最悪の未来予想図
レイナスは、今回の騒動の裏にいるヴラーナが、一定レベルの戦術思考をするという仮定を念頭に置いていた。
そのため、今回の偵察で敵のプロファイリングをしようとしていた。
今までの流れをレイナスはまとめてみる。
ヴラーナがこちらに来たタイミングは、大都市から外れた村が襲われた時期よりずっと前でないかというのが。普通に考えれば、村を襲ったのは“試運転”程度の感覚のはずだからだ。村に繁殖施設があったわけでもないし、新種の繁殖はもっと前から、他の場所で行われていたはずだ。
そして、その繁殖施設は大都市跡、陥落都市にある可能性が高い。
前回解放されたアイレンにも、ヴラムの繁殖施設はあった。ダルムシュタットにもあったので、どんな理由があるかレイナスには分からないが、大都市跡がヴラムの繁殖施設を置くのに適しているという考えはそこまで間違っていないと思われる。
そして、ダルムシュタットの繁殖施設が、どのヴラムを増やしているかが問題なのだ。
ヴラーナは繁殖施設というものを使い、そこから成体として生まれてくる。生まれた時から大人なのだ、ヴラムは。
そうすると、強襲型――要するにデカブツ――の繁殖施設も相応の大きさを持つことになる。だというのに、リチャードはそのことに何も言及しなかった。つまり、強襲型は他の陥落都市で繁殖していると考えるのが無難だ。
そしてその考えを推し進めると、今後の戦局にかなりの危険が予想される。
最上位個体の繁殖がここで行われていないとすると、他の陥落都市にそれがある可能性が高くなるのだ。
それらを使えないようにしなければ、今後もあの最上位個体どもが人間を襲い続けることになる。そしてそれをするには奥地まで戦力を動かさねばならず、それが困難であることは明々白々。つまり、敵は安全な場所からこちらを一方的に攻撃できるということ。
要は、ヴラーナは人間で遊ぶことができる余裕がある。
そうなると、敵の考えは前回の大討伐も含めて「こちらが全滅するかしないか、ギリギリを狙った」ものではないかと考えられる。
あれだけの被害を出したが全滅せずに済んだ。しかしヴラムの奥にいるであろうヴラーナには有効な手を打てずにそのまま時間を消費してしまった。
そうなると、敵にこちらの戦力を把握する時間を与えたことになり、こちらがあの大討伐の時以上の戦力を出せないと予測するのは、難しいことではない。
そのうえで、人間で遊ぶことを考えている敵の思考をトレースすると。
自分たちの考えが正しいかを確認するためアイレンに大量の兵を送り込み、その反応で人間側の総力を調べ上げる。
もちろん、アイレン以外の大都市にも常駐兵を残すと考える頭があれば。
アイレンに兵士を送った大都市を攻撃し、その余力を調べ上げることぐらいは思いつくだろう。
隠密型があれば敵が大都市方面に潜入するのも難しい話ではなく、後方攪乱だって簡単だ。
そしてその戦力は、今までの行動傾向からいえば、相当頑張らないと全滅するレベル。数千程度だろうが、安全な場所にいると思っている軍には、かなり厳しい話である。
レイナスはそこで一旦説明を区切る。
そこまでレイナスの話を聞いて、他の面々も得られた情報から自分なりの推論を組み立てだした。
「ちょっと発想が飛躍しすぎちゃうか? 他の都市を攻撃されるとか、難易度高すぎやで? あちらさんにワイらと遊ぶ余裕があるちゅーても、そんな動きできへんやろ。あいつらキホン獣やで」
自分なりの推論を組み立て終わったのか、スティーヴがレイナスの考えに異論をはさむ。
実際問題として、敵地に潜入・後方攪乱を行うには現地指揮官が必須である。隠密行動を続けることで溜まる疲労、それを回復させるタイミングの取り方。ヴラムにそれがあるか分からないが、敵地にいるというプレッシャーを抑え込む指揮能力。いろいろと要求される能力が存在し、防衛網がどうにかしてくれるのではないかとスティーヴは考えた。
「それができるかを確認するためにも街に降りたんだよ」
レイナスが街に降りた理由。
それは敵の指揮能力の確認だ。
前々回の大討伐で初めて指揮官型と戦ったのだが、その指揮能力をレイナスは把握しきれなかった。その余裕がなかったからである。
今回は双姫の加護に慣れていたし周囲のフォローを信じながらの行軍であったため、精神的にも戦力的にも何とかなると思えた。危険な賭けではあるが、実際に戦ってみないことには判断できない類の情報だった為にあのような独断専行に打って出たのだ。
この情報はいつかどこかで必要になると思っての行動。
そして得られた結果は最悪の一言。
「奴ら、遠吠えとか無くても軍隊同然の動きをしてるっぽい。連携もしっかりしていたし、作戦行動もあらかじめ決めてあったことをやってるだけだ。ここにヴラーナがいて、直接指揮を執っている可能性も捨てがたいけど、ここに繁殖施設がないなら他にいる方が可能性は高い。だったら、指揮官型は作戦行動ができるだけの知性がある。そういうことだよ」
「でも、だからと言って他の都市を――」
「アイレンが囮っていうのは「相手がすぐに動かない理由」からの消去法。指揮官型の能力次第だったんだけどね。あれだけ頭を使えるなら、最悪を想定しないとまずい」
「……」
反論を封殺されたスティーヴが押し黙る。
確かにヴラムの軍がアイレンをすぐにでも攻め落とそうとしない理由など、そう考え付く物ではない。
アイレン単独で対抗できない戦力を置き、他の都市を攻めるもう一つの理由は、人類の底力を計るためだろう。おそらく100年前の英雄のような、規格外の戦力がいるかを調べるため。一般の戦騎たちで対抗しきれないような危機であれば、英雄がいるなら出てくるはず。そういう事だ。
もしいなければ、敵の戦力を大幅に削るだけ。
遊んでいるというにしては、ずいぶん慎重な話だ。その点が最初の説明と異なる。
「遊んでいる、慎重に動こうとしている。全部バランスの問題だし? どちらでも構わないって考えかもね。ただ、こっちに英雄がいると仮定していれば、当然切り札も用意してると考えるのが妥当だろ」
レイナスの説明に空気は一層重くなる。
本人はどこ吹く風とばかりに気にした様子もないが。
「どちらにせよ。戻って報告をして。上の判断次第じゃないか? アイレンが無事なら」
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