遠征、宿にて
アイレン学院のプチ遠征は、距離1日程度のてきとうな村で宿をとり、そこから日帰りでヴラムを探して狩るのが一般的だ。申請で4日にするのは不測の事態に備えた予備日の分だ。
今回の遠征はヴェロニカが手配したのだが、彼女は片道2日の6日で申請を出し、その分の多めに狩る事を条件として付け加えた。通常の狩りなら単位を取る為のノルマは2匹だが、人数の事もあり、ノルマは12匹に増やされている。二人っきりなら8匹だったのを追加二名で4匹上乗せといった具合だ。
移動に2日使うと言っても道中に村ぐらいはある。野宿はしない。
初日、夕方を少し過ぎたところで宿泊予定の村に着く。定食屋を兼ねた村唯一の宿でご飯を食べてから部屋に行く事になる。普通は部屋に先に行くと思うかもしれないが、滅多に客の来ない宿は客が来てから部屋の準備をするものだ。この宿がそんな宿かどうかは横に置き、部屋を頼んですぐにご飯にしたのだ。
夕飯を食べ終えれば、次は部屋の確保である。
部屋割については、レイナスが男一人で個室を使い、残り三人で大部屋を一つ確保する事になっている。ヴェロニカも個室をと強請ったが空きが無く、レイナスと一緒の部屋にするにはシャルの反対が強硬すぎたのでこのような形になった。
部屋割が決まった時、シャルとヴェロニカの視線が交錯した。
シャルは別に、抜け駆けしてレイナスの所に行こうとした訳ではない。単純に、ヴェロニカを止めようと考えただけだ。
ヴェロニカはシャルに遠慮などしないし自分のやりたい事を止める気など無い。だが、後々まで考え、障害物の排除という事で先に潰しておこうと思っただけだ。
お互いがお互いをどうにかしようと考えただけであり、深い敵意などがある訳ではない。それでも火花が散る程度に、険悪な空気だっただけだ。後ろに控えるリーゼはすでに涙目になっている。今朝は何とか対抗していたが、道中、シャルとヴェロニカの持つ空気に当てられて今の彼女は借りてきた子猫のようだ。
そうこうするうちに部屋の準備が出来、レイナスは気楽に、女性三人は僅かばかりの緊張感を伴って部屋に入っていった。
部屋は本来4人用の大部屋。
ベッドが4つ並び、それぞれの脇に小さなサイドテーブル、衣服を駆けるハンガーに、共用の大金庫。カラーリングはクリーム色で統一され、安心感を与えるコーディネイトがされている。
とても小さな村にある宿の部屋とは思えないかもしれないが、この宿は普段からアイレン学院の生徒が使っているので、そこから寄付された品で、このような内装になっている。
シャル達は大部屋に入ると備え付けの大金庫に荷物を預けた。
こういった遠征の時に使う宿は学院指定のもので、何度も使われることで築き上げた信頼感がある。安宿を使うと侵入者の心配だけでなく、宿の人間が客の持ち物を盗むといった事もある。信頼できる宿というのは少し高くなるが、必要経費として考えられる程度に重要だったりする。
荷物が無くなり身軽になった彼女達は自分の使うベッドを確保する。そのあと風呂は無いので水で体を拭う。
そしてシャルとヴェロニカはベッドに身を投げ出すと、睨みあった。
「貴女とはここで決着をつけたいわ」
「奇遇ですね、私もです」
互いに不敵な笑みを浮かべる。
勝利者がレイナスを得る女の勝負。長い夜の幕が開ける。
そしてここでもリーゼは蚊帳の外であり、涙目で二人から距離を取るのだった。
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