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地獄

 巨大オオカミを倒し、戦勝に湧く戦士達。倒した獲物(巨大オオカミ)の周りで騒いでいる。

 だが、レイナスはそこから少し離れたところで思案していた。


 一人離れた場所にいるレイナスを心配したシャルとリーゼ、スティーヴらアイレンの学生、レイナスと顔見知りのハーフェルの学生達が集まる。

 最初はシャルとリーゼだけだったが、人が少し集まりだすと興味を持って寄って来る人間というのはどこにでもいる。知った顔が集まっているから。その程度の理由で集まった学生らは、肩を並べ戦った中でも、近い立場ということもあって打ち解け、雑談に興じていた。


 レイナスを始め、何人かは敵の兵力運用に疑問を持っていた。

 最後に見た、あのデカブツ。アレを最初に使い、混乱したところに足の早い上位個体を使えばもっとこちらの戦力を削れたはずだと考えたからだ。一度混戦にして対応力を削り、波状攻撃などせずに戦力の一極運用で押し切る。基本であり、今回でも十分に有用と思えるやり方だ。


 問題は、何故そうしなかったか、という事だ。



 レイナスは自分が用兵に向いているとは考えていない。だが、そんなレイナスですら思いつく簡単な方法論を、なぜやらなかったのか。

 こたらの戦力を計るというのは考えにくい。

 ≪薙ぎ払え≫を警戒したと言うのか? それでも、他にやりようがあったのではないのかと思ってしまう。

 こちらの戦力はあの時まで全く削られず、多少疲れて(・・)しまっただけだと――

 そこまで考えが至り、レイナスの脳裏にいくつもの推論が浮かんでは消える。


(戦力を削ろうとしていたんじゃない、理力を削ろうとしていた? 消耗させることを念頭に置き戦力を運用していたとすれば、辻褄が合う。つまり、最後のデカブツ以外はこちらの消耗を誘っていた。消耗させた理由は? デカブツへの対抗手段をなくすため? いや、最後に全てを使いきった奴もいたけど、全員じゃない。あのレベルならそこまで過信される性能じゃないはず。つまり、あのデカブツは切り札とは違う考えで運用されていなければおかしい。だけど追撃は無いんだから、)


 最悪の想像がレイナスの脳裏に浮かんだ。


「全員! デカブツから離れろーー!!」


 衝動的に、叫び声を上げた。

 何事か、などと考える間は無い。戦場にいた皆は条件反射で巨大オオカミから距離を取る。何人かはレイナスの叫びを無視していたが、どちらが正しかったかはその数瞬後に証明された。



 音も無く、巨大オオカミの全身が黒い球体にのみ込まれた。

 次いで、その黒玉は収縮し、先ほどまで周りにいた者ごと吞み込み消えた(・・・・・・・)

 そして――最後に爆発する。



 圧縮されたそれは、想像を絶する威力で爆発した。

 轟音を響かせ、無事だった者を粉々に(・・・)吹き飛ばす。

 反射的に≪シールド≫≪プロテクション≫などで身を守った者もいたが、そのほとんどが本人にとって「原型をとどめる」程度の効果しか持たなかった。運良くそんな人の後ろにいた者に関しては、なんとか「死なずに済んだ」。


 ある程度離れていた学生連中は相当運が良かった部類に入る。

 ほぼ全員が防御を間に合わせ、間にいた他の人が使った光術により威力の低減した爆発に晒されるだけで済んだのだから。


 気が付けば。

 たった一回の爆発だけで、400人近くが死亡し、500人近くが重軽傷を負った。

 先ほどまでの戦闘をはるかに上回る、大惨事であった。



 レイナスは何とか意識を失う事無く爆発を耐えきった。

 状況が状況だったからだろう、双姫の加護によりとっさに張った≪シールド≫が爆風の大半を防ぎ切り、吹き飛ばされるだけで済んだからだ。

 近くにいたら、即死だった。爆風の中には最初にのみ込まれた巨大オオカミの死体や、周りにいた人、ついでに地面が混じっていたのだから。それらは他の人がほとんど引き受けてくれたからこその、奇跡だった。


