昔話
「まずは私からね」
そう宣言すると、ヴェロニカは静かに語り出した。自分がいかにレイナスと深く結び付いているかを。
「私達の出身はアンベルク。そこにある“継承者の家”で出会ったの」
これはエルグライア全土で言えることだが、黒髪の持ち主、つまりは英雄の血族というのは特別扱いされる。英雄の威光もあるのだが、英雄の子孫にはその力が継承されており、「戦力になる」と保証されているようなものだからだ。
そしてそういった子供を、本人の意志は横に置き、集めて大事に育てる場所がアンベルクにはあった。
レイナスとヴェロニカはそこで出会い、いずれ夫婦になる相手として一緒に行動するようになる。
英雄のひ孫にあたる彼らは、その血統を維持する目的で婚姻が推奨されている。黒髪が受け継がれた子供にはその傾向が特に顕著で、次の世代の為にと色々と画策されている。
子供を集めているのはそれが理由で、強制ではなく、自然とそうなるように仕向けているのだ。これはヴラムとの戦況が落ち着いている事もあり、もし再侵攻でもあれば悠長な事を言わずに強制されただろうが。
とにかく、二人は婚姻を前提とした出会いをし、その思惑に沿ってか自分の意志か、とにかくヴェロニカはレイナスを「自分の伴侶」と定め、そのように生きている。
「とまあ、私達の関係は国が推奨する公認の関係なの。勿論私個人としても、もう国とか関係無しにそのつもりでいるわ。貴女の出る幕は無いのよ」
ヴェロニカはそう締めくくる。
この話に加え、彼女には幼馴染としてのアドバンテージがある。“二人のエピソード”の在庫で言えば、間違い無く最強。その自負が余裕の笑みを作らせた。
対するシャルは、その話を聞いて余裕の笑みを浮かべた。
その程度だったのか、と。
笑みの意味を理解できないほどヴェロニカは愚鈍ではない。雑兵相手に怒る事は無いが、訳が分からないと怪訝な顔をする。
「次は私の番ですね。私たちの出会いは、あなたがいなくなった1年前の事です」
当時のシャルは、光姫としては最下位。落第寸前まで追い込まれていた。
どれだけ努力しても、シャルの理力量は上昇する素振りを見せない。はっきり言って、見込みが無かった。
それ故に、シャルの戦騎になってくれる人は現れなかった。
戦騎になるにはまず光姫が必要になる。この場で形だけでも戦騎を目指すのであれば、シャルのようなミソッカスでも戦騎になってくれる人がいたかもしれない。が、将来までを見据えると、従騎になってでもちゃんとした光姫を選んだほうがいいのは確実というのが一般的な見方だ。シャルの戦騎になった場合、それが軍に入っても続き、理力不足で自分の実力を十全に発揮できず「死ぬ」恐れがある。
そのリスクの高さから戦騎が決まる事無く、このままでは退学になりそうだったのだ。留年した去年1年間でその事を十分に学んだシャルには、何もできなかった。
努力してどうにかなる事だったらまだ良かった。努力が足りなかったと諦めがつくから。しかし努力しても届かない現実にはどう諦めを付けるのか。当時16歳のシャルにはそれが分からず、必死にもがいていた記憶がある。
そこに現れたのがレイナスである。
レイナス自身も問題を抱えた身。それを説明したうえで「自分の光姫になってもらえないか」と交渉しに来たのである。
しかも、レイナスはシャルの努力を評価し、少ない理力については「自分の方もそう多くの理力を扱えないから都合がいい」と笑ってくれた。
その後、徹底的な効率的運用と瞬間的運用による戦闘時間の拡張に成功し、二人は去年の試験をくぐり抜けた。
「私たちは、ともにハンデを抱えながら苦難を乗り越え、すでに互いに無くてはならない存在になったんです。あなたとではこうは行きません」
何かを得る事は何かを捨てる事に等しい、とは、果てしない物語に出てきた言葉だったか。シャルはヴェロニカの豊かな才能を知って、レイナスの考えを全く理解できない、共に歩く事の出来ない相手と断じた。
対立する二人は互いに退かない。
それを横で聞いていたリーゼはちょっと思うのだ。
結局、決めるのはレイナスさんなのだし、ここで言い合ってもしょうがないんじゃないかなぁと。
ついでに、あの様子だと色恋の話はしても無駄なんじゃないかなぁ、とも。
賢明な彼女はそれを口にせず、なおも言い合う二人を無視してさっさと眠りに付くのだった。
翌朝、睡眠時間を削った二人はレイナスの評価を下げ、安眠したリーゼが一人勝ちしたという。
もっとも、それで年長者二人に睨まれたので大きくマイナスだったが。
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