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スキルハーツ!  作者: mission No.149
第一章 金色の桜
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第十話 猪突チャージ


読んでくれる方に最大の感謝をこめて。


タイトル難易度


 カル校には花畑があり、近くのビニールハウスではメロンをつくっている。また、森林エリアなる域が存在し、主に実戦演習用に使っているらしい。

 桜が大いに咲き乱れる。掃除係のおばちゃんは、落ちた桜の花びらを屋外用ギア式掃除機で荒々しくも回収をしていた。


「わりぃ。遅れた」


 その辺りに設けられた多目的ホールに、破門は来た。

 しかし勿の論で盛大に遅刻。時計の長針が一周するほど遅れてやってきたのだ。

 いつものは辻崎に対して使う常套文句も使ってしまっている。


「遅れたじゃないですよー」


 今回「能力測定」とやらを理由に多目的ホールへ赴いた。旧校舎の見学終了後、昼休みを挟んで午後からの能力測定のためだ。

 多目的ホール内のとある一室。破門がその入り口の扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、白衣を着た桃髪の少女だった。

 ……少女?


「まったくー。ではー、そこに座ってくださいー」


 破門は少女に導かれた。

 破門は、ちょうど病院のように向かい合わせになっている椅子の一方に腰掛けた。辺りはメカニックな教室のようなところ。配管が剥き出しで、さっきから所々で蒼い閃光が壁を這っている。

 能力測定は、一人一人その能力に合った検査方法をとる。そのためにまず教員と個別診断を受け、最適な測定の方法を決定する。


「よっこいせ。では診断を、始めますー。破門君ですよねー?」


 破門の測定を担当する教員は、今し方目の前に座っているどう見たって小学生としか思えない、少女だった。足だって床に着いていないし。しかしそれよりも抜群に気になるところは、彼女の桃毛を突き破るようにそびえ立つ、二つの————


「担当の保健医ですー。よろしくお願いしますー」


————ネ、ネコ耳……?


「よ、よろしく……」


 さっきからピコピコ動いているそれは、耳だろうか。いや、違うか。ちゃんと目のすぐサイドに耳あるしな。それに本名は? 保健医って言われても。


「破門君ー。ちょっと万歳していただけますかー?」


 色々不審な点はさて置かれて、またもよく分からないことをさせられた。

 保健医は白衣のポケットから球体の機械を取り出した。

 それはテキストを送るだけで発動する、便利なツール商品の一つだ。ちなみに破門は加熱用ツールと発光用ツールを持っている。

 保健医が持っているのは測定用ツール。静止した対象を三次元のスペックで高速記号化し、シミュレーションと演算を繰り返す。そうして対象の骨格、脂肪率、代謝、血液状態身などを把握し、身体検査を済ませるのだ。

 保健医は測定用ツールを破門の頭上へと放る。すると測定用ツールは青色の発光し、浮きながら破門の体を照らした。


「はいー。もう手は下げていいですよー」


「はぁ……」


「破門君、身長百六十九cm、体重六十二kg。少し栄養摂取に偏りがありますねー」


 ではこれから能力測定の診断を始めますよー。保健医は椅子に座り直してそう言った。プラプラとぶら下がって落ち着きのない彼女の両足と、ピコピコ動いている両耳が気になって仕方がないけれど。


「破門君の異能力コードは『リズボルト』ですねー。紙を操る能力ですかー」


「……」


「コードバンクで調べてみたんですけどー、どうも今まで『リズボルト』をもった生徒は一人もいなかったんですよー」


 コードバンク。

 あらゆる異能力が載っている、いわば異能力の広辞苑。大抵の場合はそれに記載されているが、稀に『新たな異能力』も存在するため、全てを網羅しているわけではない。カル校のコードバンクは図書館に設置されており、生徒及び教員の異能力がのっている。

 能力測定において、コードバンクは測定方法を決定するのに重要となってくる。過去に行われた測定方法に則すればそれで済むのだが『新たな異能力』に関しては『新たな測定方法』を考えねばならなくなる。


