嵐の前の……
ヴラーナがいる。
まだ確定情報ではなかったが、それだけで大陸中が騒然となった。
ヴラーナがいるという事は、再び“侵略戦争”が始まるかもしれないからだ。
人類は光術という力を得たが、それでも戦力に不安があった。
当時の戦力は、人数は少なくとも「英雄」がいた。
「英雄」は一騎当千、万夫不当。現在の大陸最強すら余裕で圧倒する力を持っていたらしい。英雄の子孫は数多くいるが、それで大丈夫と思えるほどの力の持ち主はいなかった。
生き残りとはいえ、「子供の言う事」などとは軍上層部の誰もが考えなかった。
現場の状況も併せて考えればそれがきわめて自然な結論で、最悪の事態を想定するなら、早急に動く必要があった。中には保身に走ろうとする者もいたが、それでも侵略者たちの排除は共通要綱だ。足並みは自然と揃い、見えない情報の洗い出しが行われる事になった。
不自然と思われるヴラムの動きがあった戦闘から痕跡の有無を判断し、相手の活動時期と初期出現ポイント――世界間を繋ぐという門――を洗い出さねばならない。
そして被害が大きくなる前に、可能ならこちらから攻撃を仕掛けて早期決着を、と上層部は考えた。
ただ。
動いていたのは正規の軍人であり、一介の学生には出番が無かった。
レイナス達は、普通の学生生活を送っていた。
アイレン学院という特殊な環境であったが、それでもそこの学生としてはごく普通の生活をしていた。
現在は学年別紅白戦、要はクラスを二つに分けて戦わせる形式の試合をしていた。
レイナスはヴェロニカと同じチームだった。というか、たった4人でチーム扱いされていた。
ヴェロニカはレイナスと同じチームである事を望み、学年を超えて参加した。そしてヴェロニカという圧倒的戦力差を覆す為の措置として、残り全員がレイナスの敵になった。
300対4。数の上では不利である。しかし、余裕があるのはレイナス達の側で、他の面々は葬式かというほど表情が暗かった。
戦闘が始まればその理由はすぐに分かる。ヴェロニカが「≪薙ぎ払え≫」と光術を使うと、それだけで過半数が戦闘不能に陥った。具体的には、指先から放たれた光が敵先陣の足元を「薙ぎ払って」しまっただけなのだが、地面が爆発し飛礫が100人以上を行動不能にしたのだ。
≪薙ぎ払え≫は単独で使える者のほとんどいない、高難易度光術の一つ。本来は光姫が複数で行う訳だが、単独でできるヴェロニカが異常なのだ。できるから、特別扱いされる。そう言う事だ。
そしてそれを事前情報で知っている学生はその段階で降伏した。
これ以上続けても意味が無いからである。
久しぶりなので挑戦してみたが、やっぱり無駄だった。それだけの事である。
「陛下は相変わらず無体やな」
「全く出番が無かったよ」
「一人で軍隊でも相手に出来ますよね……」
試合(?)が終われば反省会になる。
敵味方関係無く、先ほどの蹂躙について感想を述べる。
ただし、対策などを全員で真剣に考える。防壁による防御、先制攻撃による妨害、干渉による中和。基本に忠実なアイディアを、形にする為の条件を出し合い思考錯誤しながら実用範囲に組み立てる。実践試験は行われなかったが、理論上はなんとかなるのでは、というところまで話し合う。
教師達にしてみれば、ヴェロニカの参戦は強力な個体が出た時の対処法について普段から考えておくようにという配慮だ。あと、絶望的な状況への挑戦とかを学ぶ意味もある。反省会の状況を見て、見届け役の教師は満足そうに頷いていた。
反省会が終わっても、時間があったので軽くもう一戦という話になる。
今度は普通に、ヴェロニカ無しで行われる。
光術が錯綜し刃と刃がぶつかり合う戦いの中で連携を学び、互いを高め合う生徒達。
いずれ来るであろう戦乱の日々に備え、学生達は研鑽を積んでいた。
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