リーゼの心境
前線都市アイレン。
20年ほど前に解放された都市で、現在ヴラムとの戦いの最前線になっている。
解放直後に作られたアイレンの学院は実戦主義で知られ、ある程度の座学を終えたらヴラムを相手にした訓練を行う事で有名だ。基礎動作すら実戦で教えるらしい。
あと、この学院は軍の直営事業であり、ハーフェルのような都市運営部――つまりは文民――が管理する学院とは一線を画していると言っていいのも特徴だ。この学院学生は、半ば軍属と言っても過言ではない。
要するに、レイナス達は軍属になってしまったという事だ。
民主主義的な考え方ではなく、お上の意向と一人ではあったが本人の同意を持って、三人はアイレンに編入が決まってしまった。
ハーフェルはその前の最前線だった事もあり、アイレンまでは近い。馬車で二日といったところだ。
街道がしっかり整備されており、定期的に人や物のやり取りがある為、移動手段は多い。レイナス達は物資運搬の馬車の隅っこに載せられて運ばれる事になる。ある意味貴重な戦術物資ではある。
「……なんで前線に行きたがるかな?」
「モチロン実戦経験を積む為です!!」
「本音は?」
「……ヴラムを倒して素材を買い取ってもらう為です」
「正直でよろしい」
旅のさなか、レイナスとシャルは半目でリーゼに説明を求めていた。
ハーフェル残留を考えていた二人にとって、自分達に内緒で学院長先生にアイレン編入を願い出たリーゼは戦犯である。今行われているのは軍法会議なのだ。
もともとリーゼは自分の実家が経済的にピンチで、仕送り費用を稼ぐ為にアイレン入りを希望していたらしい。光姫そのものが高給なのもポイントで、さっさと就職して安定収入が欲しいとは口癖のようなものだったようだ。
ついでに座学が苦手なのも実戦主義のアイレン式に合わせてと嘯いていたが、これはただの誤魔化し、いい訳の類だ。
事情は理解したが、二人に内緒で事を進めた以上ペナルティは必須だ。
リーゼには事前相談を怠った罪で、アイレン入り三日目の夕飯を抜く罰が通告された。
その日の晩。
シャルとリーゼは二人で抜け出し、馬車から離れた場所で向き合って座った。
「ちょっと聞きにくい事、いいかな?」
「え? ええ、はい」
連れ出したのはシャル。昼間の話で気になった事があり、無理を言って連れ出したのだ。
「リーゼちゃんは……復讐の為に、アイレン入りを決めたのかな?」
「!?」
「お金の為っていってたけど、安定収入の治癒院に行った方が長く確実に稼げるよね? それでも光姫に拘るのは、お金以外の理由なんでしょ?」
シャルが気になったのは、お金を理由にした事。
通常、光姫の収入は治癒院の治癒術士――光姫からのドロップアウトでなく目指して入った者であっても――の2~3倍である。たしかに短期的に見れば光姫の方が収入は大きい。
しかし、光姫には常に命の危険が付きまとう。
大討伐の時は良いが、それ以外の任務では死亡者が少しは出るし、戦線復帰が出来ないほどの大怪我をする事もある。軍属であることで色々と拘束される部分も多い。事実、それが嫌で光姫を目指さない娘もそれなりにいる。いや、理力を扱えたとしても光姫を目指さない娘の方が多い。
それでも光姫を目指す理由、それがあるのは間違いないのだ。レイナスもそれを知ってはいるが、あえて聞こうとしなかった。レイナスは男が女の事情に踏み込むのは面倒というよりマナー違反と考えたからだが、シャルは今後一緒に組んで動く人間の事だからと動いたのだ。
「復讐をとがめる気は無いんだけどね」
とシャルは前置きをして。
「私は、光姫として家族に認められたかったから、光姫を目指してるの。でも、リーゼちゃんは違うよね? なんとなくだけど、焦ってるのが分かるし。光姫を志した理由、聞いていいかな?」
己の胸中を明かした。
光姫には相応しくない出来損ない。それが家族がシャルに下した結論。それを覆す為にシャルは必死になっている。
リーゼにどんな理由があるか分らないが、組む以上、その目標の邪魔になるのなら……。シャルは冷徹にそこまで考えている。
対するリーゼは“復讐”の為という今の目的を看過され、その上で“光姫を目指す理由”というもっと古い目的を思い出すよう言われた。リーゼの中に最初にあったのは“憧れ”であり、学院に来てからは“女の意地”と答えるだろう。普段の“お金”というのは、それを恥ずかしくて口に出来ないから、人が納得しそうな事を言っているだけだ。
「復讐の、何が悪いんですか」
光姫であろうとする理由を思いだし、リーゼの目から涙があふれた。
復讐という行為をするのが、酷く不純なものに思えてしまったからだ。
「仲間が、殺されたんですよ……! 友達も、パートナーも! だったら、今度は私、が、ヴラムを殺さなくちゃいけないんです!!」
だが、仲間を奪われた激情は理性的な考えなど意に介さない。ヴラムを殺そうとするのは最初からだとか、話を聞いているシャルは最初から復讐を否定しないとか、そんな事は関係無しに思っていた事、押さえてきた感情を吐露しようとする。
「じゃないと、じゃないと……!」
だが思いは上手く言葉にならず、そのうち涙と嗚咽で上手く喋ることすらできなくなる。
感情を爆発させたリーゼをシャルはそっと抱き締め、何も言わずに受け止める。
物陰からレイナスを始め馬車の御者や周辺警護の戦騎たちが揃ってそんな二人を見守っていたが、無事に終わりそうだと安心していた。
二人の会話は声をあまり押さえていなかったのから筒抜けで、リーゼがそのままどこかに走り去らないかとか、はぐれヴラムが空気を読まずに乱入しないかと隠れて見ていたのだ。
その後レイナスを生贄に、他の者は散り散りに去っていく。
翌朝出歯亀の罰として両方の頬に紅葉を咲かせたレイナスがいたが、周囲の人はそれについて何も言わなかったという。
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