決戦前
レイナスは湧き上がる力に懐かしさを感じていた。
もともとレイナスは理力過多状態で戦うのに慣れている。最初に契約した光姫の理力量が大きかったからだ。去年のペア調整で別れることになってしまったが、その時の感覚で戦えば問題ないと判断した。
「とりあえず、俺が二人を抱えて運ぶのが一番早い。窮屈だと思うけど我慢してくれ」
「「はい」」
さすがにこの短時間で本陣が全滅するとは思っていない。ヴラムがこちらと同じような戦術――別行動をとっている少数勢力を各個撃破――をしているのだろう。さすがに本陣を壊滅できるだけの戦力があれば事前に判るはずだ。
本陣までたどり着くことができれば、生き残ることができる。三人はそれを信じて駆け抜ける。希望的推測かもしれないが、そうするしか生き残る道がない。
増えた理力をフルに使い、≪光術≫で周辺を広く探ると、最悪の状況だという事が理解できてしまった。
「本陣まで戻るまでに最低2戦。数は12匹と10匹だけど。10匹の方にはおそらくリーダーらしき個体がいる。……かなりキツい」
台詞の最期は小声で二人には届いていない。
敵のリーダーは、おそらくだがこちらがどんな移動ルートを選んでも対応できる動きやすい場所に陣取っている。逃がす気はないという事だ。
救いは、その場所で戦いだせば2分程度で救援が期待できること。もっとも、ここまで大規模な群れを相手にした経験はレイナスには無い。少数を撃破する補助的な戦闘しかやらせてもらっていないからだ。経験値の低さが悔やまれるが、今はそれを言ってもしょうがない。
可能な限り敵を避けるように移動し、最初の難関、12匹のところにたどり着く。敵の少し手前で二人を解放し、戦闘準備を整える。
戦闘は避けたいが、一度捕捉されると逃げても逃げ切れる自信を持てず、リーダーらしき個体との戦いにまで参戦されてはわずかな生き残る目もなくなりかねない。
だから殲滅するしかない。他の群れに捕捉される前に。
「他のヴラムが来るまで、推定1分。最低でも50秒以内に全滅させて残り10秒以内に離脱が最低限。ヴラムリーダーと接敵までに追撃を0にしないと生き残れない」
「分かってます。私も前で戦いますよ。せいぜい囮として活用してください」
「すまんな」
レイナスはリーゼも前衛として使うと宣言。リーゼもそれに応じる。
短期決戦では火力の集中運用が要になる。本来後方で使う方が高いパフォーマンスを発揮するリーゼではあるが、レイナスを護衛に付けては意味がない。また単独運用もできるほど余裕があるわけではないので、必然として前衛にせざる得ない。危険は承知の上、それを利用するぐらいの気構えでないと生き残れないとはリーゼも知っている。
簡単なやり取りの後は、無言のままで戦い始まる。
敵は12匹とはいえ下位の個体。普通のヴラムと戦うのであればレイナスだけでなくシャルとリーゼも圧倒的な戦力差でごり押しができる。固まっていればリーゼが、遠くにいればシャルが、逃げようとするヴラムにはレイナスが対応し、即席ながらも連携してヴラムの群れを一掃する3人。
終わってみれば所要時間は僅か30秒、瞬殺である。
この戦闘結果にわずかながら光明を見出せた気がした一行は本命の元へと向かう……。
周辺に敵影なし、戦闘が始まってもしばらくは増援が来ないことを確認したレイナス達は本命、ヴラムのリーダーへ向かい直進する。
敵の用意した戦場で戦うとはいっても、相手が重視したのはこちらを逃さないこと。戦いやすさではなく移動しやすさから選んだだけの戦場だ。今回の戦いでヴラムリーダーを逃したとしても、生き残れたのであればレイナス達は勝利といえる状況下ではマイナスが少ない。最悪、味方の救援にリーダーを押し付けてしまう事も戦術としては間違っていない。実力差が歴然としているのだから消極的な作戦も致し方ない。
それらを踏まえて三人は死地に赴く。
内訳としては、敵リーダーはレイナスが抑え、他を光姫二人が削る。取り巻きがいなくなってから三人で戦うか、離脱を行う。レイナスはギリギリの防戦になるだろうが、生き残る時間の長さでいえばこれが最善だろう。
この時三人の胸の内にあったのは、生きようとする意志だけだった。
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1月6日 サブタイトル変更




