5日目 帰還組
5日目。
その日は、朝日が昇る前から慌ただしかった。
「敵襲ーー!! 敵襲ーー!!」
「早く起きろ! 死にたいのか!」
「第一班は前列に!! そうだ! アイレンの方角だ!!」
「敵、第二陣来ます! アイレン方面より数500!!」
戦場において、奇襲の基本は「夜討ち朝駆け」と言われる。
寝静まった頃と、起きる直前が最適だという考えだ。
敵の行動は、その基本則に倣ったものだった。朝日が昇る30分ほど前、足の早いヴラムばかり300匹が強襲を仕掛けてきたのだ。道を使われれば走りやすかったのだろう、2km先で補足したにもかかわらず、ほんの1分と少しで接敵され、抗戦する事になった。
「「「≪薙ぎ払え≫!!」」」
何人かの光姫が共鳴光術――要は複数人数でいつの術を行使する光術――で≪薙ぎ払え≫を使う。目標は特に定められていない。ぱっと見で特に数が多い方、新しく来たヴラムの集団に術を使う。
光の線が、ヴラムをなぞる。そして、一瞬の間をおいて爆発。爆発の余波で周辺ごと吹き飛ばし、500匹いたはずのヴラムが一気に200弱まで数を減らす。今回参加した光姫は20人。全員それなり以上の実力者たちだ。彼女らの奮戦により、状況は人類側に傾く。
状況は混戦の一言。
普段は整列して“綺麗に“戦う事の多い戦騎や光姫には厳しい戦いだった。
数少ない支えになったのはアイレンの学生一同約120人と、精鋭級の戦騎たち。普段から狩りをする機会の多い彼らは、周囲の仲間という名の障害物には苦慮するものの、確実に敵を屠っていく。
そのうちに状況を把握しだした部隊長クラスが自分達の部下をまとめて戦場から離れ、隊列を整え出した。邪魔ものが減って戦いやすくなった面々を無視し、数を減らしてなお突っ込んでくる新たな敵に立ち向かう。
当然背を向ける者がいれば襲うのがヴラムだ。そちらに意識を割くのだが、動く前に戦騎に狩り取られる。
人数差と戦力差が存在した為、混乱から抜け出してしまえば、あとは戦闘ではなく「作業」となる。
全てのヴラムが狩り取られるまで、戦闘開始から10分程度しか必要なかった。
「ふぃー。めっちゃしんどかったな、レイナス」
「そっちこそ、お疲れ様。スティーヴ」
レイナス達は同じ学生同士で固まっていた。同学年のスティーヴを始め、他何人かが傍にいた為に上手く戦いぬけることが出来た。おかげでアイレン学院の生徒だけではなく、ハーフェルや他の学院の生徒にも被害者は出ていない。
「ですけど、この状況ってやっぱり……」
「ああ、やっぱヴラーナが動いとるんやろうなぁ」
「やっつければ、住む話です!」
終わった戦闘を振りかえり、その原因をシャルが言い淀むが、スティーヴはあっさり言い切る。それにリーゼは鼻息荒く立ち向かう意志を見せるが、レイナスを始め周囲の者は苦笑するばかりだ。もっとも、誰も突っ込まないのは、内容がある意味では真理だからだが。
今回の戦闘は、昨日の罠のオンパレードで疲弊したこちらへの嫌がらせの一環だと推測できた。新種の類は見当たらないが、それを警戒して余分な消耗を強いられた感が、一同にはあった。
更に言うなら、3日目の新種による散発的な攻撃も、今の状況――戦力の分断を狙っての事と推測できる。
すべては終わってからの分析であり、今後に生かす方向で動きはするが、今の厳しい状況を改善する類のものではない。
そろそろ朝日が見える時間ではあったが、上層部は一同の疲労を考慮し、食事を取ったら10時まで交代で仮眠をとるように言い渡された。
例の如く部隊を3つに分けて仮眠を取る一行。結局10時まで変化は無く、予定より2時間遅れで移動が開始された。
「なあ、この後、まだ敵が出てくると思わんか?」
「そりゃあ出るだろ。おそらく昼飯の最中か直後。そんなところだろうな」
「まあ、せやなあ」
「ほえ? どうしてですか?」
移動中、並走しながらレイナスとスティーヴは今後の展開を予想していた。
二人の考えでは、襲撃がこれで終わるという事はまず無いという。ここまでの襲撃には“決定打”が無く、これだけならただの散発的な襲撃にすぎないという事だ。その場合、こちらの消耗は少なく、攻撃する旨味が無い。それにしては統制のとれた行動、人間のような戦力運用が見受けられた。確実に裏で手を引く者がいる。
確実に疲弊している現在の自軍を見れば、ここで手を緩めるとは考えにくい。むしろ本命までのお膳立てと考えるべきだろう。
では本命はいつ来るか。いや、本命に限らず、次の襲撃はいつになるかと考えれば答えは簡単だ。
昼飯の最中か直後である。人間は空腹時に思わぬ力を発揮する。飢えた獣が危険だというようなものだ。そして飯を胃に入れた直後というのは動きが鈍る。だから次は昼飯時だと結論付けられる。
説明を受けたリーゼは半分理解できていない様な顔をしていたが、静かにしているシャルは普通に思い至っていたようで、特に反応を示していない。スティーヴのパートナーも同様だ。分っている二人にしてみればいちいち確認するほどの内容でもない。体力を温存する為に喋らず涼しい顔をしている。
「ま、そこらは上も分かっとるやろうし。俺らがあんまり気にする事ちゃうわ。レイナス達が前におうた強い新種とやらも、この人数分も揃えれへんやろうし、なんとでもなるわ」
そう言ってスティーヴは笑っていた。
その後、あんな事になるとも思わずに。
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