだけで打ち上げをやろうと街中のカフェテリアに向かった。
アイレンの街中は100年ぶりの大規模戦闘の後だというのに、活気にあふれ、人で賑わっていた。
これは5万のヴラムを相手にするために各地からやってきた光姫と戦騎たちに感謝を伝えるためのもので、アイレンを守り切った勇者たちへの一般人ができる精一杯のもてなしだ。
5万のヴラムという恐怖を打ち払ったという事実は人々を熱狂させ、このハイテンションへとつながっていた。賑わう街の喧騒は笑い声が多く混じっている。うるさく思うが、そこまで嫌な気分にならないのは人々が幸せそうだからだろう。歓待される者も真昼間からであるが酒の入った杯を交わしあい、大声で笑っている。誰もが今を生きていることを強く実感していた。
普段より5割増しと思える人出の中、レイナスらはようやく席の空いているカフェテリアでコーヒーを頼むことが出来た。
「すごい熱気だよな」
「私たちはこっちの戦いに参加してなかったし……少し場違いって気もしますね」
「いえいえ。私たちも頑張ったじゃないですか、先輩」
「誰かさんのせいで死にかけた気もしますね」
「……お、コーヒーが来たぞ」
「あ、逃げた」
周囲の騒がしさは不快でないものの、レイナスたちを圧倒する熱気がある。これは防衛戦に参加していたかどうかで感じ方が変わるもので、守られるだけとはいえ参加していた側は「熱気を発する側」なので、他の客などには特に感じるものがないようだ。レイナスが気おくれしてしまう理由の半分は肝心な時にこの場にいなかった気まずさなのだが、同じ立場の光姫二人も似たような心情なのでそこにフォローできない。
しょうがないので、偵察任務中にあった誰かさんの無謀を責めて場を誤魔化す。気を使われる側もそれにうまく乗り、小さく笑いあった。
「じゃあ。無事生還できたことに、乾杯!」
「「乾杯!」」
コーヒーカップであるが、互いに軽く当てて一口飲む。
レイナスとリーゼはブラック無糖だが、シャルはミルクに角砂糖一つを使う。一人違う人曰く、「目覚めはブラックですけど、昼や夜は甘くしたほうがいいんですよ」とのことだ。特に夜はミルクと砂糖を使うことで眠気を吹き飛ばさないようにすることが出来るので、重宝しているようだ。
「今度は、私たちも防衛戦に参加するんですよね」
コーヒーを一口飲んだところで、シャルが漏らした。
「ああ、そうなるだろうね」
レイナスはそれを肯定した。
「私は、その方がいいですけどね」
リーゼが目の奥に暗い炎を灯して未来予想に嗤う。
「ま、細かいことは考えず、上の指示を全うすればいいんだけど。俺たち兵士ってやつは」
リーゼの反応を薄目で観察しつつ、レイナスが締めた。
「そうなんですけど……レイナスは、勝てると思いますか?」
「ん? 勝とうとするだけじゃないのか?」
シャルの中には、不安が強く出ている。
レイナスはそれを分かっているのだが、最初に思いついた「勝つには厳しすぎる状況じゃないか?」というセリフを飲み干し、精神論で逃げた。
シャルはその流れに気が付き、不安をより大きくしてしまう。両手でカップを持ち、ちびちびと舐めるようにコーヒーを飲む。温かい飲み物に癒されるが、それでも不安は消えてくれない。
「逃げたところで不利になるだけ。こっちから攻めるぐらいの気概が欲しいところですよね、先輩!!」
不安そうなシャルとは対照的に、リーゼは強く精神論を掲げる。
もっとも、言っていることは間違いではなく、現在アイレンのみが突出して陥落都市に当たれる現状が守りにも攻めにも最適だ。戦力の一極集中をしないと、先の大群のようなヴラムには押し切られてしまう。逃げるという選択肢はなく、攻めなければジリ貧になるのは誰もが知るところだった。
とはいえ敵側最前線のダルムシュタットを落とした場合、残る陥落都市すべてが次の選択肢に入ってしまう。ダルムシュタットを無視した場合、大軍を動かすには少々補給路が厳しいのが現状だ。何ともしがたい地理的な問題である。
「レイナス先輩はこの後どう戦況が動くと思いますか?」
「まず、敵はもう一回大軍を以ってアイレンを落とそうとするだろう? 恐らくそこで新種が多数出てくるはずだ。で、俺たちはそれを迎撃し、返す刀で逆侵攻。ダルムシュタットを奪い返し、そのまま他の大都市に攻め入るんじゃないか? そのあとに攻め入る都市は分からないが、北のブライザッハか南のククスハーベンが候補だろう。間にあるフルダは更にその次のターゲットだ。とりあえず、ヴラーナを殺し門を破壊するまでは気が抜けないな」
自分でもいろいろ考えてみたかもしれないが、やはり考えることが苦手なリーゼはレイナスにそれを依頼する。
安易に要求を呑むのも教育上よろしくないのだが、レイナスは自分の考えを述べる。
レイナスの考えには具体性が欠けるが、大ざっぱな行動方針としては正解である。
敵がこちらに攻めてくる、それも陥落都市に戦力を残して。それはつまり、戦力を分断した状態と言える。これを撃破し、数の減ったダルムシュタットに進軍。撃破の段階で相当数の犠牲が出るだろうが、守りをベースにした戦いのほうが被害は抑えられる。敵が投入するであろう新種の確認も行わなければならないので、よりリスクの少ない戦い方をしなければならない。
現在のダルムシュタットはヴラムの数を大きく減らし攻め時に見えるかもしれないが、それでもこちらのボロボロ具合を見る限りは、街の復興と人の休息が必要だ。そしてこちらの侵攻に失敗されたことで防備はきつくなっているはず。一回迎撃を行い、もっと数を減らした後のほうが確実に戦えるはず。
「持論にそれなりの自信はあるが、持っている情報が正確じゃないから言えるのはこれぐらい」とレイナスは語り終えた。
シャルはその未来にお通夜のような表情になり、リーゼは「一回守ったらあとは攻めるだけですね」とだけ理解した。
レイナスの予想が当たっているかどうかは、神のみぞ知る。
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2014年3月21日 誤字修正
× 数の減ったダルムシュタッ度に進軍 →
○ 数の減ったダルムシュタットに進軍




