シャルの不安
シャルは一人焦っていた。
レイナスとリーゼはすでに自分の進む方向を定め、そのための訓練をしている。二人の才能は疑うべくもない、一人取り残される不安をシャルは感じていた。
やるべきこと、進むべき道の見えないシャルがとった選択は「基礎能力の向上」。すべての土台である基礎能力を押し上げ、あらゆる方向に対応できる土台を作ろうというのだ。
理力以外には問題のないシャルの基礎ステータスは、これ以上押し上げるのが難しいレベルに到達している。
それを理解したうえで、シャルはひたすら訓練に励む。
無様を見せたくないからとたった一人で郊外に赴き、黙々とメニューをこなす日々。僅かばかりではあるが効果があるのが救いだろう、ゆっくりと前に進めてはいた。
……焦る気持ちはそれよりも強く膨れ上がっていたが。
「あら? あなたは一人で訓練ですのね」
「ヴェロニカさん……」
そうやって訓練していたシャルを見つけたヴェロニカ。
ヴェロニカはアイレンの周辺警戒を自身に課していた。シャルを見つけたのはその最中である。
「わざわざ町の外まで出なくても良いのではありませんか? 他の人と訓練したほうが、修正したほうがいい部分を見つけやすくなりますわよ」
「いえ、今は一人のほうが集中できるので、問題ありません」
ヴェロニカは経験をもとに、善意でシャルに他の人と合流するよう勧める。
シャルはその申し出を受ける気にならず、躱そうとした。が、言葉の中に含まれた弱気をヴェロニカは見逃さなかった。
「貴女は、レイナスのパートナーを続けるつもりですわよね?」
「え、ええ」
「許可できませんわ。初めて会った日の貴女なら構わないと思いましたけど、今の貴女にレイナスのパートナーは相応しくありません。辞退しなさい」
「なっ!!」
突然というほど突然ではない、ヴェロニカの通告。それにシャルは驚いた。
そして反論しようとして――何も言えず、口をつぐむ。今のままでは足手まといになる、そんな考えがシャルの中にあったからだ。
これまではレイナスとシャルは対等だった。互いに支えあうパートナーとして、胸を張れた。
リーゼが来てからバランスが崩れた気もする。それでもシャルは双姫の加護を抜きにしても隣にいることができた。リーゼ一人ではレイナスを支えきれなかったからだ。双姫の加護という理由に加え、リーゼの未熟さ。このころのシャルには、まだ自信があった。
そして今。リーゼと二人で訓練するレイナスを見てシャルは思う。
「自分に価値はあるのか」
と。
無論、双姫の加護はシャルの存在を前提としている。だが、シャルはレイナスの隣にいられる理由をそれだけしかないと思うようになっている。
リーゼは成長した。それを大討伐で示した。今も成長を続け、先輩としての立場などとうに無くなっている。
ヴェロニカもいる。戦場で彼女が隣に立てば、たいがいのことは何とかなるだろう。それに彼女は幼馴染だ。パートナーとしては申し分ない。
そうなると、双姫の一人であることだけがシャルの価値であり、かつて望んだ正しい意味でのパートナーとしての自分が、どこにもいないように感じられてしまうのだ。
沈黙したシャルを見て、ヴェロニカは不機嫌そうに眉をひそめた。
シャルを見る目は厳しい。今までは障害物だったのでそれなりの敬意を持っていたのだが、それがなくなり路傍の石ころを見る目に変わっている。
相手に興味を無くしたヴェロニカがここに留まる理由はない。シャルに背を向け、さっさとこの場を離れようとした。
が、最後に一度振り返り、一言だけ言い残す。
「基礎はすべてに影響を与えますわ。伸ばすのは決して間違いではないの。成果が出ているのでしたら尚更ですわね」
それだけ言うと、今度こそヴェロニカは去って行く。
あとに残されたシャルはヴェロニカの言葉を噛みしめていた。
励ましにしては微妙だが、まだ完全に見捨てたわけではないということだろう。
遺された言葉を胸に、シャルは訓練を再開するのであった。
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