目に見える脅威
まず、それは「毎日ヴラムが来る」ことから予想できることだった。
また、先ほどの場所に多くの戦闘要員がいたことも、気にしなければいけないポイントだった。
「なんでアイレンの近くで迎撃するんだ?」と。
ヴラムの軍団。
100匹や200匹ではない。
1000を数えてなお足りない。
万を数え、ようやく足りる。
その数、5万。総数はわからずとも、学生たちに冷や水を浴びせるには十分な数だった。
索敵術を使えば、マーカーだらけで視界が染まるほど。
学生たちはこの異常事態に戦慄する。
「さすがに……こらワイらの手に余るわ」
「同感だ」
スティーヴと他の戦騎が呆然としながら、絶望をこぼした。
レイナスをはじめ、他の者たちも何を言えばいいかわからなくなっている。
ただ、圧倒されるばかりであった。
「レイナス、まさか何かしようなんて考えてないわよね?」
「……ヴェロニカ」
「今のレイナスにできることなんてないわ。後退の準備をしなさい」
呆然としていたレイナスたちのそばに、いつの間にかヴェロニカがいた。
ヴェロニカはレイナスたちが言われたとおりに後退をし始めたのを確認すると、≪薙ぎ払え≫でヴラムを大きく削る。彼我の距離は1㎞と少し。≪薙ぎ払え≫は1.5㎞ほどを狙って撃たれたために、前列を大きく削ることになる。推定される戦果は100匹以上。相手が密集しているからこそ出せる被害だ。
一部のヴラムが突出し、東、アイレンのほうに向けて行動を開始する。
ヴェロニカはそれを無視し、南に大きく移動。やはりヴラムの軍との距離が1㎞程度のところに移動し、≪薙ぎ払え≫を使う。再び100ほど数を減らす。
ヴラムは先ほど東に向けていたものの半分以上と軍の中のまた一部が南に向けて動き出した。
ヴェロニカはやはり相手にしない。今度は東に向けて、撤退を開始する。
その後ヴェロニカは、ヴラムの軍本隊と東に向かった部隊の間で少し暴れ、相互の連携を阻害するように動く。本隊と別働隊の距離が2㎞3㎞離れてしまえば遠吠えなどによる連携はうまく取れない。無論ヴェロニカの存在はバレているが、それ以上の情報を相手に与えないのが主任務なので特に問題はない。
あとは別働隊を他の戦騎や光姫が潰せばヴェロニカの仕事は終了である。
現在アイレンの軍は、敵軍の間引きを継続して行っていた。
「説明するから、集まりなさい」
アイレンの西門まで戻ってきた学生らは、そこでヴェロニカを待っていた。
彼らは30分ほど待っただろうか。しばらくするとヴェロニカが戻ってきた。大量の戦果のごく一部を持って。
ヴェロニカは軍の上層部から、彼らに状況を説明し口止めと協力の要請をする決断を下した。
ヴェロニカはあまりいい顔をしなかったが、知らないところで無茶をされるよりはとこれを了承。説明役を買って出たのだった。
「まず、アイレンより西はヴラムに蹂躙されたわ。8日前のことね」
ヴェロニカが20匹のヴラムを見つけてから翌日。西の開拓村へ物資を送り戻ってくるはずの部隊が来なかった。
軍はこれを調査すべく、西へ向けて調査隊を送った。
調査隊は1日西へ移動し、開拓村との間にある宿場町で一泊し、その翌日、見たのだ。ヴラムの軍を。
調査隊は戦力不足を理由に即時撤退。宿場街の住人約500人も連れてアイレンまで戻ってきた。アイレンの城壁内はまだ人を受け入れるスペースがあったので、この500人についてはそのまま受け入れ可能だった。少ない人口に助けられた形だ。
そしてヴラムの軍団はアイレンまで20㎞のところへ陣取り、そこでちょっかいをかける人間を迎撃する以外のことをしなくなった。その行動原理は完全に謎である。
「それで私が遠距離から一撃入れ、少数をおびき出してはみなで殲滅していたのですわ」
そうヴェロニカが締めくくると、学生の間には重い空気が流れた。
口止めされなくても、こんなことは言えない。町の住人の噂になればパニックは必至である。
アイレンは次の陥落都市を開放するための最前線だ。軍は2000人の防衛兵を置き、うち1000以上を攻撃に派遣できる体制を整えている。
軍としてヴラムが戦うことは今までなかったのであまり正確な数字にならないが、ヴラムの小さな群れ程度と戦騎たちの間には、人類有利で1:7に近い戦力差がある。上位個体に限定すれば1:3といったところである。遠距離戦も含めて考えれば、今の戦力だけで1万までなら普通に勝てるだろう。
個人で戦えば一般的な戦騎とヴラムの上位個体はほぼ同格。これが軍で戦う有利さである。
だが、推定5万近いヴラムに勝つのは、はっきり言えば不可能だ。学生たちが絶望に染まるのもしょうがないといえる。
壁などの地形補正を使っても、2万が限界だろう。幸いにも増援を頼むことができたので、他から友軍が来る手はずになっている。アイレンが再び陥落すれば次は自分の番かもしれないと、どの大都市も必死で戦力をかき集めた。もちろん、それを維持する物資も同様だ。
この増援に関する情報はヴェロニカも持っていないので、レイナスたちの知るところではない。よって、通夜のように暗い雰囲気のままである。
ヴェロニカや軍が奮闘しているが、今のところ、1日に1000匹ほど削るのが限界だ。あと50日で全滅という計算だが、計算通りにいくとは限らないし、なによりそれまでヴラムが大人しくしてくれる保証はない。総力戦に持ち込むまでに何らかの勝機をつかみたいところではあるが、これと言って他に有効な手があるわけではない。
やれることが無いとは言わないが、完全に、手詰まりだった。
ここで朽ちるとも、と、奮闘するが精一杯なのだ。
状況を全員が呑み込み、誰もが動けずにいる中。
レイナスは顔を上げ、ヴェロニカを見てから「パン!」と手を打った。
「やれることをやるしかない。やれるだけやるしかない。だったら、最善を尽くすしか、無い」
自分に言い聞かせるように、レイナスは言う。
その言葉に少しは感じるものがあったのか、他の学生もゆっくりとだが覚悟を決めていく。
説明を終えてから口を閉じ学生らを見守っていたヴェロニカも少しばかりあった緊張を解き、レイナスに向かってほほ笑む。言葉はなくとも、感謝を示しているのだ。
そんなヴェロニカに笑い返し、レイナスは宣言する。
「勝って、生き残るぞ!」
「「「応!!!!」」」
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