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偵察部隊、作戦会議中

 夜の闇にまぎれ、森の茂みでガサゴソと音がする。

 ダルムシュタットにたどり着いた偵察隊。

 といっても、都市外郭部から5㎞ほど離れた場所、森の中から様子をうかがっているだけだが。


「これ以上近付くのは難しいな。夜の闇にまぎれたところで、闇はヴラムの領域だ。安心できるもんじゃない」

「森が広がっていないのが悔やまれますね……」


 ダルムシュタットだけでなく、大都市というのは、外郭――つまりは外壁――から5㎞は森を切り開き、死角をなくしている。外部から近付くものの視認性を上げるためだ。今回はレイナスたちが侵入者側なのでそれが不利に働いている。

 ダルムシュタットが陥落してからおおよそ100年経ったというのに、いまだに5㎞の防衛ラインが維持されているのは不思議であったが、今はちょうどリチャードの索敵範囲外という現実のほうが強く突き刺さっている。


「まあ、アレやな。やることは変わらへん、大将(リチャード)の索敵が有効になるところまで近付くだけや」

「それはそうなんだがな」

「具体的に、どう近付くかが問題なんだよ。それに数を数えるのが目的じゃない。中にいるヴラムの姿を見て、できれば能力を把握して。そこまでやらないと意味がない」

「レイナス、そりゃ欲張りすぎやあらへんか?」


 スティーヴの発言にリチャードが呆れ、レイナスが突っ込む。

 レイナスの言う敵の能力の把握こそが、今回偵察に来た最大の理由ともいえる。更なる新種がいるようであれば、それはぜひ能力を調べないと、今後不味いことになる可能性が高くなる。前回のような、100人単位の死者が出る戦闘というのは、是が非でも回避したいというのがレイナスらの思いだ。

 ただ、それで死んでしまっては意味がないのでスティーヴはストッパー、安全管理役として「欲張りすぎ」と忠告している。

 リチャードはリーダーではあるが、最終的な決定をするリーダーであり、最初の問題提起以外はあまり口を挟まない。ギリギリというほど待つことはないが、ある程度は部下の自由意思を尊重してくれるのだ。


 しばらく学生らによる作戦会議が行われる。無茶な意見から慎重すぎて動けなくなりそうな意見、それぞれがリスクとリターンを秤にかけて主張しあう。

 最終的に、結論として次のようにまとまった。


「見つかるのは前提として、南門から潜入します。一当(ひとあ)てしてそのまま撤収を基本とします。戦闘で目立つ班を作って、目立たない、本当に情報収集のみを担当する班を隠す方向で行きたいと思います」

「こりゃまた無茶で無謀な意見が出たな、おい。一当てして撤収ってことは、残りは躱していくのか?」

「はい、挑み戦うのは最初の一戦のみです。そのあとは戦闘を極力回避、東門まで止まらずに逃げ切ろうと思います。どうしても戦わねばならない時以外は戦わないようにしないと、理力が持ちませんから」


 レイナスが代表して説明するが、リチャードは思案顔だ。

 この流れならリチャードが情報収集班を担当し、もう数人ほど護衛にもらうだろう。そうして戦闘という危険度の高い仕事を学生だけに任せることに躊躇しているのだ。


「うーん、で戦うのは誰がやる予定だ?」

「俺がやります。スティーヴは隊長の護衛を任せたいので、次点で俺が動くのが、一番生存率が高いです」

「俺が――って。お前の光姫はどうするんだ?」

「別行動です。完全に単騎駆けのほうが、いざという時に潜伏しやすいので」

「却下だ却下。予備戦力、援護要員もなしに戦わせられるか!」


 レイナスが一人戦う場合、双姫の加護もあって最大戦闘能力と考えることができる一人ではある。

 が、その分の負担を考えれば素直に頷ける筈もない。

 単騎駆けではすべてを一人でやらないと拙い。つまりは遠距離攻撃もこなせないといけないわけだ。近距離特化型と言って差し支えないレイナスを使うのは、無謀だとリチャードは判断した。


「では、他にどのような人がいれば許可をいただけますか?」

「最低でも遠距離能力に優れたものが一人。索敵に専念し、周辺への警戒をするものが一人。お前と同じく近距離の得意な者がもう一人欲しいところだな」


 レイナスの切り替えしにリチャードは「最低ライン」をぱっと答える。

 が、そこでしまったという顔をした。逆にレイナスはわずかだが笑顔を浮かべる。


「では、俺の光姫二人が加われば、問題は無いわけですね」

「オイコラ、そこは3人追加しろよ」

「俺がこのメンバーの中では3位なんですよ、索敵術。なので、それ以下を入れる意味はあまりありません」

「なん……だと!?」


 正確には、索敵術の中でも空間把握に限った話である。これに関しては隠密行動が得意な新種ヴラムへの対策があるので、間違った話ではないのだが。一部の言葉を削って嘘を言わずに騙すテクニックである。後でバレれば絞られることになるだろう。

 その前に許可を得るための最低ラインを提示させたところから含めて、レイナスのほうがリチャードよりも交渉に強いことを示している。


 戦闘能力のみならず、言葉の勝負でも勝てないことを理解させられたリチャードは大きくため息をつく。偵察能力と逃げ足ばかり鍛えてきたリチャードは、久しぶりに舌戦に慣れておくべきだったと後悔した。

 これ以上は無駄だとばかりに許可を出す。


「言っておくが。生存し帰還することが最優先だ。いざって時にはこっちにいる全員でフォローしてやるからな。覚悟するように」


 「ミスったら全滅だぞ」と言外に含ませ、リチャードはレイナスを睨む。

 レイナスは柳に風とそれをスルー。

 やはり舌戦では勝てないとリチャードは思い直し、作戦決行を翌日早朝、太陽が昇ってからに決める。



 夜明けまで、あと5時間といったところだった。

読んでいただきありがとうございます。

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