疾走 伍 湾岸流します
男の頭の中で流れていた、
♪弱き者 汝の名を〜 〜 しなやかに
♪強き者 〜 〜を名乗れ ささやかに
なんと言う曲のだったろうか、
男は考えていた。
男の手には黒いタグの付いたキーがある
決して(男には)使われる事の無い、
バイクのキーが『Horse of BLACK』と
刻まれた黒い革のタグに繋がれてそこにある。
裏には『S' BLACK BIRD』の文字も。
握り締め立った。
男は歩き出した。
∧
∨
男は走っている。
伊勢湾岸道を走っていた。
観覧車の陰影を見てパーキングに流れ込んだ。
が、ここには観覧車は無い。
そして今の俺の居場所も(ここに)なかった。
「あいつが居れば」
あいつが隣にいれば俺は居場所を見つけ(られ)る、
作る事もできた。
居心地悪く、甘いコーヒーを体に流し込む。
やたらに、
明るく自動販売機は立ち尽くす、
立ち並ぶ。
その男は、
「バイク乗りってのは馬鹿だ。」
「走ってれば気が済むんだ。」
と、
「一般道でもいい、」
「高速をかっ飛ばす奴も、」
「サーキットで気取ったり、必死だったりする奴も、」
「山の中の坂で転がってる奴だって同じなんだよ。」
「(バイクの下敷きになって笑っている。)・」
と、言った。
その男は、ZZ-R1100に跨りながらはしゃいで見せる。
「だから、」
「幸せかもな。」と、
「俺は。」と、
言っていた。
離れて、観覧車の陰影が見えていた。
この先は新名神に入る、
その先は中国自動車道に入ろう。
カーブが多いが、交通量は少ない。はず。
目指すは福岡か、博多。
男の声は、
「今日は、どっちだ。」
と、俺は聴く。
急ごう、待っていてくれる。




