偵察の結果、レイナスの推論
東門にたどり着いたレイナスらではあるが、正直、理力は3人とも空っぽに近い。体も酷使しているのであまりの疲労感にこのまま寝てしまいたい誘惑にかられる。
だが、背後にはヴラムの群れ。1000匹近いその集団が迫っている。
「このあたりだと思うんだけど?」
「そうですね。でも、もう少し右じゃないですか?」
「このあたり?」
「はい。そこで問題ないと思います」
レイナスたちは門の目の前、観音開きのど真ん中よりやや右にずれた位置に待機した。
3人の表情に絶望感の類はない。どちらかというと、達成感のようなものがうかがえる。
なぜなら、索敵術により――
ズシン、と重く大きく地を揺るがす音がした。
レイナスらの目の前に降り立ったのは彼のクラスメイト。旅の仲間。その数6人が、撤収の支援にと参戦したのだ。
リチャードは囮作戦前に「危なそうなら手を出す」と言っていた。今回はこの場所へ援軍を送る程度でちょうどいいと思われたのだろう。作戦開始前から移動を始めた彼らは、南門近くに待機し、ずっと隠れていたのだ。
レイナスらが来たことに気が付いた彼らは仲間の援護に動き出す。と言っても戦うのは無謀だから、彼ら3人を抱える3人と守りのために障壁を張る3人に分かれて行動している。
全員が全力で逃げの一手に注力し、この場は早々に離れるのであった。
「いやー、さすがに死ぬかと思ったよ」
「いや、普通は死んでるし」
ダルムシュタットを離れ、最寄りの補給基地に戻ったレイナスたち9人。
移動を終えて一息ついたところでレイナスが軽く言った言葉に、撤収を手伝ったチームのリーダーがすぐさま突っ込んだ。
あの時のレイナスの行動は、どちらかといえば非難されてしかるべきものだった。
今回の偵察活動については、別に命を賭してまでやる価値はない。適当に暴れ、余裕をもって撤退する。そちらのほうが優先順位が高い。あんな危険なことをする必要はどこにもなかった。
確かに全員生還し、十分な戦果をあげはした。が、それとこれは話が違う。命令違反の勝手な行動で部隊全員を危険にさらしたことは、軍に所属する予定の人間にしてみれば懲罰を受けてしかるべき内容だった。
「そのへんの説明については、隊長が戻ってからね。隊長の持ち帰った情報にもよるけど、たぶん、かなりやばい」
リーゼ以外の全員から責めるような視線を受け、レイナスは苦笑しながらこの場を誤魔化す。
隊長が戻ってから喋ると言っているし、嫌な気分になりかねない話を何度も聞くのはごめんだとばかりに全員追求をいったん取り下げる。納得できるはずもないので雰囲気は悪いが、レイナスは飄々として何も語らない。1時間はかかるであろう隊長の帰還を全員静かに待つ。
待つ間にレイナスの言う「かなりやばい」の意味を理解してしまった者もいたが、その想像が当たっていないことを切に願っていた。
レイナスたちが補給基地で身を休めること2時間。ようやくリチャードら、潜入班が返ってきた。
全員無事で、装備がきれいなことから、戦闘は一切していないように見える。
「報告の前に少し休ませてもらうぞ」
だが、リチャードたちの疲労は相当溜まっているようだ。切り株にドカッと腰を下ろすと、水を一口二口とゆっくり飲み始める。
他の面々もリチャードに倣い、水分を補給する。夜明けとともに行動を開始したので、時間はまだ朝の8時になるかならないかというところ。朝ごはんは軽く食べているが、もう少し食べても問題ない時間である。
そうやって休憩をとる潜入班であるが、リチャードやベルダは囮の3人と撤退支援をした6人の間にどこかぎこちない空気が流れていることを察した。他の学生も、スティーヴなどが親しくしている者の勘の良さで、同じように状況を把握する。
レイナスと他のメンバーの間に、わずかに不穏な気配があると。
「じゃあ、まずは情報をお前たちにも渡しておく」
しかし、それは致命的でない限り、後回しにしていい問題だ。リチャードは最優先である情報の共有化を始める。
リチャードたちが内部に潜入・偵察をした結果、街のほぼ全域を見ることが出来た。
内部にいたヴラムの総数は約1万匹。正確な数字はともかく、本来いると予想される数字が5~6万匹だったので、現在アイレンに差し迫っている部隊を殲滅できれば、ダルムシュタットの奪還は不可能ではなくなる。
陥落都市はダルムシュタットを入れて4つ。そのうちの一つをつぶすことが出来れば、敵の4分の1を削り切ったといっても過言ではない。いや、敵が戦力を前面に押し出している可能性もあるので、もしかすると半分を削ったことになるかもしれない。
可能性の話は横に置き、都市内部にいたヴラムは既知のヴラムばかりであり、前回確認された上位個体のさらに上の個体――便宜上最上位個体とする――、小型犬のような指揮官型、巨大オオカミの強襲型、ムカデトカゲの隠密型の3種が確認されたが、他はいつもの上位個体や通常個体までであった。
最上位個体のうち隠密型は数が把握できなかったが、強襲型は合計3匹、指揮官型が100匹程度というのが調べで分かった。魔力反応の感覚で視認しなくても種別ができたらしい。このあたりは流石と言う他無い。
説明を一通り受けたレイナスは苦い顔をする。そしてその顔を見た支援班のメンバーはレイナスが最悪の可能性を見つけたようだと身を固くした。
「――という訳だ。何か質問はあるか?」
「はい。未見の新種はいなかった。それで間違いないんですよね?」
「ああ、そうだ」
リチャードの言葉に、レイナスは天を仰ぐ。それを見て不思議そうにするリチャード。思わずほかの面々の顔を見た。
「そろそろ、説明してもらえないかな?」
しびれを切らしたシャルがレイナスに問うた。
ここまで散々焦らされたのだ。潜入班を待っていたメンバーはレイナスに注目する。
「敵の狙いが二つ分かったよ。アイレンの前にいる連中はブラフだ。本命はほかの都市を襲うはずだよ」
その言葉に全員が愕然とした。
特に潜入班は突拍子もないレイナスの発言の思考経路を辿ろうとしては失敗し、なぜそのような結論を導き出したのか説明を求めようとした。
「もう一つ分かったのは、他の陥落都市で“新種”の研究が行われていること、ぐらいかな?」
が、更なる爆弾発言に、沈黙を強要された。
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