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偵察部隊、出発

 レイナス達学生が敵の本拠地への偵察を許可された理由はいくつかある。


 一つ目は、ヴェロニカの推薦。彼女の言葉には一定の重みがある。本来ならその有効性などより将来重要になる戦力を失う可能性というデメリットで即却下される提案が一応でも審議されたのは、彼女への義理立てに近い。

 二つ目は、軍上層部も敵の増援を危惧していたこと。考えとしてはあってもそれに対処する能力がないこの状況下、次善の策を『選ぶ』ためにも情報が必要だった。知らずにいれば出てこない選択肢が見えてくることを期待してしまったということ。

 三つ目は、最悪(・・)の想定でも生き残れるであろうスペックの持ち主であったこと。学生とはいえ、何人かは総合評価Aだ。つまり、普通の現役戦騎よりは腕がいいということ。また、偵察とは直接戦闘を必要としない任務という事もあって、軍としての連携行動を求められない。その中では総合評価で測れない経験を持つ現役よりも、学生の方が使いやすいとなる。なにせ、敵の行動次第ではアイレンが先に滅ぶ危険もあるのだから。彼らならその後も生き延びて、他の大都市に合流できる可能性が高いという事も考慮された。一緒に戦うより、別に動かした方が心情的に逃げやすいのではないかという期待だ。


 ヴェロニカが一緒でないのは、レイナスが別行動であれば生き残るために逃げてくれるだろうという願望もある。少しでも敵の数を減らすのなら本隊で戦わせたいし、アイレンが落ちても生き残って戦い続けてほしいと思える人材だからだ。ヴェロニカも上層部の考えに同意し、自分の生存と戦闘の継続を約束している。



 以上の理由から、レイナス達は偵察任務に就くことになった。

 これが今回の戦争の、一つのターニングポイントとなる。





「隊長。行軍準備、完了しました」

「おう、じゃあ行くぞ」

「「「了解!!」」」


 レイナス達学生30人に偵察任務を何度も経験しているベテラン戦騎と光姫の2人を隊長に加え、偵察部隊はアイレンを発った。

 気合の入った学生を見て、隊長――リチャードは苦笑する。


「おまえら、少し気を緩めろ。そのうえで油断するな。気を漲らせてると、簡単なことに躓くぞ」

「「……はい!」」

「何人かはまだ分かってねーな」

「(フルフル)」


 リチャードは学生たちに何と言えばいいか困り、光姫(パートナー)を見る。彼女は無言で首を振り、無理だと伝える。リチャードのパートナー、ベルダは喋る事が出来ない。偵察任務では無意識に声を漏らすことがない彼女のマイナスはプラスになりうるとして、このような任務に就いている。ちなみに通常戦闘では声を出すことによる状況確認、連携は基本なので喋れないのはマイナスでしかない。


 偵察任務では身軽であることを求められるが、必要物資――主に食料と水――を持っていかないわけにはいかない。

 事前に決めておいた場所に補給基地を作り、そこに物資を隠しておく。補給基地は1日分の距離ごとに数ヵ所用意し、部隊内のグループごとに使用優先順位を決めて仲間内の奪い合いを減らし、ヴラムに荒らされた時のリスクを減らす。

 移動先のダルムシュタットまでは補給基地を作りながらで8日、全力で帰還しようとすれば3日の行程である。

 補給基地を作りながら行く理由は現地で荷物を持たずに行動するためで、調査中や帰りに補給基地に立ち寄れば、1日2日は安心できるだけの食料と水を確保できるという寸法だ。もちろん、いざというときは現地調達ができるように水場や食用動植物についてのレクチャーは受けているが。


 なお、移動速度に関しては、全力移動が1日100㎞程度である。戦闘などを行いながらでは50㎞も進めればいいほうだ。



 移動開始から6日目、野営の最中。そろそろ敵の密度がきつくなってくるところで学生の一人が隊長に質問する。互いの実力を把握しておくのは基本だったのだが、聞いたのは戦闘能力ばかりで索敵範囲という分野においての実力はちゃんと確認していなかったのだ。


「ところで……リチャード隊長の索敵範囲って、どれぐらいですか?」

「んー? 調子が良ければ、5㎞? 空間把握も500mは見えるぞ」

「……は?」


 通常の索敵範囲は広い人で2㎞を超えるかどうか。空間把握は50mでも異常といわれるレベルである。


「その代わり、通常戦闘は弱いぞ? お前らの誰にも勝てない自信がある」

「いやいやいやいや、そんなのどうでもいいですよ!?」


 一点豪華主義でも、聞いたことがないレベルであった。

 もともと、通常戦闘の方が花形で、偵察任務というのは狩場を決める下準備以外、全く日の目を見ない。

 能力的にはともかく、仕事的には地味で裏方の人だったため、学生たちに情報が回ってこなかったのだ。また、あまりに規格外すぎて参考にならないということもある。

 リチャードはレイナスたちの常識の外にいる人間だったのだ。


「ちなみにベルダは自動警報(アラーム)でヴラムを常時警戒しているぞ。そっちの範囲は1㎞だが、重宝する光術だから今のうちに教わっておくといい」

「……ちなみに、その光術を覚えた人って、今までどれぐらいいますか?」


 嫌な感じがしたので、学生は一応聞いてみる。


「あー。大概の奴は途中で諦めるな。3人だったか、モノになったのは?」


 リチャードのセリフにベルダは指を4本立てる。


「4人らしい」


 そのセリフに、学生はがっくりと首をうなだれた。やる前から心が折れたらしい。



 この話を聞いたシャルが後ほど挑戦してみるが、使えるようになるまでは相当かかりそうだと難しい顔をしていた。

 戦地前で消耗するのは許されないので、特訓は許可されない。


 偵察隊は、それぞれ体を休めるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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