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スキルハーツ!  作者: mission No.149
第一章 金色の桜
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第四話 新進エナジー

今回のタイトル難易度

 周り一面に広がるエメラルドグリーンの芝生。所々に生えている桜の木や、芝生を刈ってできたコンクリートの道、それに沿って等間隔に並ぶ細長い街灯。道から覗ける景色は人工物の建物と天然物の自然が見事に重なって、相乗効果的に人の目を輝かせる。

 これらの光景を目にした新入生達は感嘆の声を上げ、ここに入学して良かったと心の中で小さく呟く。


「やっぱ見ねぇ顔が多いな」


「確かに。中等部まではここだったけど、って奴が今年は多かったからな」


 破門と辻崎の、それぞれの黒髪と黒眼はここでは少々目立つ。なぜなら、基本的に黒髪の遺伝子を持つ能力者及び無能力者や異能力者は案外少ないからだ。


「なぁ千宮。この中の何人が異能力者だろうな」


 破門が後ろを振り向き、千宮に話しかけた。


「……」


 やはりと言ったほうがいいのか、言葉のキャッチボールにおける返球は無かった。

 出会った頃よりは幾分か打ち解けた気もするが、破門は胃に透明な板がつっかかったような面もちで、破門は再び前を見直す。

 気づけば体育館が目の前にあり、中等部のそれよりも遙かに大きかった。

 入学式会場とデカデカと掲げられた看板を通り過ぎ、教員達が並んで立っているところへ近づいた。


「新入生は名簿に丸つけてから入場してくださーい」



*** *** ***



「新入生、起立!」


 ザッと足を床に踏み込む音がして、カルマ高等部の新入生が一斉に立ち上がった。

 ただ一人だけを除いて。


「んんっ! 新入生、起立!」


 司会がもう一度、その一人のために声を発する。しかし、その者はピクリとも動かない。


「新入生、起立!! ……あぁもう、隣の人、起こしてやって」


 グッスリと眠って独り座っているその生徒の肩に、隣に立っている生徒の手がかかった。


「あ、あの」


「……ぇえ? ん? あ、あぁ」


 起こされたその生徒の左手には紙が満遍なく貼り付けられていて、それがより一層彼を目立たせていた。


「はぁ……何やってんだよ破門……」


 遠くて見ていた辻崎は呆れながら額に手を当て、ため息をついた。

 普通なら起こすのは辻崎の役なのだが、能力者と異能力者の席を離れているため、その役は他の異能力者に委託されていた。


「ふわぁ〜……ふぅ」


 破門は大衆の目を無視して大きく欠伸あくびしながら立ち上がった。

 破門は、横にいるのはどうせ辻崎だと思って横を見ると、そこにいるのは何やらダルンダルンの制服を着た女子生徒。

 本当にダルンダルンなのだ。


「……何だお前」


「えっ? あ、あの」


 なぜこの女子生徒だけ異常なまでにサイズの合っていない、ポンチョのような仕様の制服を着ているのか不思議だったが、おそらくそれは異能力者故であろう。

 破門はそう割り切って考えるも、そもそもなぜ自分が肩を叩かれたのかよく分かっていなかった。寝ぼけているのも含めて。


「入学式、で、ですか、ら……起きてない、と」


「え? あ、ああ。そうか。入学式か……」


「んんっ!!」


 普通に私語を喋っているいる破門に対して、司会の教員は咳に黙りなさい、の意を込めた。


「え〜、では、校長先生の話。油小路あぶらこうじ校長、お願いします」


「はぁいっ」


 異常なまでに高い声がした。校長と呼ばれて、妙に甲高い声の少女が壇上に続く短い階段を上る。

 当然、会場はどよめきだす。

 何だあれは? 女の子? あれが校長? ほんとに?


