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スキルハーツ!  作者: mission No.149
第一章 金色の桜
8/17

第六話 骨と身ブレイカー

少々長いです。張り切りすぎました。


タイトルは、「ホネトミブレイカー」

響きはいいと思うんだ。


今回のタイトル難易度

★★

 春と言えども、まだまだ寒さが残っている。ヒューと吹く風は、ワイシャツの内部へ侵入すると体の体温を奪い、破門と討窪の体を少しだけ

震わせる。

 討窪の、人工染料による金髪と、耳たぶにぶら下がる銀色のピアスが太陽光によって輝いた。


「討窪。また病院送りにしてやるよ」


「はっ! そう何度も頭突き喰らうかいな」


 少しだけ口元を引き上げて対峙する。間合いは十分。互いの体勢も万全。


「いくでぇ!」


 討窪は右手の中指と人差し指を立て、印を作った。これこそ、テキストを行使する合図ともいえるのだ。


「高校からは異能力者の規制が緩なったからな。本気でいけるって、もんやで!」


 討窪は右手で銃を表現した。そしてその銃口を破門に向ける。

 刹那、その人差し指に黒い、ちょうどピンポン玉大の球体が現れた。

 はっ! という討窪の声とともに、その黒球は勢いよく破門へと一直線に向かっていく。


(確か、あいつの異能力は……)


 マグネイド。

 それが討窪の異能力。

 討窪の作る黒球に当たった物体は、討窪の元に引き寄せる。そんな能力だ。


(中等部のとき、知らずに当たって、ちょー引きずられたっけか)


 破門は単細胞なりの脳で、昔の経験を思い出した。

 マグネイドの長所。マグネイドは発動者がテキストを絶たない限り、半永久的に引き寄せることができる。

 そして、短所。


(アイツが打てるのは、五分に一発!)


