異変の兆し
早朝、宿を出て馬車で次の村に向かう4人。
空気は多少険悪という程度。良くはないのだが、昨日に比べ少しは改善されている。
道中はあまりおしゃべりもないのだが、それはいつもの事なので特別ではないが……。シャルの牽制とそれを無視するヴェロニカのつばぜり合いが繰り広げられるが、レイナスは一切関与しない。リーゼや馬車の御者はなぜ放置するのかと気が気でないのに、一人で涼しい顔をしている。
実際は涼しい顔をしているだけだが、内心ではかなり動揺している。どちらか片方に恋愛感情を抱いているならそれで動くこともできるのだが、そういった感情を持っていないためにどう動けばいいか迷っているのだ。「とりあえず」で付き合うなどという考えがなく、レイナス自身には誰かと結婚するという未来が見えない。色恋沙汰に関しては無思慮なのだ。
そんなわけで、微妙な緊張感が継続したまま移動は続く。
その異変に最初に気が付いたのは誰だったか。
村まであと10分か20分というところで、四人の間に今までとは別種の緊張感が走った。それは、戦場特有の空気だった。
いや、戦場だった場所の空気だ。
血と鉄と、何かが焼けた時の臭い。街道の進む先。村の方から、微かだがそれが感じられた。
「御者さん、急いで!!」
「分かってまさぁ!!」
御者は馬に鞭を入れて馬車を加速させる。
四人も武器を構え装備を整え、いつでも戦えるように周囲を警戒する。
「索敵陣に反応……なし。周囲1㎞にヴラムの反応はないよ」
「この臭いは村の方からします」
レイナスとリーゼが状況を確認し周囲を安全と認識するが、警戒は解かない。
敵がいないという事と、安全とはそこまで密接な関係ではない。≪光術≫が使えるようになった人類であったが、その力は恩恵だけをもたらしたわけではない。ごくまれに、大災厄を引き起こす引き金となる。
つまり――
「“闇堕ち”した馬鹿が出たか……っ!!」
≪光術≫を悪用する者、“闇堕ち人”。
ヴラーナとは、もともとは100年前の侵略者にいた≪闇術≫を使う人間達の総称だ。≪光術≫を悪用する人間をそれら「人類の敵」として認識し、同列に扱うようになったのは、被害の大きさがそれだけ大きいからだ。
かつて人間は光術を覚えるまでヴラムにかられるだけの存在だった。その光術を悪用するというのは、人間にとってそれだけ許しがたい大罪という事になる。そして光術を使う人間に勝てるのは、やはり光術を使える人間だけというのも大きい。戦騎や光姫がいない場所では誰も止めることができない。
それでなくとも戦騎や光姫は光術を使えない人間の一部からは忌避される傾向にあるの。こういった者が現れると、ヴラムへの対抗手段という現実を見ずに、戦騎たちを排斥しようという運動がおこる。
傍若無人な暴君に対する感情が最悪であるのはどんな世界でも変わらない。誰にとってもヴラーナは最低最悪の存在なのだ。
村だった場所に付くと、全員が声を無くした。
「……全滅」
ようやく御者のおっさんが、低く絞り出すように声を出した。
誰もが村を見渡すが、人が生きているとは思えない状況だった。
家屋はすべて焼かれ、人の死体が無残に晒されている。夕日が染め上げるその光景は、いっそ哀れさを誘うようでもの悲しい。
「あれ?」
死体を集め、埋葬しようとしていたシャルがふと疑問の声を上げた。
村にあった死体は焼かれ、元の姿が想像できないほどに損傷している。しかし、妙なのだ。
焼け残った部分から、死体の性別や年齢が分かるのだが……外には、若い女性の、死体がない。
同じように動き始めた他の面々もそのことに気が付き、何があったのかを理解して嫌悪に顔をゆがませた。
「埋葬が終わったら、急いで戻るよ。みんな、いいね?」
「当り前ですわね」
「そう、ですね」
嫌な想像を振り払うように、全員でやるべきことを定め、体を動かし続ける。
そうでもしないと、吐きそうだった。
作業を続けると、とうとうそれを見つけてしまった。
村長の家の奥、そこで使い潰された少女たちがあった。
村長の家は他の村人に比べて大きい。そのため、ある程度形が残っていたのだ。犯人は焼け残っても構わない程度の軽い気持ちで火をつけただけだったのかもしれないとレイナス達は判断した。
一つ一つの部屋の中を確認し、扉を開けて回る。形が残った家だけに、もしかしたらという希望も少しあった。
だが、そこにあったのはただの残骸。部屋にこもる臭いと全裸のまま放置された姿が、惨事を明確にしてしまっている。
「任せるよ。俺たちは穴を掘っておく」
「は、い」
レイナスと御者の二人は部屋を出て埋葬を開始した。
女性三人でへやにいた彼女たちを運び、土をかける。
泣きながら作業する者、唇をかみしめながら動く者。無表情のまま、何の感情も見せない者。
誰も、何も言わなかった。
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