幕僚会議
任務完了という事でアイレンに戻ったリチャードたち偵察部隊。
彼らがそこで目にしたのは、崩壊寸前ながらも戦闘を耐えきった都市外壁だった。
「5万のヴラム相手に勝ち越した……さすがだな」
「戦力比って、普段やってる大討伐の100倍なんですけどね。しかも慣れない防衛戦だし。よく勝てたなって思いますよ」
「味方をもっと信用しろ、お前は」
リチャードには周辺のヴラムがほぼ殲滅されていることが認識できている。つまり、アイレンの戦騎たちは援軍の力を借りてではあるが、完全勝利を収めたということ。レイナスも驚く大金星である。レイナスを注意してはいるが、リチャードも内心では「アイレン崩壊も仕方ない」と考えていた。
もっとも、戦闘は相当激しく余裕のかけらもなかったことを指し示すように、外壁は今にも崩れ落ちそうで、形が残っていても補修で済まないかもしれないのだが。強襲型の突進を受けたのか10mの壁の半ばに大穴があいていたり、対人用とはいえ『返し』が完全になくなっていたり、鋼の門が崩れ落ち、バリケードとして再利用されていた。
部隊全員が門のそばまでよると、門の近くでヴラムを警戒していた光姫の一人が気が付いた。
「みぃなさぁーん! 御無事で何よりですーー!!」
門の上から両手をぶんぶん振ってアピールする光姫。顔見知りなのだろう、リチャードとベルダも手を振り返していた。
周辺の警戒はリチャードがやっているが、半径5㎞以内に敵影無し。
全員、崩れ落ちた門の隙間を抜けてアイレンに帰還した。
偵察部隊帰還より3時間後。持ち帰られたダルムシュタットの報告が行われていた。
「――以上です」
「うむ。ご苦労だった。今は戻って休むといい。またすぐに出撃して貰わねばならんからな」
「はい!」
敬礼をして出ていくリチャード。口頭で報告を終えた彼には、これから報告内容を書面に起こす必要がある。休めと言われてもそれができないことに苦笑しながら会議室を去っていった。
会議室に残されたのは、軍上層部の幕僚たち。アイレンは最前線であり、軍で戦騎や光姫を務めてきた幕僚らも集まっている。大規模侵攻などないと危機感がなかったというのもあるが、やはり最前線で得られる最新の情報をもとに戦略を練るのが優先されたからだ。
テーブルを囲む幕僚らは今後の戦略を考えるため、意見を交わし合う。
「大規模な追撃は無いと見ていいですかな?」
「1月。いえ、2週間程度の時間は稼げたはずですわ」
「規模は同じぐらいで2週間、ですか?」
「いいえ。規模は半分以下でしょうが、“新種”が混じっているはずです。戦力的な規模でいえば、今回以上でしょう」
「ふむ……。偵察部隊の報告にあった意見と同じですな」
「……頭の回る子が多いのは嬉しい限りですわね」
50歳ぐらいの男性が喋れば60近い女性が返す。
会話の進行を行うのはその男性だが、話の主導権を持っているのはこの女性。伸びた背筋に穏やかな微笑。品の良い老婆にみえるこの女性が、軍の最高幹部である。
「軍」はこの女性を頂点に、経験豊富な幕僚を加えて意思決定を行っている。「No1が最前線にいるのは」と思うかもしれないが、No2は最後方に控えているので問題ない。他の幕僚たちも交換が可能なように備えている。そのあたりの危機管理はちゃんと行っている。
「まあ、なかなかの読みではありますが、行動が少し重く慎重すぎるのが難点ですがね」
レイナスはヴラムの作戦行動能力を偵察ではっきりと意識したが、ここにいる幕僚らは前々回の大討伐の段階で意識していた。
アイレンが増援を呼ぶ際、大都市の増援にはそれぞれ、進軍ルートの指定と周辺探査を依頼してあった。
結果だけ言えば、増援部隊は大都市を攻めようとしていたヴラムの一団を各個撃破している。1000匹のところから2000匹のところまでと、どこもかなりの数がいたが完全粉砕している。隠密型の支援はすべてのヴラムに渡りきるものではなかったことが大きい。おそらくだが、偵察するヴラムだけに使い、本隊はそのまま進軍していたようだ。残党が少し出ただろうが、あとはただの野良ヴラム。普通に村の常駐戦力などですりつぶすことになるだろう。
レイナスの読みはなかなかのものであったが、幕僚たちはさらにそれを上回る早さで敵の意図を察知し、対応していたのだ。
もちろん、それは敵が用意しているだろう新種に関しても同じことがいえる。
「防御特化、超長距離射撃。運が悪ければ飛行まで対応する準備を進めないといけませんね……」
「あと厄介なのは索敵特化ですな。指揮官型がいるなら、そちらの懸念も捨ててはなりませんぞ」
「前線に砦の建築と言い、準備は大変ですよね」
「全くですなぁ」
予想される敵の一手。
それらに対応すべく、軍もあわただしく動いていた。
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