「よっ!」


 破門は右横に軽く飛び、黒球を避ける。ただの一直線攻撃。対してスピードもない。

 これで、五分は討窪は無能力者同然。と、思ったその時。


「なっ!?」


 一発目に隠れた二発目が、避けた破門に向かっていた。

 確かに今思えば、五分に一発など三ヶ月も前のことだ。成長していても何ら不思議ではない。


「避けられるかいなっ!」


「くっ!」


 破門は右横へ何とかもうワンステップ。体をほぼ地面と平行にし、何とか避けられたが倒れることは必至だった。

 避けることは避けられた。しかし、そんな少々の安堵を覚えたのも束の間。


「なっ!? 三発目!?」


「ははっ!」


 まさかの三発目。討窪は、黒球が破門に当たることを確信した。

 倒れ気味の破門。迫る黒球。不可避のように思えた。が。


「舐めんなっ!」


「おっ!」


 破門は突差に両手を地につけ、大きく両足をふって側転をした。それはまことしなやかで、着地まで綺麗に流れるような動きだった。

 破門はそして、華麗に着地を決める。


「やりおるな。でも!」


「う、嘘だろ!」


 ここにきて四発目。中等部の時は一発が限界であった討窪もそれなりに腕を上げていたのだ。

 ほぼ破門の着地と同時に、黒球は破門の鼻に直撃し、パンッと音を立てて破裂した。


「いててててっ!!」


 破門の鼻が誰かに引っ張られるように伸び、それを先頭に討窪の方に体ごと引き寄せられる。足など、浮いてしまっているのだ。


「ほーれ、いっくでぇ!」


 破門と討窪の間はあっと言う間に詰められ、もう破門の目の前には右腕を構えた討窪がいた。


「や、やば、ふごぁっ!!」


 破門の顔に見事な右ラリアットが決まる。その時点でマグネイドの効力は消え、破門は討窪のすぐ横に仰向けで打ちつけられた。

 コンクリートの地面が、破門の痛みを大きくさせる。


「いってぇっ!」


「へっ! そんなもんかいな!」


「……ちっ! まだまだぁ!」


 破門は体を少し起こして、左足を討窪の足めがけて振るい、足払いを狙う。しかし討窪はそれを読み、ジャンプしてそれを避けた。

 飛び上がったことで隙をつくった討窪を破門は確認。左足の勢いそのままに体を立ち上げ、踏み込んで、大きく間合いをとった。


「逃がさへんっ!」


「くそっ!」


 すでに破門の目の前に黒球があった。討窪が空中で発射したらしい。

 顔めがけてやってくるそれを、破門はギリギリで、捲ってあったブレザーの袖で弾いた。

 そして、当たった部位を筆頭に、ブレザーが破門の体ごと引っ張られる。

 破門が急いでブレザーを脱ぐと、不気味にも破門のブレザーのみが討窪の方へ、ビュンッと引き寄せられた。


「こんなもんいらんねん」


 討窪は破門のブレザーを手にとり、汚いものでも触るかのように提げた。


「討窪」


「あん?」


「気をつけな」


 破門はニヤリと笑いながら、印を結び、テキストを集中させる。すると。

 ヒュン、と何かが風を切る音。そして討窪の目に飛び込む小さな陽炎。


「は? 何を、ってうがっ!! あ、あ、熱っ!! ごっつ熱い!」


 討窪の頬に何か非常に熱い物体が当たった。フロム、ブレザーの内ポケット、だ。

 何かと思い、討窪は自身に直撃した、地面に転がる物体を確認した。そして、それは。


「加熱用ツール……!!」


「さっきブレザーを脱ぐ時、紙を数枚内ポケに忍ばせておいた。んで、てめぇがブレザーを取った瞬間、元々内ポケにあった加熱用ツールを作動して、紙を使っててめぇの顔めがけてブン投げた」


「……案外やりおるのぉ。破門のくせに」


「俺をあんまり見くびんなよ」


 破門は腕を組み、胸を張り、顎を上げ、痛そうに頬を押さえる討窪を見下ろした。


「ふん、それは」


 討窪はヒリヒリと痛む頬に手をあてがいながら、ニヒルに笑った。


「こっちの台詞やで?」


 破門はぞっとした。嫌にテキストが背後から感じられたからだ。

 破門は振り向くと、そこには黒球があった。


「なっ!?」


「一直線にしか飛ばせない思たら、大間違いやで!」


 見事な曲線を描いて飛んできた黒球は、パンッと音を立てて破門の額で破裂。

 徐々に、討窪への引力を感じてきた。


「お、おお、おおおっ!」


「ははっ! こっちやこっち!」


「いたたたっ!!」


 例えるなら、額に巨大な凧を括りつけた感じだろうか。

 無理矢理に引かれるその感覚は、内蔵をヒューっとさせられるアレによく似ている。

 討窪は破門から逃げるように駆けていた。破門は嫌が応でも「鬼」の役目だ。


「は、早く止まれチクショー!!」


 破門が叫ぶと、討窪は足を止めた。ただ、止まった場所に問題がある。

 討窪が立ち止まった先には、広場を取り囲むように並んでいる、木があった。

 

「ほっ!」


「やばっ!」


 討窪と激突する寸前、討窪は木の枝に掴まりその体を猿の如く木に登らせた。

 当然破門の先にあるのは、硬い硬い木の幹だ。マグネイドによる引力は速攻に方向転換することはない。だから。


「ぐあっ!!」


 バンッ、と破門の体は打ち付けられる。

 破門は額を両腕で覆い、頭部が衝突するのを何とか避けたが、そのダメージはなかなかに大きい。

 マグネイドが解け、破門の体はフラフラ。意識が一瞬だけ朦朧とした。


「まだやでっ!」


「がはっ!!」


 追い打ちの踵落とし。

 木の枝に掴まっていた討窪のそれが、破門の頭を真下の土に叩きつけた。幸いにも、木の周りはコンクリートではなかったのだ。

 

