決戦開始
ヴラムリーダーの姿が目視できるところまで進む。最初にレイナスたちが陣取った川の下流域で、見晴らしは良い。本陣まで7km程度の位置だ。
遠方から見たヴラムリーダーは意外な事に小型の犬程度のサイズで、体長は1mに満たない、力など全く感じさせない外見だった。黒い毛並みの柴犬と言われて納得できそうな生き物だった。
しかし感じるチカラは大きく、アレがこの場で最強だと誰もが理解できる存在だった。上位個体の纏うような黒いオーラは見えないが、漆黒の毛並みはそのオーラを圧縮したかのようで、見ているだけでレイナスは冷や汗が滲んでしまう。油断などできない相手だった。
取り巻きは全て上位個体。例の如く豹の姿をし、黒いオーラを纏ったやつだ。それが9匹も侍っている。
周辺には他の群れは無く、これを全滅させればしばらく時間が稼げる。レイナスを捨て石にすれば、最低でも光姫二人が生き残る状況だ。戦騎一人で光姫二人が生き残るのであれば、それは十分に評価される結果である。この時、レイナスは密かに二人を生き残らせる為の捨て石になる気でいた。
「全員、生きて帰るぞ」
レイナスは思ってもない激励を口にする。
その言葉にリーゼは素直に「はい!」と口にしたが、レイナスの考えを見抜いたシャルは黙り込む。そしてしばらくしてから。
「ええ、どんな理由があっても誰も見捨てず三人で帰ります」
レイナスの発言を逆手にとり、直接は言わないが「絶対に死なせないし、死ぬなら一緒に」と言外に含ませて同意した。
レイナスは見抜かれた事に苦笑し、「ああ」と返して敵を見据える。もう敵を見ても心が臨戦態勢になったので、最初に見た時のような冷や汗も何もない。獲物を狩る目つきに切り替わっている。本当の意味で、覚悟が決まったのだ。
光姫二人も戦騎の雰囲気が変わった事に影響されて表情を引き締める。
「開戦だ!」
「「はい!!」」
覚悟が決まって、やるべき事が目の前にあるならどうするか。
もう、突き進むだけである。
三人は各々の武器を手に、戦闘を開始した。
「≪サテライトキャノン≫!!」
開幕はやはりリーゼの≪光術≫だ。事前の打ち合わせ通り上位個体を狙っている。
上位個体は下位の個体と違い≪サテライトキャノン≫でも一撃で落せない。重症程度のダメージを与えるに止まる。
それを当然のことと、リーゼはすぐに次弾の準備に取り掛かる。
目視できる範囲、前面に全てのヴラムがいるのでレイナスはわき目も振らずにリーダーを狙い突貫する。そこから少し遅れるようにしてシャルが追従する。
敵が突貫してくるのなら迎撃するのがごく普通の考えだ。上位個体のうち2匹がリーダーの制止を振りきりレイナスに挑む。一応は姿を消しての攻撃だが、今のレイナスはほんのわずかではあるが理力を全身から放出しており、それが影響して爪で切り裂ける距離まで近付いたヴラムの姿が露わになってしまう。
「≪ライトニング≫!!」
そうなれば後ろにいるシャルが簡単に狙い打てるという寸法であり、1匹をレイナスがすれ違い様に切伏せ、もう1匹をシャルが一撃で撃ち抜く。
これで元気な上位個体は6匹、怪我をしているのが1匹、あとはリーダー1匹である。
この結果を受けてリーダーもレイナスたちの戦力を把握したのか、大きく吠えて周囲のヴラムを招集する。レイナスたちに時間制限を付けるのと、包囲網を敷いて確実に殺しに来たのだ。
≪サテライトキャノン≫程の大技を使ったのを本陣の部隊が見逃すという事は無い。2発目が撃たれる頃には本陣も事態を把握し、すぐに動ける部隊が急行する事になった。高速機動の可能な者を中心に20人。予備戦力の一つである。それがすぐに動く事になった。
無駄な消耗・出血を避けるのが戦騎と光姫の現代戦である。上層部の判断と行動は迅速だった。本陣に手ごたえのあるヴラムが少なかった事もあり、周辺へ派遣する部隊を編成していたのも幸いだった。レイナスたちへの救援はすぐに送られる事になる。
この判断と行動の早さにはいくつか理由がある。戦闘の規模から言えば小さなものだが、先ほど救援を求められた事、その救援部隊が予定する戦場よりも近くで戦っている事、そして戦っている人数が少ないという推測から緊急事態と上は判断したのだった。
救援部隊が戦場にたどり着くまでの3分が、とても難しい事は上層部の誰もが理解していたが。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。




