契約
「最期までお供させてください、先輩」
問いに対するリーゼの言葉は簡潔だ。誰かを残して行くより、3人で行く方がまだ誇りを守れる。そう考えての事だ。
それを聞いたレイナスとシャルには苦笑しかない。これだけ安易に即決されると、覚悟を問う気もなくなってしまう。
「じゃ、最後まで足掻いてみせようか」
「はい!!」
元気のいい返事を聞くと、これから死地に赴く人間とは思えない。その元気にレイナスは自分が悲観的になりすぎたと自嘲する。
ならば最後まで生きることを諦めないのが先輩の務めと考え、最善の策を頭の中に構築する。
「危険だけど、一つだけ、何とかする手がある」
「「本当 (ですか)!?」」
レイナスの発言に、二人が食いついた。
「俺の弱点……理力の許容量が少ないっていうのは覚えているか?」
「は、はい……」
「他の光姫と経路を繋ぐと許容量オーバーでバーストするんだけどね。今回、あえてそれをやる」
戦騎のオーバードーズは互いの理力量と許容理力量に格差があり過ぎるとおこる現象だ。光姫から送られる理力が多すぎてうまく制御できず、何らかの反動が起きることを言う。起きる現象そのものは人によって違い、中には≪光術≫を使えなくなる者が出るほどに危険な行為だ。
レイナスは過去3回オーバードーズを経験しており、その時はすべて「一定時間≪光術≫がうまく制御できなくなる」という現象が起きた。≪光術≫が全く使えないわけではなく、制御が上手くできないだけなのだ。半分自爆になるが、知っていてやる分には対処のしようもあると2人に説明した。
二人の光姫の反応は複雑だ。
シャルは自分の理力量のなさに落ち込み、何もできないでいる。悔しさからか、服を強く握っているが何も言わない。リーゼはレイナスが本当に大丈夫なのか、そのことだけを心配している。実際に過去で何があったかは関係なく、自分との間で同じ現象が起きるという保証がないのだ。不安になるのも当然だろう。
「一番のネックは経戦能力。それを解決すれば、希望はある」
力強く断言するレイナスだが、保証のない賭けであることは自分もよく知っている。だが胸中の不安を口にしてもメリットがなく、生きるために打てる手はすべて打つべきだと考え、自信があるかのように言う。
「……シャルロッテ先輩はどうします?」
「シャルの≪光術≫は貴重な戦力だ。そのまま単独で頑張ってもらう。と言うより、二人がオフェンスで俺がディフェンス。それしか活路はないと思う」
「分かることは分かります。でも、感情が、納得してくれないですよ……」
リーゼもシャルと同じく光姫なのだ。同じ光姫としてシャルの心中を慮ってしまう。自分の戦騎に「足手まとい」扱いされるというのは、死にたくなるほどキツいのだ。命のかかったこの場で打つべき手というには、リーゼにも納得しにくい話だった。
少し3人の間に沈黙が下りたが、それを破ったのはシャルだった。
「分かった、よ。嫌だけど……生き残るためだもんね」
感情を理性でねじ伏せ、シャルは小さくレイナスの考えを肯定した。
シャルも戦騎という枷を無くして理力を自分の考えだけでペース配分できる方が戦いやすい。理力が少ないのでなおさらだ。それ自体は納得できることで、だが、自分にとって最後の希望ともいえるパートナーがいなくなるかもしれないという不安が口を重くしたのだ。それでも必死に言えたシャルをレイナスは尊敬する。命が係っている時に気にする事かと思う人もいるかもしれないが、そんな時だからこそ判断は重くなるのだ。
どこかほっとした空気が3人の中に満ちる。言う側にしても言いにくい事だったから、受け入れられて安心するのもしょうがない。
「リーゼ、手を」
話はまとまったとばかりに、レイナスはリーゼの手を取る。
リーゼもレイナスの手を包み込み、それに応える。
『契約』
リーゼからレイナスに経路を繋ぐ。同時に、シャルとレイナスの間にあった経路が一旦閉じられた。
身を切られる様な感覚がシャルに起こり、リーゼには繋がった悦びが湧き上がる。
「……やっぱり多いな。まあ、多少ならいつもの戦い方でもいけるか?」
「なんかいつもよりも多いです。少し遠慮してくださいね、先輩」
送られてくる理力量の違いに戸惑うレイナス。普段は少ない理力を効率よく瞬間的に爆発させるイメージで使ってきたが、今感じられる理力量なら常に全力全開でやっても消費しきれないのではないかと思えるほどだ。
だが、本当にそれをやると今度はリーゼが理力切れを起こしかねない。扱いは慎重に、と、心に留め置く。
「じゃあ、暴れるとしようか。生き残るために!」
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