「いってぇぇ!!」


「はははっ! 甘いで! 破門ぉ!」


「くそっ! あってめ討窪! 足乗っけてんじゃねぇ!!」


 討窪はうつ伏せに倒れている破門の背中を、我がもの顔で踏みつけていた。

 破門の横を過ぎる、優しい木漏れ日とは相異なるこの雰囲気。破門の眉毛には皺が寄っていた。


「ほんまもんの負け犬やなぁ!」


「んだと、コラッ!」


 破門はリズボルトを発動させた。左腕にテキストを送り、紙を操る。その紙は一直線に討窪の目元へと飛んでいった。

 そして、一辺五センチほどのそれを討窪の目元に二枚張り付けた。


「なっ! 何も見えへん!」


 破門は上手く紙をブラインドに使った。そして。


「どらぁっ!!」


「ぐほぉあ!!」


 ブラインドのせいでよろけた討窪は、破門に足を掴まれ、勢いよく倒された。

 破門は急いで立ち上がり、仰向けになった討窪の腹を踏みつけた。

 見上げる討窪を、破門は見下ろした。


「はっ! 形成逆転!」


「くそぉ」


「お前が負け犬だな!」


「はぁ。やられたで……なんてな」


「ん!?」


 討窪は黒球を作り出した。そしてそれを即座に発射した。


「あぶねっ!」


 破門は間一髪でその黒い弾丸を、頭だけを動かして避けた。そして、背後でパンッという音が破門の耳に入った。

 マグネイドの引力といえど、限界がある。引き寄せられる物。引き寄せられない物。強く固定されている物体に黒球を当てたところで、その物体が動くことはない。

 今回もその類に思われた。破門の背後にあるのは樹木だ。マグネイドの引力ごときで動かされる代物ではない。

 そう思った、矢先のことだった。


「がっ!」


 破門の後頭部に何かが当たったのだ。それは硬くて、所々尖ってそうなフォルム。破門は背後から直撃した何かを確認するよりも前に。


「せいっ!」


「なっ!」


 討窪にネクタイを掴まれ、一気に顔を寄せられた。

 そして、鈍い音。

 とどのつまり、頭突き。


「ぐほぉ!」


 討窪は無謀にも頭突きを繰り出し、痛みに耐えつつも次の攻撃に移る。破門のワイシャツの襟元を掴み、破門の腹に足の裏を当て、一気に破門の体を頭上を通り越して投げ飛ばす。巴投げだ。


「いてっ!」


 破門は背中からコンクリートの地面に落ちた。背中を反らし、その痛みを少しでも軽減させようとした。


「痛いのはこっちやで破門ぉ! めっちゃ硬いやん、頭ぁ!」


 破門は叫ぶ討窪を無視し、その後方にある、後頭部に当たったらしい何かを確認した。

 よく見えない。何だあれは?


「え、枝……か!」


「ん? ああ、これか?」


 討窪は下に落ちている枝を拾い上げた。


「さっき、俺は枝に掴まっとったろ? そんときに軽く折っといたねん」


「はぁ……なるほど。だから引き寄せられたのか」


「どうせマグネイド避けられる思てたからな。俺の狙いは、自分の頭やのうて、その背後のこいつやったっちゅーわけや」


 木や枝自体は強く固定されているから、ビクともしない。しかし、ある程度折れた枝なら、十分引き寄せられる。だから、その枝と討窪の間にいた破門に当たったのだ。

 頭に対する衝撃だったので、破門にはノーダメージだったが、隙を作るには申し分なかった。


「そして、破門。俺はお前の弱点を見つけたで」


「は? 弱点?」


 討窪は背中を押さえて座っている破門に対し、指を指した。


「自分、連続してリズボルト使えへんやろ」


「……」


「最初からおかしい思てたんや。リズボルトを使える自分に、マグネイドを避ける必要がどこにある? 紙で防げばええことやろ」


 リズボルトの紙はほぼ無限にある。確かに、たったの紙一枚を犠牲にして防げるのだから、いちいち体を動かす必要などないのだ。


「なのに、自分は避けた。これはつまり、そん時に限ってリズボルトが使えへんかったちゅーことや。もっと言えば、リズボルトを使うには時間がかかるんや」


 討窪が自身の分析を自慢げに話した。討窪が言いたいのはつまり、リズボルトの使用にはいちいち充電時間がかかる、ということ。


「一発目をあんな必死になって避けてたのはリズボルトが使えなかったから。何せ、ちょっと前までは折り紙しとったんやから。その次のときも、俺に加熱用ツールを当てるためにリズボルトを使用しとった」


