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レイナスの事情

2話同時投稿です

 地獄で終わった夏の大討伐。

 その影響は各方面に広がっていた。



「だから! 兵力が足りないと言っています!!」

「しかしだ! 放置して解決する問題か!? 時間が経てば不利になるのは我々なんだぞ!」

「ええぃ! 落ち付かんか、バカモン!!」


 軍の上層部は今後の対応を協議し、


「息子を、息子を返して下さい! せめてあの子に、一目だけでも会いたいんです」

「残念ながら、あの場所で回収可能な遺体は全て戻っておりまして……」

「そんな…………」


 残された者の嘆きが響き、


「ああもう! サンプルの一つでもないと対応なんて出来る訳無いじゃないですか!」

「回収班、出ねーっすか?」

「無茶言うな! そんな予算、もう無ぇよ!!」

「「えー」」


 新種に対応しようと躍起になる研究者、


「あのデカブツに、今度はキツイのをブチかましてやるぞ!」

「「「応!!」」」

「連携パターン、1-3-2!!」

「往くぞ!!」


 仇打ちに燃え、刃を磨く戦騎たち。



 誰がどんな思いを抱こうと、時は平等に過ぎていく。

 立ち止まる者、先へ往く者。その全てを等しく肯定する。


 戦いは、次のステージに進もうとしていた。





「なあ、レイナス。ジブン、シャルちゃんの事、どう思っとるんや?」

「パートナーだが?」

「そーゆー事を聞いとるんやない!!」


 アイレンに戻ってから。

 学生たちは疲れを癒す為に、1日丸ごとお休みになった。

 ほとんどの者は昼前まで眠り、昼飯の時間になってようやく起き出す。

 レイナス達も怪我こそなかったが体の芯まで疲れが残っていたのだろう。風呂に入ってベッドに倒れたら死んだように寝てしまった。


 昼飯を食べに食堂に集まりだす学生たちは、みな起き抜けにも拘らず旺盛な食欲を見せ、肉とパンを貪るように食べていた。体が資本の戦闘系学生だけに、大量の食糧を胃に詰め込んでいた。

 ここは男子のみのアイレン戦騎寮のひとつだが、他の学院の生徒もいて、非常に混雑している。他の学院の学生がいるのは、大討伐に参加した学生に宿として寮が貸し出されたからだ。


 こんな時に待ち合わせなどは誰もやっていない。狭い世間という事もあるし、適当にグループを作ってテーブルを囲んでいた。

 レイナスの所にはスティーヴ他数名の男子生徒が席に付いていて、互いに持ってきた食糧を口にしていた。パンとスープと、焼いた肉。あと、サラダが少々。肉食学生など、基本そんなものだ。


 満腹になるまで胃を満たすと、どこか弛緩した空気が流れる。

 そんなとき、ふとスティーヴがレイナスに問うたのだ。


「なあ、レイナス。ジブン、シャルちゃんの事、どう思っとるんや?」


と。



 レイナスの切り返しに、スティーヴだけでなく、他の男子も盛大にずっこけた。聞き耳を立てていた他のテーブルの学生もそうだ。


「いや、男女の話で言えば、特に何も思ってないぞ?」

「は?」


 レイナスは軽く微笑みすら浮かべながら、ドリンクを口にする。

 気負う物も無く、至極当たり前の話をするように。


「シャルに、じゃなくてな。女子に、だけど」

「はい?」

「お前みたいに、誰かと付き合いたいって奴ばかりじゃないさ」


 レイナス自身に、恋愛感情は無い。誰かと付き合いたいという考えもない。

 人は生死の場面において、二つの考え方をする。

 すなわち「死ぬ前に恋人が欲しい」者と「死ぬかも知れないのだから、恋人を作りたくない」者だ。

 スティーヴが前者で、レイナスが後者だった。それだけである。


「いやいやいやいや。ちょい待てや。あの子の気持ち、分っとらん訳じゃないよな」

「さて。本人が何も言わない以上、俺は知らないよ」

「いやそれは――」


 決定的な事をいいかけたスティーヴに、レイナスは言葉をかぶせる。

 これはレイナスの考え方だが、恋愛感情は本人だけのもので、他の者が如何こうしていいものではないと思っている。

 だからその先を言わせないし、聞く気もない。分っていても、知らないふりをする。


「言うも言わぬも本人次第。他人が口を挟むのは無粋だろ。だから、俺は知らない」

「……」


 レイナスのはっきりした拒絶に、スティーヴは押し黙る。

 言いたいことはいくらでもあるし、間違っているような気もするのだが、どこがどうとはっきり言えるほどスティーヴも経験豊富ではない。同席している他の者も同様だ。誰も口を挟まない。


 だが、周囲の空気が重くなったところでレイナスは爆弾を投下した。


「それに俺はちょっと前に失恋したばかりだからね。今すぐ次の恋ってわけにもいかないさ」

「マジで!?」


 失恋という単語に、思い切り反応するスティーヴ。彼は幾度も失恋を繰り返す失恋のプロフェッショナル。思わぬところに仲間を見付けたと、身を乗り出して話の続きを促す。


「出会ったとき、彼女は20歳だった。あの人は年下の男の子にやさしくしただけだったんだろうけど、俺はコロっとやられてね。2年ぐらい、不器用なアプローチをしていたよ」

「ほうほう」

「告白したのは彼女に恋人がいたのを知った時で、もう失恋は決まった事だったんだけど、俺は言わずにいられなかった」

「おおぅ、悲劇やなぁ」

「泣きながらの、みっともない告白さ。困った顔の彼女は俺にこう言った「レイナス君がおねーさんと結婚できるようになった時、おねーさんは30過ぎのおばちゃんになっちゃうから。その時は、隣にいるヴェラちゃんを見てあげて」ってね」

「お……う?」

「当時7歳の俺は言われた事を理解できなかったけど、まあ、さすがにこの年になれば分かる。女が30過ぎて独身は……辛いよな」

「アホかぁっ!!」


 途中まで涙ながらに聞いていたスティーヴだったが、オチを聞いて全力で突っ込んだ。スパァーンと軽快な音を立てて後頭部に一撃入れる。


「7歳て、7歳て! それから10年近く経っとるやないか!! もう次の恋をせぇやぁ!!!!」


 食堂に男の魂の叫びが木霊した。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


2月1日 誤字修正

× 涙ながらに聞いていつティーヴ →

○ 涙ながらに聞いていたスティーヴ

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