「あれ……? どっかで」


 破門は、半覚醒ながらも目を凝らして壇上に上がった少女を見つめた。

 見覚えがある。どこだったか、どういう状況だったか。今一分からないが、確かに会ったことがある気がする。


「え〜、校長の油小路ピンクです♪」


「……あーっ!! 思い出したぞっ!!」


 ザワザワと小さく騒いでいた会場が、一気に静まり返る。

 さっき寝てた奴が今度は怒鳴った。破門の周りの人間はそう思った。


「お前っ!! 確かあん時ぶつかった……!!」


「げっ。高等部だったか……」


 ピンクと名乗る校長は今度は低い声で呟いた。

 間違いない。彼女は、中等部の寮を出た初日に曲がり角でぶつかった少女。黒髪の、可憐で優しげな瞳を持つ美少女。

 それが今は何と。

 校長と名乗っているのだ。


「校長かよっ!! うそだろっ!!」


「え、え〜? 何のことぉ? あ、あたし分からな〜い」


「いやいや、お前一週間くらい前に会っただろっ!」


 辻崎も気づいていた。彼女が一度出会った少女であることを。ただ、破門のようにオーバーリアクションはしなかった。できるはずもなかった。

 校長に対して不思議なくらいに失礼な口を聞く無神経な破門に、辻崎はもう呆れ返り、立ち眩みがするほどだった。

 破門が叫び、問いつめる中、大人の女性の声がそこに割り込んだ。


「校長」


「……なにぃ?」


「校長」


「……な、なにかなぁ」


 司会のマイクを奪い取り、緋色の髪をした女教員が校長に語りかけた。声色でも分かるほど、彼女は怒気に溢れている。


「入学式でのドッキリは認めますが、それ以外でのメタモルフォーゼは禁止のはずです」


「……え、えぇ〜そうだっけぇ」


 二人の会話を、破門含め新入生が聞き入った。なぜ入学初日で校長と思われる者が説教されているのだろう、と疑問に思いながら。


「校長」


「……はい」


「校長」


「すみ、ません」


 気まずそうな顔をした校長はひとまず謝った。そして、人差し指と中指だけを立てた右手を、自身の顔の真正面に置いた。

 すると、端麗な少女の顔に亀裂が入り、そのひびは青白く光りだす。そして亀裂は徐々に増え、ブルーサファイア色の光がその身全体を覆ったところ。


「え〜、校長の油小路あぶらこうじ 吟斗ぎんとです」


 徐々に光が消え、そこでは少女も消えていた。代わりに、浴衣姿で白髪のお爺さんが立っていた。そしてその老人が吟斗とという名の校長だと。

 吟斗はブスッと明らかにふてくされていた。


「はぁ……まさかこんなにも早く解くことになるとは」


「校長」


「はい」


「……頼みますよ」


 緋色の髪を持つ女教員は、捨て台詞を残し司会にマイクを返した。

 吟斗はそれを確認すると、目つきを変えて破門を睨んだ。


「おい。そこの左腕テーピング小僧」


「あ?」


 吟斗は壇上の上から破門を見下ろし、マイク片手に文句を言い始めたのだ。


「お前のせいでドッキリ失敗じゃぁないか」


「知るかよ」


 破門は吟斗の熱視線をそらしながら言った。


「くそぅ出会い頭はワシの顔に見とれていたくせに」


「はぁ!? 見とれてねーし!」


 吟斗は、生え際が額なのか頭頂なのか怪しい髪を撫で、その白いツンツン頭をさらに尖らせた。そして、しわの入った顔に殊更しわを寄せ、口をすぼめて破門に文句を続ける。


「つーか入学式でいきなり寝てんじゃないのう! ぶつかった時も眠そうな顔してやがって! ねむり男か! ねむか!」


「てめぇさっきうっせーんだよ! そっちこそ何だ、ピンクって! ピンクじゃなくてお前シルバーじゃねぇか!」


 破門は、吟斗と女教員の会話に出てきた『メタモルフォーゼ』が、何であるか知らなかったが、変身みたいな能力であろうことは分かっていた。

 破門は吟斗に指を指しながら暴言を吐いた。


「このロリコン変態野郎が!」


 しかし、吟斗は冷静に。


「いや、ワシは人妻萌えじゃ」


「……いや知らねーよ!!」


 破門がいつもより高い声を出した、その時だった。緋色の声が聞こえたのは。


「校長」


「……はい」


「校長」


「……すみ、ません」


「あとで職員室に来なさい。そこの生徒も一緒に」


 マイクの、ボコンという音がした。女教員がキレ気味に司会へマイクを投げて返却したからだ。


「お、俺もかよ!」


「ざまーみろ! アリアちゃんの説教はすご」


「校長」


「……すみません」



*** *** ***



「失礼しましたー」


「くそっ! なんで俺まで……」


 吟斗はヒリヒリと痛む、赤い頬をさすりながら歩いた。その隣には如何にも不機嫌な破門がいる。

 二人はカルマ高等部の廊下を共に歩いていた。廊下の床を縦に切る一本の白線を互いの間に置いて。


「いいじゃないか。お前ははたかれなかったんだから」


「いや、普通の先生が校長にビンタってどうなのよ」


 アリアという女教員の説教中、破門と吟斗がまたしても口喧嘩を始めたところ、アリアはまったく躊躇なく吟斗の頬を右手で思い切りはたいたのだ。

 それからは二人ともとても大人しくなった。


「ってか、あんた本当に校長だったんだな」


「ああ、そうじゃ。校長だ。校長。校長のはず、なのに……」


 普通の教員の尻にしかれる校長なんてこの世にいるのだろうか。破門は哀愁漂う吟斗の横顔を、ただ見ることしかできなかった。

 吟斗は自分で自分の腰を叩き、ふぅと息を吐いた。そこには多分に疲労がこめられていることだろう。


「お前さん、名前は?」


「俺? 破門」


「下の名は?」


「教えるかよ」


「な、なんでじゃ」


 校長が下の名前を聞いているんだ。生徒が答えない筈がない。ここまで校長を舐めきった輩は破門が初めてだった。最も伝統のある学校の校長ともなればいわんや、のはずであるなのに。


