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大都市アイレン

「おはよう」

「おはよー」


 アイレンの学生の朝は早い、という事もない。ある程度の科学的見地から肉体を強く育てる為に、睡眠をしっかりとることが推奨されているからだ。

 ただし不意打ちで強制起床&突発訓練といった流れも存在し、睡眠から起床までの流れを意志で制御できる様に叩きこまれもする。

 ちなみに朝にやらない分は夕方から夜にかけてしっかりと訓練メニューが詰め込まれる。練習の質で言えば高校野球の球児たちよりハードな生活を送っている。命がけで戦うとはそういう事だ。


 学院内では座学と基礎理論だけを教え、手合わせで体を作るのが基本となる。素振りなどは5年生まではやるが、6年制以降はまずやらない。剣を振るなら手合わせで、が基本なのだ。

 他には、都市の外に出てヴラムを狩りに行く“プチ遠征”も授業扱いになる。ただし一回の遠出は4日まで。狩りの結果がボウズ(0匹)だと単位を貰えないので、ハイリスクハイリターンである。リターンは実戦経験と素材売却費用だ。生徒の小遣い稼ぎも兼ねている。


 大事なこととして、一般学生の場合、座学の成績は進級ではほとんど考慮されない。プチ遠征や手合わせの結果が重視され、戦闘能力の評価だけで進級の可否が決まる。


 基本的に特訓や手合わせで一日が終わるのだが、7日のうち1日ぐらいは休憩に当てる事が義務付けられている。これはハーフェルも同様だが、肉体の超回復の為に必要な休息日を作らないと、せっかくの特訓も効果が半減するからだ。

 また、強くなる為だけの毎日では人間性が損なわれるので、“日常”に帰すことで自分が守りたいものを強く認識させ、心身ともに良い兵士に育つことを期待する為でもある。



 そんなアイレン学院にレイナス達が来て、7日が経過した。





「……」

「……」

「……」


 久しぶりの休日。だというのに、レイナス達は力なく潰れていた。

 アイレンに来た当初、休日には街に出てみようという話になり、それがようやく実行されたのだが。


「まさかここまでハードとは……」

「光姫にもあの不意打ちルールって適用されるんですね。私もびっくりしました……」

「私、本来は6年生なのに不意打ちされるんですよ……」


 常時戦場。

 その心構えを持っていなかった三人は、初日から洗礼を受ける事になった。

 中途半端な時期の転入生という事もあり、三人の注目度は高かった。

 また、レイナスとシャルは理力量というハンデさえなければ一級の腕を持つ戦騎と光姫だった為に腕試しをしようと同学年からも手合わせの依頼が殺到した。レイナスは最終的にはたった6日で同学年約300人のおおよそ半数と手合わせする羽目になった。もちろんこれに不意打ちから始まる戦闘が加わる。

 シャルも似たようなもので、持久力を無視して戦う為の戦術論に付き合わされるなど、ハードな毎日を送っていた。

 リーゼに至っては1学年スキップというハードモードの為に、1年分の座学を6日で強制的に詰め込まれ、最後に「覚えなくてもいいが、覚えておかないと今後困る事になる」という暖かいコメントを頂いた。

 また、下級生からは不意打ちシステムの洗礼を容赦なく受け、レイナスはともかくリーゼはシャルとコンビで動きまわらないと、生きていくのが辛いレベルになってしまった。


 結果だけ言えば、全員、死屍累々と言った有様である。

 まさに精も根も尽き果てんばかりだ。



「とにかく、街を一周しよう」

「「はーい」」


 肉体的な疲労であれば光術の恩恵で回復している。が、精神的な疲労まで抜けきる訳ではない。

 三人とも重い足取りでアイレンを歩き回りだした。





 アイレンは大都市の一つである。

 この世界で大都市というのは、古代文明の都市があった場所の上にある都市の事。

 光術の影響を考えなければ、この世界はまだ古代ローマか1200年代のヨーロッパ程度の技術力しかない。つまり、上水道は完備できても自力で下水工事が出来ない。

 なので、かつて栄え、下水工事を行われた場所に都市を作り、それを利用しているのが「大都市」となる。大都市は公衆衛生がしっかりしているので大丈夫だが、一般都市であれば「下水が無い=汚水処理が人力」となり、都市全体が“臭い”。村なども同様である。

 臭いの方はまだいいのだが、糞尿の処理がちゃんと行われないと疫病の危険性が高くなる。病気の治療も光術で出来るとはいえ、そんな被害が出ないに越したことは無い。だからこそ大都市の開放が望まれているのだ。



 さて、アイレンの街だが、解放されてから20年が経過したばかりの都市という事で、まだ新しい建物が目立つ。

 レンガや切り出された石を使った建物が主流で、木造建築が少ないのは都市の様式であり、火災の延焼を警戒しての事。木造建築は村などの軒と軒が離れた場合に建てられ、都市のような密集した家々ではまずいい顔をされない。特別な理由が無い限り都市運営部から許可が下りないようになっている。学院の場合は他の建物が近くになく、よく破損するので直しやすい木造で作られているのだ。

 道も基本的にはレンガを敷かれ、全体的に統一感のある、美しい街並みというのがアイレンの“大通りの”印象である。


 しかし、道を一本二本中に入ればスラムが広がっている。

 奪い返したはいいが、そこで生活しようという人間の数が少ないからだ。移民は他の都市に呼びかけられてはいるものの、わざわざ安定した生活を捨て、危険度の高いアイレンに来てくれる民間人は少ない。スラムなどで行き場のない人間や、大都市に憧れる小市民を集めてはいるが、それでも全然足りないというのが現実だ。現在アイレンの人口は二十万人であるが、目標人口はその3倍である。

 これがあるからかつての英雄は人口が増えるまで都市奪還は見送るように忠告したのだし、現在の王様や政府も次の都市奪還をあと30年は先の事と考えているのだ。


 レイナス達はアイレンの地理を把握し、店の売り物から物価を見極め、とりあえず生活に必要だと思った物を買い揃える。

 疲れていた事もあり、三人の間に会話はあまりない。

 若く活気のあるアイレンとは裏腹に、暗く重い空気がそこには漂っていた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


1月28日 誤字修正

×美し街並みというのが →

○美しい街並みというのが

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