4日目 帰還組
4日目。
レイナス達は帰還組として、帰途についていた。
一応名目はそれまでに確保した素材の持ち帰りなのだが、3日目の移動前に、それまでに集めた素材をアイレンに贈ってあったから、3日目の移動中と巡回中に倒したヴラムの、ごくわずかな素材しか持っていなかったりする。
新種のヴラムについて、都市に報告が必要なのは分かるのだ。そして全滅の危険を避ける為だというのも。
しかし、それに納得できても残りたかったと考える者がほとんどだった。
「ヴェロニカ先輩ばっかりず~る~い~~!」
「いい加減にしろ、リーゼ」
レイナス達3人の中では、特にリーゼの不満が大きかった。
1日目はともかく、2日目はほとんど何もできずに終わり、今日はようやく狩りに出れると思っていたからだ。期待した分、肩透かしの反動が大きい。
「ヴェラは総合成績がSだから。悔しかったら頑張るしかないよ」
「うぅ、そうですけどぉ~」
「ヴェロニカさんが強いのはいいんですけど……新種のヴラムがあんなに出るっていうのは不安ですよね」
不貞腐れるリーゼを放置し、シャルは新種のヴラムについて思案していた。
ヴラムは通常種と上位種の2種類しかいなかった。外見に差異はあれど、能力的にはどれも大して変わらず、やってくる事も変わらない。だというのに、レイナス達が前回の大討伐で遭遇した謎のリーダーを含めると新種と遭遇する事今回で2回目。何かが起きているのではないかとシャルが不安になるのは当然と言えた。
「そっちは俺達が考える事じゃないな。ヴラーナの話も出ているし、俺たちはただ油断せず、どんな時もどんな敵とも戦えるようにするしかないさ」
とはいえ、考えたところで意味がある訳でもない。見てきた者への対処法を念入りに考え、「新種もいるかな?」ていどに考えておくに留める様、レイナスは言う。考え過ぎると逆に動きが悪くなる可能性を考慮しての事だ。単純に自分達が能力を最大限に発揮できる方が重要なのだ。
「そうは言うけど……落ち着きませんから」
「まぁね」
レイナスの言っている事が分からないほど、シャルは愚鈍ではない。だが分っていても実践できるかどうかは別問題で、あれこれ考えてしまうほどに不安があるという話だったりする。
今回は戦場から遠ざかっているが、光姫である限りいずれは戦う事になるのだ。実力不足を痛感しているので、シャルの不安はこの3人の中では一番大きい。レイナスを支える一翼を担っていても、シャルの理力量が増えるとかはなく、シャル個人の強さは変わっていない。
リーゼは最初から将来が期待できた。レイナスは“双姫の加護”を得て強くなった。自分だけ変わっていないという思いが、シャルにはあった。
「なんにせよ、今は周囲を警戒しながら走るしかないけどな」
「「はぁ~い」」
色々喋ってはいたが、最後はレイナスが締める。
そうして少しの間静かに待つと、移動開始の合図が聞こえた。
帰還組が一斉に動き出す。光術を使い身体強化をしての移動だからとても速い。全員が光姫と戦騎だから出せる移動速度で、一気にアイレンまで走り出した。
途中でシャルの理力が尽きてしまう場面もあったが、そこはレイナスがフォローしながら移動を続ける。昼夜を問わず全力で移動すれば1日でたどり着くのだろうが、そこまでする理由もない。最初の狩り場まで移動し、そこで野営という予定だ。
休憩をはさみつつ、3時間は走っただろうか。唐突に、全軍停止の合図が聞こえた。
「休憩には早いよな……。何かあったのか?」
レイナスの位置は殿と言ってもいい最後尾。シャルの事で迷惑をかけるのを嫌っての場所取りだ。当然のように前は見えない。
「私にも、何も見えませんよ?」
リーゼは索敵術で前方を見通すが、目に見えてヴラムがいる様には思えない。
レイナスとシャルも索敵術で広域探査を行うが、やはりヴラムの反応は無い。
何があったんだろうと、リーゼは何気なしに最前列にいる味方の方に目を向けた。すると――
「おい! しっかりしろ」
「回復術の得意な奴! こっちだ!!」
大怪我をした数人の戦騎が、地面に横たわっていた。
一人は足を失い、一人は横一文字に大きな切り傷がある。
リーゼは訳も分からず周囲をもう一度見渡した。すると、最前列の者の周りに、罠の残骸があった。
「はい?」
「リーゼ、何があったの?」
状況が理解できず、リーゼの口から意味の無い言葉がこぼれた。
レイナスとシャルはヴラムの反応を見ているだけなので、状況に全く気が付いていない。
「最前列に、怪我人がいます。猟師が使うような、罠が仕掛けられたみたい、で……?」
「罠?」
「はい……。たぶんですけど」
リーゼは見たままを説明するが、自信がなさそうだ。
それもそうだろう。ルートとしては昨日も使った道だ。だとすれば、昨日レイナス達が通った後に罠を仕掛けられた事になる訳で、猟師がやったとかでは、絶対に無い。誰かが悪意を持って罠を仕掛けた事になる。
「ヴラムが……いやそれだと……」
さすがにこれは想定外で、上手く思考がまとまらない一行。
罠を仕掛けてこちらの戦力を削ったなら、追撃をするのが常道だ。揺さぶりをかけた直後というのが一番効果的なのだから。だが、ヴラムの気配は無い。
仕掛けられた罠はワイヤートラップとそれに連動したベトコントラップ。
ワイヤーに高速で触れた為に深く斬られ、側面から飛んできた竹槍付きの大玉で足を吹っ飛ばされたらしい。二人とも移動優先で身体強化のうち防御上昇は行っていなかったのが仇となった。
油断したというより、今まで罠を仕掛けられた事など無かったのが災いしたのだろう。
ましてや昨日使った道である。罠があるとは誰も思っていなかった。いや、ヴラムが罠を使ったなど、ここ100年で初めてだったのだ。
完全に、想定外である。
その後の移動でもたびたび罠が見付けられ、被害者こそ出なかったが移動速度の低減は免れず、野営地まで戻る頃には完全に夜となってしまった。
十分な休憩をとれぬまま、一同はアイレンまでの道を行く……。
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1月28日 誤字修正
× 外見に再はあれど、 →
○ 外見に差異はあれど、