「下の名前、好きじゃねぇんだ」


「まぁ、名簿でやぶと、と調べれば一発で分かるからいいんじゃが」


「あ、しまった」


(阿呆かこいつ)


「そんなことより、さっさとクラスに行かんか」


「0組ってどこよ」


「0組!? お前が!?」


 そこまで驚かなくてもいいじゃないかと破門は心の中で思ったが、おそらく吟斗の心情は破門の、吟斗が校長という事実を知ったときの驚きに似ているだろうとも思った。


「そーだよ。場所どこだよ」


「0組はそこの階段を上って、すぐ右じゃ」


「どうも」


 破門はいかにもダルそうに歩いた。ツンツン頭をクシャクシャといじり、ネクタイを少し緩めた後、少しだけ小走りで目の前の階段へと向かった。

 一段飛ばしで駆け上がった。少し上った辺りで向きを反転させ再び上り始める。


「破門、か」


 吟斗は腰を押さえながらそう呟いた。



*** *** ***



 破門は扉の前で深呼吸した。第一印象が大事。遅ればせながら参上するのはなかなか目立つ。面倒な学校生活を送らないためにも、あまり気をてらうようなことは避けたい。

 不可避なことはしょうがないけれど。どうしても驚いたときは叫んでしまうし、校長に暴言は吐くけれど。


「ふぅ……よしっ!」


 破門は、勢いよく開けるでもなく静かに音をたてずに開けるでもなく、至って普通に目の前の扉を横に流す。


「遅れま」


 ポフッ、という音。

 なんとベタな。今でもやる奴がいるとは。しかしながら引っかかる奴もいるとは。

 破門の髪に白い粉末がふりかかる。刹那、その粉末を発している物体が床に落ち、さらに破門のズボンにまでその被害を広げた。


「ぷっ! 破門だっせーっ! んなもんに引っかかるんかいな!」


「てんめぇ討窪うちくぼ……っ!」


 扉が少しだけ開いているなとは思った。思ったけれども、なぜか回避できなかった。破門は黒板消しという名の白い粉末爆弾を拾い上げ。


「おらぁっ!」


「へぶっ!」


 討窪めがけてブン投げた。黒板消しは討窪のちょうど顎に当たり、討窪はその場に倒れ込み、椅子がガタガタ倒れる音がした。


「何すんねやこらぁ!」


「ふんっ!」


 破門は白に染まった髪を払いながら、0組の教室内を見渡した。

 教室の中は中等部のときと違って、黒板や教壇のあるところを底とした擂り鉢状だった。階段になっており、その小さな階ごとに机が金具で設置、固定されている。

 ただ、広い教室の割に生徒が少ない。


「あら、あなたが破門君?」


「え、ああ。はい」


 振り向いて驚いた。教壇のところにいるから担任だろう。声に似合わないズンとした佇まい。優しい顔だが首が太い。

 一言で言えばオカマ、であるようだ。


「みんなもう自己紹介終わっててぇ、あとは君だけなの」


「はぁ、マジすか」


「だからぁ、今ここで自己紹介をお願いしましょうかしら」


「わかりまどわぁっ!」


 後ろからの飛来物に反応できなかった。破門は後頭部を押さえながら振り向いた。


「討窪ぉ〜!!」


「へっ! お返しやで!」


 金髪で前髪までかき上げてツンツン頭。カンサイ言葉に不良のような体たらく。

 討窪うちくぼ 大和やまと。それが彼の名である。破門とは中等部のときからの縁で、何かと破門につっかかってくる。おそらく黒板消しをセットしたのも彼だろう。というか彼だ。


「討窪君? あまり騒いじゃいけませんよぅ」


「いやぁ先生。黒板消しを元の位置に戻そうとしたら、変なのがいましてん」


 担任の先生はいかにも優しげだが、それは顔と声だけで、ムキムキの体がその本性を隠しているように破門には見えた。


「あたしの名前はマックス=トロールよ。よろしくねぃ」


 筋肉質かつ妙に生傷の多い図太い腕が教壇越しで、破門に差し出された。爪には透明マニキュアが塗ってあって正直ミスマッチだ。

 破門はその男気溢れる手と握手した。

 そして、破門はその手を離して同級生達の座る方へ向きなおした。


「えっと、破門、です。よろしく」


「愛ちゃーん」


「討窪は黙れっ!」



最近受験勉強が忙しいです。模試もあるし、定期テストもあるし、部活は大会近いし、と、色々疲れますが、明日も張り切っていきたいです!

授業中はフリスクと目薬が必需品です。


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