それぞれの道
戦場での疲れも取れた頃。
あの時の戦いの記憶が学生たちに大きくのしかかった。
「死」への恐怖である。
戦場で死に触れるまで、かなりの人が「自分は大丈夫」という根拠のない安心感を持っている。
ごく一部の、自分が例外にはなれないことを知っている者は平常運転だったが、そうでなかった者、他校の学生の中には中途退学をする者が多く出たという。
アイレンの学生は戦闘経験がもともと豊富で現実を知っていた事もあり全員残ったが、大討伐後、数日してから参加した学生200人近くのうち100人ほどが退学したという。仲間の死に耐えきれなかったのだろう。安全な場所に帰ってきてしまったからこそ、余計に「死」が重く這いよってきたのだ。
そうやって変わっていく周囲を横目に、レイナス達は次の戦いに備えていた。
戦騎であることを続けるのなら、あの時の敵に対抗できなければ意味がない。どんなことができるか。どうやればいいか。考え続けなければ死ぬだけだからだ。
特に脅威だったのは隠密タイプの新種――正式発表はまだだが百足蛇などと呼ばれている――で、他の個体に張り付いての特性付与はかなり危険だった。索敵可能範囲は現状50mが最大と考えられている。今までの1㎞とは大きな違いだ。
巨大オオカミについては姿が見えなかった・感知できなかったことがネックだっただけで、いつものように1㎞範囲で索敵できていればこちらはそこまで脅威と見做されない。何匹も張り付いてようやく1匹のデカブツを隠せただけではあるが、あれが大量発生し、他の個体と連携して不意打ちを仕掛けてくるようになれば、戦術は大きく変わることになる。例えば姿の見えない上位個体100匹などいたら、300の部隊を全滅させる恐れが出てくる。現在、光術の研究職が総出で対策を練っているが、それが終わるまでは相当厳しい戦いを強いられることになるだろう。
レイナス自身は索敵範囲の向上と経験の反映による反応速度の上昇。それを主眼に行っている。
他の索敵術を併用するのではなく、空間認識の索敵術に特化していく構えだ。
やっている内容は、頭の中に入ってくる情報から「間違い探し」をすること。
相手が索敵術を完全に誤魔化しこちらの認識を変えたとしても、周囲の情報との整合性までは誤魔化しきれない。前回は風の動きからそれを行ったが、無風状態でそれをやれと言われてできるわけがない。せめてソナーのように理力を放出し、その反響で確認する方法を取らねばならない。ただ、それをやると消耗が激しく実用的ではない。理力関係では劣等生のままのレイナスにはできない相談だ。
ではどうするか?
風がないなら、自分で風を生み出せばいい。
これはもともと戦闘用に使うのを目的としている。であれば、レイナスは動き回っている最中に使えればよいという話だ。自分の動きにより発生する空気の流れをベースに、相手を探し出す。それだけでよかった。
もちろん索敵範囲は大きく狭まることになる。だが、接近戦を得手とするレイナスには剣の届く範囲に加え、一歩分の間合いを知覚できれば何とかなる。戦える。
レイナスは索敵術の反転でいくつかの知覚情報をシャットアウトし、リーゼに頼んで迷彩を施した振り子を認識する訓練をしている。
最初は手間取るだろうが、慣れてしまえば常態として維持レベルになっていくだろう。
こうやって、一歩一歩進んでいた。
リーゼの場合はソナーの一つ、アースソナーの実用化を考えていた。
近接戦闘の距離まで相手が分からないというのは、やはり問題がある。1㎞の距離を知覚できる現代戦術をできるだけ維持する方向で彼女は考えていた。
リーゼが出した結論は、小物を無視してでも巨大ヴラムを探れるようにする地揺れ探知の実用化。
大物が通れば地面が揺れる。勢いよく走って近づかれるというのであれば、確実に感知できるだろう。レイナスの特訓に付き合うついでに、彼女は彼女でアースソナーの練習をしていた。レイナスが大地を踏みしめる感覚を、アースソナーで認識し、距離と大きさを測る。
相手が揺れをごまかすタイプの特性を持っているかはわかっていない。だが、何もせずにいるのは死を受け入れるようなものだ。出来ることを一つ一つ増やす。
リーゼもまた、次の戦いに備え、力をつけていた。
そしてシャルは。
自分の進む道を模索することしかできず、ただ足踏みしていた。
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