戦騎の目覚め、戦いの終わり
その瞬間、動いた人間がいた。
まずは二人の光姫。彼女らはレイナスに理力を与えようと必死に祈る。僅かでもいい。理力があれば光術が使える。光術が使えれば何とかなるかも、と。
その必死さが奇跡を起こしたのか。理力が尽きていたはずのシャルから、経路の繋がらなかったはずのリーゼから、二人からレイナスに理力が贈られた。
そしてもう一人。今まで影に潜み、レイナス達を見守っていた戦騎。彼はいざという時の為に、じっと状況を見ていたのだ。学生全員を生き残らせる為に。この場合、もし顔を出したなら、正式に戦騎となっている彼が指揮官となるのが必然だ。しかし連携訓練をしていない烏合の衆がまとまるには、学生3人の中での立ち位置からレイナスがリーダーをやる方が都合が良かった。もう一つは、彼が姿を見せる事で学生の緊張を途切れさせる恐れがあった為だ。
そうやって影から見守り続けていた彼だが、この状況になってとうとう動かなければいけなくなってしまった。本来彼の仕事は学生の成績評価。隠密行動と持久力を評価されてやっていた仕事ではあったが、戦闘能力が低い訳ではない。不意打ちで光術を使った剣による斬撃を伸ばされた足に打ち込む。剣は足を両断し、レイナスは九死に一生を得る。
そしてレイナスは。二人の光姫と経路が繋がり、例えようのない感覚に包まれていた。
通常だと戦騎一人に対し、光姫二人が同時に理力供給をすることなど無い。複数の光姫から理力供給が行われるとほとんどの戦騎は過剰供給になり、使い物にならなくなってしまう。その基本は最初の方に習うことであり、試そうという人間などいなかった。わざわざ命にかかわる危険な実験などしない。そう言う事だ。
だけど危機的状況に置いては二人とも「自分が理力を供給しないと」という視野狭窄に陥り、声かけもなく同時に理力を送るという失態を演じてしまったのだ。
そしてそれが、最初のトリガーとなる。
最初にレイナスが感じたのはいつもの理力供給過多の感覚。慣れているし大きな問題もないので、二人からの理力供給といっても「シャルはまだいけたのか?」とピントのずれた感想しか出てこない。
だが、すぐに知らない感覚に襲われた。
体の中で二人から送られてきた理力が共鳴し、共振し、大きく“質”を変化させたのだ。
制御不能状態で感じる熱が消え、よく冷えた、澄み渡った水に体を浸したかのようなイメージに切り替わる。同時に全身に満ちた理力が全て自分の物になったかのように全能感が溢れる。シャル一人から理力を貰っている時にも似たような感覚を覚えるが、これは全く違う力だと、なんとなくレイナスは理解した。そして疑問を無視する。
今は、得た力で仲間を助けるべきだと。
(身体強化、武装強化に8割)
力を得て冷静になったレイナスは、まずはリーゼの周りにいる4匹に狙いを付ける。体に力を込め、握る剣にも光術を施す。リーダーは突然現れた推定味方に押し付ける事にした。
地を蹴れば今まで以上のスピードが出た。その勢いに抱かれているシャルが悲鳴を上げるが、それを気にせず一振りでヴラムを1匹切り捨てる。
切る時の感覚が違う。滑らかになっている。
一歩の間合いが広くなっている。同じ感覚で動けば遮蔽物に当たるかもしれない。
得た力の大きさに驚愕と困惑を覚えるが、それ以上に現状の厳しさを忘れる事は出来ない。レイナスは初めて“他の戦騎と同じ程度の”身体強化を自身に施して次々にヴラムを切る。シャルはリーゼの脇に置き、ヴラムを圧倒する。
相手の戦力評価が一瞬で覆されたヴラムリーダーは、次の指示を送る前に手持ちの駒をすべて殺されてしまう。
ダメージもあるし、こうなれば撤退がリーダーの採れる最善手だ。
身を翻し、姿を消しながら逃げようとするリーダー。それを許さず、追いかけるレイナス。先ほどまでなら逃すも止む無しといった判断をしただろうが、力を手にしたレイナスには仲間を殺された怒りもあり、逃すまいと迫る。
最後はこれまでの最高速度を叩きだしたレイナスがリーダーの背を貫き、この場所での戦闘は終わった。
その後一行は救援に来た戦騎たちと合流し、ようやく安堵することが許された。
今回の大討伐での戦死者は30名となり、ここ10数年で一番の惨劇となった。
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これで導入編終了です。




