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お日様とヒマワリ(また明日2)

「水谷、今日のプール開放、サボり? じゃあ、サッカーの試合、見に来いよ」


 突然遠藤君が電話をかけてきた。ラジオ体操が終わった後、ぐずぐず二度寝したためプール開放に参加するにはもう遅い時間。

 水泳が苦手とかじゃなく、今日の蟹座は水難の相があるって言うんだもん。仕方ないよ。なのに。


「それをサボるって言うんだ。また賭けをしようぜ。今日の試合でハットトリック決めたら俺の勝ち。叔母さんにサボったってばらされたくなかったら、逃げるなよ」


 そう遠藤君に脅されて。今私はチームの応援団から離れた場所でこっそり試合を観戦している。母親同士が友達で、幼なじみとして育った私達だが、引っ込み思案の私と違って、遠藤君はとにかく目立つ人なのだ。

 彼は小学校低学年から地元のサッカーチームに所属していて、6年生の今はキャプテンを勤めている。まるでお日様のような人だと思う。ヒマワリがお日様に向くように、周りの人の視線を自然と自分に引きつける。

 今日も前半で遠藤くんが2本シュートを決めて、2対0で勝っている。彼がシュートを決めるたび、歓声が上がった。

 でも私は応援じゃなくて、賭けのために観戦している。ハットトリックというのは一試合、一人で三点得点すること。だから大変、あと一点で賭けは遠藤くんの勝ちになる。

 遠藤くんは負ける賭けはしない。いつも私は一方的に賭けを吹っ掛けられては、罰ゲームとして、ジュースを買いに行かされたり、おにぎり弁当を作らされたり……。


「あらあら、応援に来てくれたの?」


 溜息をつく私に遠藤ママの声が降ってきた。


「こんな離れた場所じゃなくて、前で一緒に応援しましょうよ。息子も喜ぶし」


 ちょうどハーフの十分休憩に入ったようだった。遠藤ママが私の手を取る。タオルを手に持った遠藤君がすごく不機嫌な顔をしてこっちを見ている。慌てて手を引っ込めた。


「い、いえっ、今日は応援じゃなくて。遠藤君に言い渡された賭けの……」


「賭け?」


 なぜ遠藤君が怒った顔をしてるのか。動揺して、次々不用意な本音を漏らしてしまう。


「いえ、賭けと言ってもお金を賭けるんじゃなくて。命令を一つ聞くってだけで。その方がやる気が出るからって。……でも…どうしよう。なんか遠藤君怒ってるみたい」


「あれは怒ってるんじゃなくて、私を威嚇しているのよ。ひょっとしたら、バカ息子に無理矢理試合見に来るようはめられた?」


「え」と言ったきり固まってしまった私を見て、遠藤ママは心底気の毒な素振りを見せた。


「ホントごめんね。不器用な息子で」


 不器用って遠藤君のこと? ヒマワリ畑を照らすお日様みたいに、いつも注目を浴びて、不器用って言葉とは一番無縁な人なのに。


「素直に応援に来てって言えば良いのにね」


 遠藤君、本当は応援に来て欲しかったの? でも応援より、賭けの行方を見届けるために試合に来いってニュアンスだったけど。


「図体ばかりでかいけど、いつまでも幼くて。こんな息子だけど見捨てないでね」


 遠藤ママはそう言って苦笑した。見上げてばかりの遠藤君だけど、大人から見ると私も彼も同じに見えるらしい。遠藤くんがまるで双葉のヒマワリ扱い。何だかおかしい。

 後半の試合。遠藤君はマークがきつくなり、シュートを打たしてもらえない。逆に流れは敵に移り、一点、二点と点差を詰められた。

 ラスト五分にチャンスは来た。巧みなドリブルで敵を抜き、ゴール前までボールを運んだ遠藤君が、最後の一人に行く手を阻まれた。

 だが自信満々の彼だから、強引にシュートに持って行くだろうと思った次の瞬間、遠藤君はノーマークの味方選手にパスを出した。不意を突かれたキーパーの脇を掠めてゴールが決まる。3対2。チームは勝ったけど、遠藤君はハットトリックを決められなかった。



「あー、悔しいな。でも約束は約束だ。何か一つ言うこと聞いてやる。何にするんだ?」


 遠藤君との賭けに勝つなんて初めてだ。ジュース? 漫画? いやいや、夏休みの宿題を教えてもらうのも良いかもしれない等とグルグル考えているうちに、


「ぶっぶっ、ぶーっ! 時間切れ。おしまい」


と遠藤君。制限時間なんて約束あったかな?


「次の賭けは水谷に有利にしてやるよ。明日のプールで、水谷が二十五メートル泳げたらお前の勝ち。俺も確認のため参加するからな」


 無理だと思って、ちょっとずるいよ。でも表情から最後のシュートを決められなかった遠藤君の悔しさが伝わってくるから何も言えない。

 本当は、彼はいつもお日様であろうとしているだけで、むしろお日様に精一杯手を伸ばすヒマワリに近いのかもしれない。誰にも気取られないようにしているだけで。

 だから、私も昨日よりもう少し頑張って手を伸ばしてみようかな。もしかしたらゴールに届くかもしれないし。そう思ってついコクリと頷いたら、遠藤君が意地悪そうに笑った。







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