囮部隊のデスマーチ
レイナスはシャルを抱っこし、リーゼとともに駆け抜ける。
リチャードの話では、南門周辺に敵はいないはずということだ。例の隠密ヴラムだけは分からないので、それだけは不安要素としてレイナスの頭の片隅に置いてある。
レイナスはシャルをお姫様抱っこ――要は、正面で両手を使い横抱き――しているので、剣を抜くことはできない。しかし、それを一切気にせず3人は南門にとりついた。
ダルムシュタットの外壁は、高さ10mで厚さは5mある。天辺には返しが付けられているので、登って飛び越えるのも難しい。
門の材質は鉄で、内部の機械を使わないと、光術で強化された戦騎が10人20人いても動かすのが難しいほど、重く頑丈だ。
ではどうやって壁を越えるのか。
答えは簡単だ。
壁の天辺にある「返し」を破壊して登る。
壁を壊すのは難しい。
扉だって無理だ。
でも、返しなら、壊せる。
棒高跳びというアイディアもあったが、手ごろな棒を数揃えるのが難しかったので、却下された。
それにレイナスの両手がふさがっているので、選択肢は少なかったのだ。
ちなみに返しが作られた当時は人類が光術を知る前。光術を使えば割と簡単に壊せるが、そうでもしなければまず壊すことができない程度には頑丈だ。強度その他についてはアイレンのそれを参考にしたので、まず間違いないだろうとリチャードは考えている。
壁まであと500mというところでリーゼの≪サテライトキャノン≫が炸裂した。返しは一撃で壊される。
瓦礫が降り注ぐがそれは無視。レイナスとリーゼは縦に並んで壁を蹴り上がる。瓦礫の中でも大きいものは先行するレイナスの腕の中にいるシャルが光術を最小出力で使い、弾き飛ばしながら突き進む。
身体能力を強化された体なら90度の壁10mを駆け上がるぐらい、わけもない。
ほんの数秒で天辺までたどり着き、街を一望できるところに出た。
「これが……陥落都市…………」
思わずレイナスの口からため息が漏れた。
ダルムシュタットはアイレンのスラムよりもなお、ボロボロの建物であふれかえっている。
そして大通りには平然と歩くヴラムの姿。
完全に人の手から離れ、ヴラムの街と化している。
町にいるヴラムは、すべて見知ったヴラムだ。
4つ足の獣型ヴラムがほとんどだが、一度苦戦した小型犬ヴラムも少しいる。中にはあの馬鹿でかいオオカミ型のヴラムも2匹ほど混じっているし、姿は見えないが、多足トカゲもきっといるだろう。
3人が登ったのが南門の近くということで、大通りを一望できるのだが……見える敵の数については、レイナスたちが数える気にもならないほど、たくさん。
この中を駆け抜けるということがどれだけ難易度の高いことなのかを正しく理解したから、レイナスは息を細く長く吐く。心の中の焦りも一緒に吐き出し、冷静な自分を保つ。
「デカブツにちょっかいをかけるぞ。あいつが何も考えずに動けば勝手に被害が広がる。リーゼ、任せた!」
「任されました! ≪サテライトキャノン≫!!」
一当ての対象は巨大オオカミに決め、レイナスは足を武器として強化すると、外壁の返しを適当に破壊しだす。
リーゼの≪サテライトキャノン≫が巨大オオカミを直撃し、倒せはしなかったが、そこは目論見通り。ダメージを与えることに成功する。
シャルはまだ出番ではないので待機中だ。
なお、偵察任務の班はまだ後方で待機中だ。合流はレイナスたちの合図待ちである。
ここまでやればヴラムも反応する。
巨大オオカミは怒りに任せて足元のヴラムを踏みつぶしながら突進する。レイナスたちめがけて殺到するヴラムも多いので、踏まれるヴラムは相当数に達するだろう。計算通りだ。
巨大である分、巨大オオカミ型の移動速度はとても速い。光術で強化した足に自信があろうと、まず追いつかれるだろう。
だが、外壁の上にいるレイナスたちに攻撃を仕掛けるなら遠距離攻撃用の闇術を使うか壁に乗るしかない。前回の戦いを思い返し、闇術はまず使わないと履んだレイナスたちは壁に乗ろうとすると予測した。
案の定、壁の近くまで来た巨大オオカミはジャンプしようと溜を作った。
そこにレイナスは合わせ、剣を持って落下する。シャルが背中に移動したので両手が使えるようになっていた。
レイナスの落下に気が付くも、そのままジャンプしようとする巨大オオカミ。交差する瞬間、レイナスの剣が大きく巨大オオカミを切り裂いた。相変わらず、硬いのは足だけのようである。
切り裂かれた巨大オオカミは途中で力を無くし、壁にぶつかってから落下した。
レイナスら二人は10mの高さから飛び降りたものの、衝撃をうまく殺して壁のすぐそばに無事に落下する。二人が降りて少ししてから巨大オオカミの死体が目の前に落ちたが、風を巻き上げられた以外に被害はない。
レイナスは剣を鞘に納める間も惜しいとばかりにその場を離れる。自身が生餌となることも期待して、壁を再び駆け上がる。
レイナスらが壁の上についてすぐに、直下で大爆発が起きた。以前と同じように、巨大オオカミの死体が爆発したのだ。あの時のように周辺が“食い散らかされて”から爆発した為に、壁にも少なくない被害が出ている。小さいが、人が通れる程度の穴が開いてしまった。また、レイナスらに向かっていたかなりの数のヴラムが巻き込まれて死んでいる。
このわずかな攻防だけで数100匹のヴラムを倒せただろう。
「リーゼ、このまま外壁をある程度移動したらもう一回≪サテライトキャノン≫を。もちろん巨大オオカミがいればそいつを優先で!」
「はい!!」
「シャルは周辺の警戒。こっちは移動と視認できるヴラムへの対処で精一杯になるから、死角から来るやつは任せた」
「任せて!」
二人に指示を出し、レイナスはリーゼとともに駆けだす。
300mほど離れ、そこからヴラムが離れ、レイナスたちを追ってくるのを確認してからレイナスは外の仲間に向けて“合図”を送る。
レイナスがいる場所から東門まで、おおよそ20㎞。
約15分に及ぶ、死の行進が始まった。
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