 しかし、残ったレイナスが見たのは地獄だった。

 怪我人は数えるのが面倒な程、死者も考えたくないレベルで出てしまった。

 最悪なのは、こちらが消耗し尽くしている事だった。理力は最後の爆発を防ぐ分すら確保できなかった者も多く、今怪我でうめき声をあげている人も、自分の怪我を直すことすら追いつかない状況。

 もし最初に巨大オオカミが来て、そのまま倒していた場合、防御に使える理力量から、ここまでの被害にならなかっただろう。散開したままか陣形を組んでいたかは知らないが、巨大オオカミの死体からは戦い難さを考慮して距離を取っていたはずだ。それに、大怪我をしても治療もすぐに行われただろう。後の戦いは厳しくなるが、理力が少ないなりに戦いぬく事は可能で、被害は今の半分以下だったと推測できる。

 敵が消耗を強いたいた理由をようやく正しく認識したレイナスは、下唇を強く噛む。



 最悪の中でもまだマシだったのは、レイナスたち学生の他にも無事だった者が多くいた事。特に先ほど怪我をして横になっていた者たちは爆発の影響も少なく、今後を協議していた隊長クラスの者たちも少し離れたところにいたおかげで多少の怪我だけで済んでいた。

 上官たちは現状を把握すると、すぐに指示を出す。


「理力に余裕がある者は負傷者の救助を! 重症のものから順番に癒せ! 怪我をしても動ける者は体力を温存! 全員、敵の追撃があるものと考え、すぐに移動をすると思え!!」


「≪ヒール≫は止血程度まででいい! そうだ、死なない程度だ! 理力をこれ以上無駄遣いするな!」


「現在敵影無し! 続けて巡回に移ります!」


 怒号が飛び交い、慌ただしく動き出す。

 一番余力があった学生達も、負傷者の治療に専念する。


「レイナスの警告があって助かったわ。離れとったから、なんとか死なずに済んだなぁ」

「ええ、本当に。っと。包帯、巻き終わりました。次の人の所に行きます」


 黙々と作業のように手当てするのが嫌だったのだろう、スティーヴが隣にいたシャルに話しかける。

 二人は怪我の手当てを手持ちの包帯で行っている。光術による医療行為は理力の少ないシャルにはできず、理力を節約しなければならない戦騎(スティーヴ)もそれは同様だ。

 レイナスはと言うと、光術治療、≪ヒール≫を使うリーゼのフォローをしている。スティーヴのパートナーは怪我でダウンした方で、自分に最低限の治療を施した後は眠って回復に努めている。

 レイナスとリーゼの方を一瞬見たスティーヴは黙々と治療に当たるシャルを見る。一見真剣に医療行為に勤しんでいるようだが、その(じつ)二人の方を向かないように、目をそむけている様にも見える。そのあたりを口にすべきかどうか、スティーヴは一瞬口を開くがすぐに閉じた。触らぬ神に祟りなし。平時ならともかく、戦時、それも緊急事態である今に言うべきではないと思い直したからだ。ただし、戻ったら追求すべき事だと心のメモ帳に書き加えた。





 全1500人中500人が死亡、過半数800人が重軽傷というとてつもない被害を出しつつ、レイナス達帰還組はアイレンまで戻る事に成功した。

 怪我人を背負ったりする為、死体がバラバラになり運ぶに困難だった為、死者はそのまま放置された。そのことで討伐続行組が帰還する途中で地獄の跡地を見てパニックになるなどしたが、こちらも無事に帰還を果たした。



 今回の大討伐でヴラーナの存在が確定した事、新種のヴラムが作られている事、今後ヴラムが組織だって動くことが懸念されるなどの報告が上がった。

 また、今回出してしまった被害者の、合同追悼慰霊祭が要望として出される。


 傷跡は深く、脅威は未だに残ったまま。

 万に近いヴラムを打ち取ったとはいえ、敵の戦力は不明である。

 先行きは、暗闇の中だった。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


2月1日 誤字修正

× 他にやりようがあったのでは無い顔思ってしまう →

○ 他にやりようがあったのではないのかと思ってしまう


× 最後の爆発を防ぐ文すら →

○ 最後の爆発を防ぐ分すら

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