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アイレンの彼女

 所変わってアイレンの学生会室。

 アイレンの学生会は実力上位の人間とは違い、執務能力上位の人間に強制的にやらせるものである。適所適材であると同時に、実力上位の人間を政務というか事務仕事でなまらせない為の配慮だ。

 戦闘能力至上主義的な学院ではあるが、もし実力上位でないからと学生会長を甘くみた場合、OBOG成績上位者過半数が敵になるという状況になるのはご愛敬。なにせ、兵站の補給というのは前線の兵士にとっては死活問題。それを軽視する愚か者には相応の教育がなされるのも必定だろう。誰だっておいしいご飯をたくさん食べたいのだ。

 そんな保護動物扱いの学生会長はと言うと、送られてきた書類を目にしてウンウン唸っていた。7年生の16歳、戦闘能力よりも書類仕事が得意な彼は老けた顔とガタイの良さから「おやっさん会長」などと親しまれているが、今の彼は「中間管理職会長」と呼ぶべきかもしれない。


「聞いてはいたけど、聞いてはいたけど……っ」

「なるようになるって事でいいんじゃないスか?」

「私の将来がかかっているんです!!」

「いやー、それでも出来る事が全く無いっスから」


 書類を見れば三人分の生徒のプロフィール。言わずと知れた、レイナス達のものである。

 リーゼについては会長もそんなに気にしていない。問題は、残る二人だった。

 シャルは、王族だ。そして基本的にはC-という低い評価の生徒。当然風当たりは強くなるだろう。学院にいる以上身分で何か言われる事は無いが、それは表向き。学院卒業後に何か言われる可能性があったりする。そして会長は卒業後に王家の下にある行政府とやり取りをする訳で、下手をすると……怖い想像になってしまうのだ。

 次にレイナス。この男の問題の大きさは、シャルを大きく上回る。

 実力については偏りがあるが基本的には低評価。風当たりは良くないだろうが、例の双姫契約者という事で、能力的になら特に問題は起きないと会長は考えている。

 しかし、その“双姫契約”という部分が問題なのだ。この学院に通うとある問題児(・・・・・・)が爆発しそうな予感というか確信が、会長含めレイナス側の事情を知りこの学院に通う関係者一同にある。もともと彼女(・・)はレイナスと離れる事に酷く不満を抱いていたのだから……。


 コンコン

 そうやって会長が苦悩していると、学生会室のドアがノックされた。

 会長が気を取り直して入るように言うと、(くだん)の問題児が顔をのぞかせた。思わず会長の顔が引きつりそうになるが、そこは古兵(ふるつわもの)。内心をおくびも外に出さず笑顔を浮かべる。


「君がここに来るとは珍しいね、ヴェロニカ君」

「つまらない用事で来る気が無いだけよ」


 会長の言葉に対し、尊大に振舞う少女。

 彼女の名はヴェロニカ。アイレン学院でもかなりの好成績を誇る才媛だ。同時に、その高い能力に裏打ちされているとはいえ、尊大な口調と傍若無人な行動で良くも悪くも有名だ。通称は、「女帝」。学生レベルで太刀打ちできる生徒は数少ない。

 身長は女性にしてはやや高め、目立つようなスタイルではないが女性らしさはちゃんとあり、肩までまっすぐ伸ばした黒髪をリボンでまとめ、光姫の神官服ではなく戦騎(おとこ)とほぼ同じデザインの制服に身を包んでいる。

 顔立ちは整っているがキツめで気の強さがそのまま出ている。

 ヴェロニカ=バーナー。レイナスの幼馴染にして、最初の光姫。それが彼女にとって重要な肩書だ。


「時間がもったいないから単刀直入に聞くわよ。レイナスがこっち(アイレン)に来るって話は、本当?」

「……どこから聞いたかは聞かないでおくよ。その話は本当だ。明日にでも着くだろうね。1日の準備期間の後、授業に合流する予定だ」

「そう、で――」

「彼の光姫は固定だよ。変更は無い」


 ヴェロニカが質問を重ねようとするが、内容は予想済み。会長はそれに被せるように答えて見せる。

 機先を制されたヴェロニカは不満そうだが、その不満の半分以上は得た答えによるもの。最初にレイナスが来ると聞いた瞬間は喜色が浮かんだが、それもヴェロニカが彼の光姫になれないと理解した瞬間に消し飛んだ。


「それは貴方の意見? それとももっと上の意見かしら?」

「かなり上の方だよ。あまり詳しくは言えないがね」

「そう。分かったわ」


 己の願いを叶えるため、ヴェロニカは動き出す。交渉すべき相手がここにいないのなら、いるところまで行かないといけないのだから。

 自分の仕事を終えた会長は、余人の目が無くなった途端に崩れ落ちた。


「ああもう、何で私が会長の時にこんな問題が……」

「もう逃げちゃった方がいいかもしれないスね」


 会長の頭を抱えるその姿は、いっそ哀れさを誘うものだった。

読んでいただきありがとうございます。

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