 討窪は両手で印を結んだ。右手の人差し指を中指を、左手の親指と薬指と小指で掴む。


「俺の分析にやれば、自分がリズボルトを使うのにかかる時間は三十秒程度。自分、さっきリズボルト使っとったよなぁ!」


 討窪の周りには、大きなテキストを感じられた。可視ではないが、オーラというか、雰囲気で分かる。

 討窪は両の手の平にバスケットボール大の黒球を作りだした。


「これはもう避けられへんでぇ! リズボルトも使えんしなぁ!」


「……は?」


「ん?」


「え?」


「え?」


「は?」


 破門はポカンとした顔で、討窪を見つめた。


「別に、リズボルト使うのに、そんな制限ないし……」


 破門は紙を左腕から二枚剥がし、それで『手裏剣』を作った。

 それを見て、討窪は口を開けたまま動かなくなった。


「じゃ、じゃあ何で今まで紙で防がなかったんや!?」


「え……特に理由はねぇけど」


「……」


 アホやぁー、こいつアホやぁー、という声が、夕方のカラスの鳴き声の如く、広場に広がった。


「いや、何の説明してんのかなーって思ってたけどさ」


「何っでやねん! ほんまアホやな自分! アホ! アホ!」


「アホアホうるせーよ!」


 討窪は大きな黒球を、自身の手前にかざした。苦悶の表情を直し、改まって破門を睨む。


「せやけど、これは防ぎようないんちゃうか?」


「あ?」


「いっくでぇ! スプレネイド!」


 討窪はその巨大な黒球から両手を離し、右拳で思い切りそれを殴りつけた。

 すると、巨大な黒球は破裂。中から今まで通りの小さな黒球が、幾つも発された。その数は、ぱっと見では数え切れないほどに多数だ。


「全方位攻撃や!」


「うぉっ! マジかよ!」


 黒球は一直線ばかりではなく、曲がりくねり、破門の背後にもつけたいた。盾のような物がないとこんな、黒球のシャワーは防ぎきれない。

 しかし、破門にはあった。

 全てを防ぐに足る、大きな盾が。


「はっ、盾紙(たてがみ)!」


「なっ!」


 シュルルともの凄い勢いで左腕から紙が剥がれ、破門の周りを囲んでいた。盾というよりも塀、壁の類だ。

 そうして全ての黒球を防ぐ。マシンガンの銃声のようなその破裂音は、破門の一歩手前で聞こえた。


「くそっ! そないな量扱えたんかいな!」


 当然紙は討窪に引き寄せられる。破門の盾は徐々に討窪へ向かい、一種の芹壁、横向きバージョンのようになっていた。

 迫りくる紙の壁を、討窪は動揺しながら見つめていた。

 さっきので、テキストをほぼ全て使い果たしてしまった。しかし、あれだけの量の紙だ。破門とて同じことだろう。討窪はそう思った。


「ともかく、解除せんと!」


 討窪は高速で迫りくる紙を、テキストを絶つことで散開させた。紙がバラバラと舞う中、これからどう戦おうか討窪が考えていたところ。

 そいつは来た。


「何っ!?」


 目の前に、なぜだか破門がいた。


「でぇぇいっ!!」


「がっ、はぁっ!!」


 破門は体を反らし、討窪の額にジャンピングヘッド。討窪の脳は、おそらく岩がぶつかったとでも判断したことだろう。それほどの硬度を以て、討窪を吹き飛ばした。


「な、な、な……」


「へっ!」


「な、何が……」


「簡単なことだよ」


 十分な間合いはあったはずだ、と訳が分からなくなっている討窪に、破門は得意げに説明を始めた。

 破門は紙で盾を作る中、一カ所だけ穴を開けておいたのだ。そこから侵入してくる黒球を自身の額にわざと当て、紙ごと自分を引き寄せられるようにした。


「————そんで、紙で体を隠して、てめぇが能力を解除するのを確認。そのタイミングでてめぇに突っ込んだ」


「……マジかぁ。逆に、利用されてもうたな」


 討窪は仰向けのまま、動かなかった。正しくは動かせなかった。テキストも底をつき、頭突きのせいで意識が朦朧とするからだ。


「ふぅ。俺のか……あぁーーーーっ!!」


 口を大きく開き、頭を抱え、破門は突如走り出した。


「忘れてたぁーー!!」


 噴水のあるところに着き、カップラーメンを手に取る。


「くそぉ……硬麺が、良かった」


 討窪は疲労困憊しているのに、破門は走れるほど体力が余っている。この差を討窪は苦々しく思った。

 ただ、今までの勝負の中で最も高度な戦いだったと、讃美にも似た感情を討窪は抱いた。


「今回も、俺の負けやな」


「うーん、噴水の水は何かジャリジャリすんなー」



私は一体何時に更新してんだか。朝の四時半です。

ん? ええ、そうです。徹夜の真っ最中です。あぁ、お肌に悪い・・・。夜更かしは太るともいうしね・・・。


今回は初のバトルでしたが、いかかがでしたか。


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