疾走 四 遠州森町
男は俺に言った。
「俺のものになれよ。」
俺は頷いて、横になる。
眼は閉じていた。
「眼をあけろよ、」
「俺の事が嫌いじゃないなら。」
あれから始まったんだ。
男は「別れようか、」
「わかった。」と俺
これだけで終わるのか。
「カラダ、だけだったのかな。」
「本当に終わったのかな?」
「もう、」
「だめかな、」
「俺たちはもう終わりかな。」
俺は男(友)に吐露していた。
その時外には、
∧
∨
俺はあいつが男と居る所を見てしまった。
『俺が捨てたんだ』
男は言い聞かせている。
男は新東名高速道路を走っていた。
CBR1100XXが走っていた。
あまり好きではなかった、
新しくない東名の方を選んで走っていて、
男がここを走る事は滅多になかった。
男が音楽を聴きながら走る事は、
今は無い、滅多にまず無くなっていた。
男は引っ張り出して物理メディアを見ていた。
あいつが(誕生日に)呉れたCD。
男は奥にしまいこんでいたメモリプレーヤーを掻き回回す。
プラスチックでできたおもちゃの様なプレイヤーを引っ張り出す。
もう一つ見つけ出す。これも小さい。
この小さいプレイヤーの中身を入れ替える。
おそらくはその頃聞いていた音楽、
今、聞きたい、音楽に入れ替えた。
(うたうたいはかわらない)
男は男の背中を真似てベストを作った。
男が背中に背負った入れ墨を真似て。
藍いデニムのベストに刺し入れた。
男を真似てベストに背負い走っていた。
ハンドルに貼り付けたスマートフォンは
表示は消している。
男の耳にはイヤホンが、
有線で小さなプレイヤーに伸びている。
音は出ていない。
男は(息を切らせる様に)パーキングへと逃げ込んで行く。
バラバラと大型車が停まっていた。
エンジンがあちこちで大きく唸っていた。
バイクを停めて歩いて行く。
駐車場から離れていく、
昼には人も居るのか、
奥へ奥へと歩いて行く。
今、ここに人は居ない。
ここに灯は少なく遠くばかりが明るい。
イヤホンジャックに改めて繋いでいる。
小さなプレイヤーに改めて電源を入れる。
ボリューム『△』を押し続けている。
イヤホンは、音を漏らしながら、
男を音に包んでいく
『中島みゆき』が叫んでいる
『人生の素人』を叫んでいる。
大き過ぎる音が遮断して
(空に向けた顔は、星を捕まえず、)
男がひとり、そこにいる。
それは終わる。
男は駐車場へ、
『はじめまして』と叫んでいた。
バイクに跨がった。
『▽』を押している。
バイクは動き出し、
バイクが俺を運んで行く。
「まだまだ走る、」
「こいつはまだまだ走れる。」
俺は体を低くして夜を切り裂く。
再び、
『はじめまして』が流れてきた。
俺は音を薄くして走っている。
俺は男を探している。
あいつを振り切りながら走っている。
『あいつを』
俺は問(聞)いている。
『まだいけるか?』
『もっといくか?』
小さなプレイヤーの中には、
残した歌が2曲、新たに4曲の歌。
4曲はCDラストツアー「結果オーライ」から
静かに流れている。
『どこへいくんだ』
『まだまだいってやるよ』
黒い革のタグを揺らしながら言っている。




