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4日目と5日目 本隊

 4日目。

 大討伐を率いるウィリアム団長と大隊長6人は昨夜遅くから朝日が昇るまで、ずっと会議をしていた。


「では、学生を中心に一部を帰参させる方向で」

「うむ」

「問題ない」


 事の起こりは、昨晩発見された新種のヴラムだ。

 軍属である戦騎ではあるが、命の危険というのはさほど大きくない。一般に流布したイメージはともかく、実際は普通に生活しているものよりは死にやすい、程度である。だというのに昨日は巡回警備にあたっていた者が数名死傷するという事態になってしまった。まぎれもない一大事である。

 問題はヴラム側に新種が出てきたこと、それが複数であることから、おそらく意図的であること。帰参させる者に情報を持ち帰らせ、軍全体で対策を練ってもらう必要があるのだ。このまま放置していい問題ではない。


 そして、これは最悪を想定しての事でもある。

 このエルグライアにある人間側の戦力はおおよそ一万。減殺この戦場に投入されている三千というのは、相当大きい。

 3割しかいないじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、大都市の防備や治安維持、小さな村々にまで派遣される常駐兵まで考えれば、ここにいる者たちは攻撃的に使える全兵力の過半数といえる。これを(いたずら)に損耗すれば、大都市並びにいくつかの都市を破棄して防衛線を後退させ、戦力をひねり出さねばならなくなるほどだ。

 なにせ、防衛に専念するというのは打開策がないのと同じこと。『籠城は援軍がなければ意味がない』といわれる状況がそのまま当てはまるのだ、エルグライアは。基本的にほかの大陸という物が知られておらず、国交のある他国がないという事は防衛するだけになるのは滅びるのと同じこと。100年前のように英雄が現れるなどというのを期待するのは、ただの愚者だ。


 なので、残りのヴラム撃破数を目標2500から半分以下の1000まで減らし、約半数を帰らせる方向で話がまとまったのだ。戦騎たちが1000も残れば、2日で1000匹殺すぐらいは普通にできる。1500残れば安全マージンは十分にとっていると言っていい。相手がいつも通りなら、と但し書きが付くが。



 こうしてレイナス達は本隊より先に帰ることになった。





 ヴェロニカは不満と安心のないまぜになった表情で戦場を駆けていた。

 不満はレイナスがそばにいないこと。

 安心はレイナスが戦場にいないこと。

 相反する話ではあるが、人間の心などそのようなものだろう。


 自分の身であればどこにいても安全を保障するなど容易い彼女だが、戦場にいるレイナスまで守れるわけではない。遠く離れて配属されることなどザラだし、昨日までも待機中以外は完全に別行動だ。

 そして自分が配属される先は大体が危険度の高い戦場なので、一緒にいれば守れると思う半面、いつ不覚を取って危険に晒すか分からない怖さがある。以前シャルロッテに光姫を譲っても構わないと思ったのは、特に危険の多い戦場にいる自分より「無能さでそこまで危険性の高い戦場に立たされない」彼女の方がいいかもしれないと思ったからだ。恋人の立場は譲れないが、それぐらいは許容範囲とヴェロニカは考える。


 頭の片隅で自分の思考を分析しながらも、ヴェロニカの足は止まらない。

 本体より離れること約3㎞。そろそろ周辺に反応のあるヴラムに片っ端からちょっかいをかけ、本隊まで引っ張ろうと考えた。個人的にはもう自分ひとりで殲滅した方が早いんじゃないかと考えるヴェロニカであるが、一応命令には従う。この場で殺せば死体(素材)の運搬が面倒なのだし。これは素材の運搬仕事なのだと割り切ってトレインを開始する。


 隠密行動をやめて周囲を広く索敵する。

 今回反応があった数は約80匹。5個のグループに分かれているが、グループ内で一番反応が弱い個体を狙って≪エルフィンボウ≫で射殺す。≪エルフィンボウ≫は長距離攻撃タイプの光術で、特徴は「自動追尾」と「遮蔽物の自動回避」。森などで木々の隙間から射線を確保するわけではなく、標的を定めたらそこまでにある木々を避けながら、狙った箇所まで飛んでいく光の矢を放つのだ。結果、撃ち落とすのが困難で全身防御タイプの光術や闇術でも使わない限り絶対に命中する不可避の攻撃となる。半面威力が低く使うのが難しいのだが……


「全弾命中、全部撃破。こんなものですわね」


 使い手が規格外なら、このような芸当もできる。

 ヴェロニカが放った矢は、ヴラムの目から脳を貫き一矢一殺となった。

 残されたヴラムは矢が飛んできた方角、射手たるヴェロニカを目指して殺到する。それを見届け、ヴェロニカは本隊の方に駆け出す。今度は当たらないように光術を使い、見失う事が無いよう、途中で追いかけるのを諦めないように調整しながら走り続ける。

 道中、何度も索敵術を使いなおし、追加で引っ張れそうな群れを見つけては引き付ける。また、完全に自分を追うのを諦めた群れについてはその場で処分を行う。

 そうして、本隊まで100近い数のヴラムをトレインした。


 本隊に合流してしまえば、跡は殲滅を任せるばかりだ。

 ただし、暇であることと余力が十分に残っていることから本隊を護衛するために追加で周辺の巡回も行う。昨晩の出来事はすでにヴェロニカも知るところ。レイナスの功績を誇らしく思いつつも、自分が無様を晒すわけにはいかないとばかりに潜んでいるかもしれないヴラムを探す。



 このやり取りを2日かけて繰り返すこと11回。予定数を狩り終えた本隊は余裕を残しつつ、最寄りのアイレンを目指した。

 そして惨劇の跡を目にするのだった。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


1月28日 誤字修正

× ヴェロニカは不満を安心のないまぜになった →

○ ヴェロニカは不満と安心のないまぜになった

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