2.世界を救った、その後で
第三話です。 ここで物語が動き始めます。 もう一話 今日中に投稿しますので、よろしくお願いします。
召喚された勇者は頑張った、それはもうとんでもなく頑張って魔王の封印をなしとげた。気が付けば結局5年もの月日がたっていた。
勇者にとって、それは永遠にも思える長い5年の月日だった。
だが、王国や世界の国々から見れば、世界を滅亡の淵からわずか5年で救ったのは、まさに奇跡と呼べるほどのスピード解決だった。人々は勇者を称賛し、その力を一国が独占することに畏怖の念を抱いた。
王城に帰還した勇者は、玉座の間にひざまずき、約束通り元の世界へ帰ることを願っており、王に女神懇願するつもりですと話した。
その時、勇者の傍らに寄り添っていた王女レイナが、静かに、だがはっきりと告げる。
「あなたを愛しています。どうか、この国に留まり、公爵(王配)として私と共に生きてはいただけませんか?」
勇者は言葉に詰まった。この5年間、魔王討伐という過酷な旅路で、レイナは陰に日向に彼を支え、励ましてくれた。彼女の尽力があったからこそ、彼はここまで戦い抜けたのだ。だが、勇者の心には、日本にのこしてきた結婚を約束した幼馴染がいる。
「申し訳ありません、王女様。僕には…元の世界に待っている人がいます。」
勇者の言葉に、レイナはわずかに顔を曇らせるが、すぐに別の言葉を続けた。
「では、私があなたについて行ってもいいですか?」
勇者は深く悩んだ。故郷に戻れば、自分は生活能力のない高校生に戻るはずだ。贅沢な暮らししか知らない王女を養うことなど、到底できない。それに、女神との約束では、元の世界に戻れば年齢も召喚された当時の16歳に戻るはずだった。現在の18歳の王女が、もし一緒に転移してしまえば、彼女も13歳に戻ってしまうかもしれない。そんな幼い彼女を連れて行くのは、日本の法律に照らせば「事案」だ。何より、幼馴染が納得するはずがない。
しかし、レイナの必死な思いは止まらなかった。「生活費は、私の財産を全て換金して持って行きます。お金に困ることはありません。試算では、日本国では資産八兆円を下らないと聞きました。なんなら、妾でも、愛人でも構いません」
勇者は日本の法律では一夫一婦制であることを、そして複数人と結婚することは法的に認められていないことを、ゆっくりと説明した。ようやくレイナは、その事実を理解してくれた。
だが、彼女は新たな提案を繰り出した。
「それでしたら、戻って幼馴染の婚約者をこちらへ連れて来てはいかがですか?もし、この世界に来ていただけるなら、第二夫人として迎え、貴族としての生活を保証します。伯爵の養女となれば、公爵であるあなたへ嫁ぐのに相応しいでしょうし、王族扱いにもなります」
さすが一国の王女様である、否定するたびに新たな提案がよどみなく出てくる。
「幼馴染を貴族にですか?」提案を思わず言葉に出し、そしてその言葉に、勇者の気持ちは激しく揺らいだ。王女の必死さに絆されたのもあるが、故郷に残した幼馴染が、お金と甲斐性にそれはもう厳しかったことを思い出したのだ。
貴族になれば、その収入や資産だけでも超スーパーセレブだ。
「甲斐性があれば、納得してくれるかもしれない。いや、むしろ喜んで来てくれるかもしれない…」
両親に心配をかけることになるが、一兆円相当の貴金属を結納として贈るとレイナは言う。
「わかった。納得してくれるかはわからないけど、彼女に話してみるよ。でも、もし断られたら、僕は二度とこちらには戻ってこないことになる。それでもいいかい?」
「はい。ありがとうございます、勇者様」
レイナの瞳には希望の光が満ちていた。こうして、勇者は婚約者を連れてくるため、元の世界に戻ることを決意した。
勇者爵(公爵待遇)に叙され、盛大な祝賀会が催された。功績を称え、聖剣は女神像の前に奉納された。そして、いよいよ転移の時が来た。
召喚陣が光り始め、勇者が一人でその光に包まれようとした、その瞬間――誰も予想しなかった事態が起こった。
レイナが勇者めがけて走り出し、その光の中に飛び込んだのだ。
転移が終わると、勇者とレイナは、元の世界の路地裏で抱き合った状態になっていた。レイナは勇者の顔を見るなり、涙を流して謝った。
「ごめんなさい…今生の別れになるかもしれないと思うと、我慢できませんでした」
勇者はレイナの気持ちが痛いほどわかり、仕方ないなと思った。しかし、それ以上に衝撃的な事実が彼を襲う。転移した場所は元の世界だったが、なんと、異世界で過ごした時間そのまま、5年が経過していたのだ。
「…私のせいですね」
レイナの顔は真っ青になり、震える声で謝罪した。
「そうかもしれない。でも、君だけが悪いわけじゃない」
勇者は震えながらも、落ち着いて思考を巡らせた。
「今回の転移の目的は、幼馴染の婚約者を説得することだ。彼女を納得させるには、僕が甲斐性のある大人である必要がある。高校生では難しい。だから、この姿のまま転移したのかもしれない」
勇者は、自分にそう言い聞かせるように、そしてレイナを安心させるように続けた。
「とにかく、今は彼女を探そう」
そして、勇者は幼馴染がどこにいるか調べ始めるのだった。
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