絶望の足音
レイナス達の先制攻撃はうまくいったが、その後はジリ貧だった。
まず、時間制限をかけられたことで焦りが生まれた。これで最大パフォーマンスが発揮できなくなってしまった。
索敵範囲には味方の救援もいるのが分かっているのだが、なんとヴラムは更に大軍を伏せていたのだ。何故これに今まで気が付けなかったのかというレベルで、実に100匹はいるのではないかという巨大な群れがいたのだ。救援が駆けつけてくれているが、そちらの対応に手間どっているので、絶望の足音が聞こえるようだ。
もっとも、たかがこれだけの群れが最初の救援を襲撃・瞬殺できた理由が分かってしまったこともレイナス達にプレッシャーを与えている。「何故感知できなかったのか」という疑問は「もっと隠れているのではないか」という不安につながる。
この精神的衝撃は、最初の覚悟を揺らがしかねないものだった。
次に、相手がこちらの戦力を正確に把握してしまったのが痛かった。最初に突っ込んできた2匹はリーダーの制止を振り切ったのではなく、ただの捨石だったのだ。
あれから上位個体は3匹ほどがシャルの≪ライトニング≫が届くか届かないギリギリの位置で遠距離攻撃を仕掛けるようになり、シャルはそれに引っかかって無駄打ちを重ねるようになった。
リーダーもまた、レイナスを足止めするかのように振る舞い、すぐに殺そうとせず、時間稼ぎに徹している。リーダーとレイナスの間には戦力差があり、ある程度のダメージを覚悟されたらまず勝てないだろうと予想された。だというのに嬲るように自分が傷つかぬように振る舞い、一方的な展開を楽しんでいるかのようであった。
こうやって前衛二人が翻弄されては後衛であるリーゼはまともに戦えない。2匹ほど常に付きまとい、リーゼを攻め立てる。リーゼも≪ライトニング≫で応戦するが、シャルに比べて威力が低い。一撃必殺とならず、有効打を与えても後ろに下がって回復されるだけの時間を与えてしまっている。
さらに三人は分断され、連携が取り難いように位置を固定されてしまった。こうなると各個撃破する事も出来ず、自分の事だけで手一杯になる。
普通なら人間の知恵が化け物の力を打ち破るはずが、知恵や戦術で立ち回られる事により圧倒されてしまっている。数で負け、力で負け、知恵は互角。こうなると敗北は必至だった。
もともと不利な戦場である事はレイナスにも分かっていた。焦る気持と揺らぐ心を何とか抑えつけ、現実を受け入れる。
状況を正確に把握してしまえば、あとは自分達に出来る事を積み重ね、勝利への道を作らねばならない。レイナスは自分の中にある手札の中で、有効打となるものをリスク度外視で選出する。そしていくつかを見出し、そのリスクを全て自分に押し付ける形で戦術を組み直す。
ギリギリ全員で生き残る手段を、薄氷を踏み進むがごとき作戦を一つだけ見出し、レイナスは叫んだ。
「シャル!! 限界解放だ!! 何秒いける!?」
「8秒!!」
「リーゼ! 経路を8秒だけ閉じるぞ!!」
「はい!!」
リーゼはレイナスが何をやろうとしているか分らないが、とにかく言われた事をこなそうとする。レイナスに繋がる経路を塞ぎ、本来の光姫に戦騎を返す。
シャルとレイナスは1年以上を共にしたペアである。短いやり取りでもシャルはレイナスが何をやろうとしているのか把握できる。彼女は全てを信じて命を賭けた。レイナスへの経路に全力で理力を注ぎ込む。
レイナスは慣れていないリーゼの理力からシャルのに切り替え、戦闘継続時間無視の全力全開モードに自分を切り替えた。
波長が合うのだろう、リーゼのそれだと制御できない部分が多かったが、シャルの理力であればレイナスでも完全に制御できる。ほんの数秒ではあるが、同学年でも屈指の実力者として名を馳せる最強に、レイナスは成る。
最初にリーダーへの牽制を狙い、大きく横薙ぎを繰り出す。リーダーは小柄な体なのでしゃがんでそれをかわし、攻撃直後のレイナスへ喰らい付いた。
しかしそれがレイナスの狙いだった。左から右への横薙ぎはフェイクで、フリーの左手でリーダーを殴り飛ばす。
これまでのようなかすり傷ではなくクリーンヒット。しかもシャルの理力をふんだんに使った手加減なしの一撃である。それでも大きなダメージを与える事はできなかったが、相手を吹き飛ばし、ほんのわずかな猶予をレイナスに与える。そのタイミングでレイナスは剣を振る勢いを利用して身を翻し、シャルの元へ剣を投げる。
投げられた剣は槍のようにまっすぐ飛び、狙い違わずシャルを襲っていたヴラム2匹をまとめて貫通した。残り1匹になればシャルも存分に戦える。シャルも残り僅かの理力を使い最後の1匹を潰した。
こうなると残るはリーゼの所の2匹と回復中の2匹になるのだが、そこへ向けてレイナスは駆け出す。途中でシャルを抱きかかえ、ヴラムに刺さったままの剣を抜き、そこまでで8秒ジャスト。レイナスへの理力供給は再びリーゼの担当に戻る。
戦場は大きく変化した。この段階でシャルを襲っていたヴラムが消えたが、シャルが戦闘不能なレベルまで理力を使いきった事で戦力的には何も変わっていない。いや、むしろシャルが足手まといになったので、戦力的にはダウンしたというのが実情だ。
厳しい現状が最初からこの選択肢を選ばなかった理由でもある。学生同士の戦闘でも、大体この数秒を凌ぎ切られて負けるのだ。戦場でやるには相応しくない技と、レイナスは考えていた。
だが、このままリーダー以外を全滅させなければ自分達は生き残れないとも。
この先にあるリスクを承知で、敵の数を減らす方に賭けたのだ。
レイナスは経路を再び切り替えようとして、リーゼと自分の間に経路が開かない事に舌打ちした。
長く付き合いのあったシャルならともかく、今日会ったばかりのリーゼでは経路のつなぎが甘く、上手く再接続できない。再び体を触れ合わせなければ経路が復活しないと思われた。
リーゼの方でもそれを理解し、レイナスの方へダメージ覚悟で移動しようとした。
が、ここでリーダーが戦線復帰を果たしてしまった。
もともとダメージは大したことが無く、吹き飛ばされただけなのだ。理力供給が無くなり≪光術≫を行使できなくなったレイナスに、ほんの数秒で接近する。そして鍛えてはあっても普通の身体能力しかないその身体を、爪で切り裂こうとした。
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