「紙を操るといったら愛子さんみたいですねー。名前も愛ですしー」


「愛子……? 誰のことだ」


 自分の下の名前が出た途端、破門は目の色を変えて体の毛穴という毛穴から殺気を放出した。ところが『愛子』という言葉が先に気になった。


「知らないんですかー。では知っておいた方がいいですよー。テストによく出ますしー」


「だから誰なんだよ」


「この学校の創設者、カルマの奥さんですよー」


「……へぇ」


 破門の『いちへぇ』は置いといて、カルマの日記一ページ目にそれはのっている。


————最愛の妻、愛子とともに私は学校をつくった。


 愛子という名が出たのはこの一文だけであり、出会いや馴れ初め、子供の有無などは一切不明である。もしかしたらカルマの日記三ページ以降に書かれているのかもしれないが、いかんせん行方が分からないから謎のままである。


「まぁそんなことはどうでもいいんですー。早速測定方法なんですがー」


 保健医は破門の資料とにらめっこしながら言った。破門の力の測定には何が必要なのか。これから役に立つ使い道を拓くためにどのようなことに留意していけばいいのか。特徴。変則性。破門のテキスト量。

 あらゆる情報から保健医は最適な測定をはじき出す。


「リズボルトの場合、収束と発散が必要なんだと思いますー」


「収束と発散……?」


「はいー。紙を収束させれば剣にでも盾にでも、はたまた手裏剣にもなりますー。紙を発散させれば広範囲に渡る攻撃も可能ですしー物を運ぶときにも便利になりますー」


 そして、それを使いこなすには緩急が必要だと言った。

 単に紙をばらまくのではなく、紙で攻撃範囲や守備範囲を徹底して浮遊させる。単に紙を固めて棒にするのではなく、棒の一面を鋭くすれば剣にもなる。

 さらに効率も重要になってくる。


「では収束と発散を測定しますねー」


「え、ちょ待った。意味がよく分からない」


「大丈夫ですよー。ルールに従っていればーそれでいいんですー。あっちの測定室Dに移ってくださいー」


 そう言って保健医は椅子から軽く飛び降り、短い歩幅でテクテクと測定室Dの前まで歩いた。そして腕を上方へ軽く伸ばし、鉄の分厚い扉を開いて破門に入室するよう促した。


「どうぞー」


 銅像ー。そう聞こえないこともない発音で保健医は言葉を発し、腕をバックオーライ、バックオーライと振った。


「……はぁ」


 破門はこれから何が行われるのか分からないまま、測定室Dに注意深く入っていった。

 見渡す限り、広々とした空間だ。机や椅子、パコソンとかの機械類も見当たらない。天井は高く、幾つものライトがこの真っ白な、何も無い部屋を照らしていた。


「んだ、ここ」


 破門の声が奥まで響く。反射したそれが破門の耳に入ろうとした直前、バァンと扉が閉められる音がした。

 閉じこめられた? いや違う。それは突如目の前に現れたモニターがそれを教えてくれた。

 その画面に移っているのは、ネコ耳だけ。よいせ、よいせ、と愛らしい声が聞こえた後、モニターにピョコンと保健医が顔を昇らせる。どうやら台か何かを持ってきてそれに乗ったらしかった。


「はいー。ではこれから測定を始めますー」


「おいおい。アンタはどこにいるんだよ」


「私ですかー。私は隣の観察室にいますー」


「いつの間に……」


「じゃー簡単なルールを説明しますねー。これから飛び出してくるラジコンコウモリを撃墜していって下さいー」


「ラジコン……? コウモリ……?」


「死なないように頑張って下さいねー」


 怪我させる気満々のその笑みは、軽く破門の背筋を舐めた。

 モニターが消える。

 さっきからよく分からねぇ。測定方法? 収束と発散? 何の話だ。それに死なないようにって、殺すつもりかよ。

 正直なところ、ダルい。このまま放棄してもいいかもしんない。


「それじゃー測定、始めますー」


 声だけが聞こえた。

 ルールはコウモリを撃墜するだけ。そんなんで何が分かるんだよ。中等部の時はこんなの無かったし。

 やる気が今一沸かない。急に撃墜しろなんて。急にだよ。


「はぁーっ……」


 ため息一つ、床に敷いた。

 突っ立ってても意味がない。不本意でも、ラジコンコウモリとやらは破門を殺しにかかるらしい。保健医の比喩なのかもしれないが、疲れることに間違いはなさそうだ。

 仕方ない、とはこのことなんだろう。

 重い首をくねらせて、ポキンと音を立てる。そうして、深呼吸。

 ダルいけど、まぁ、ここに立つからにゃぁ何かやらねーとな。

 よし。

 

「しゃーねー……ぅしっ!!」


 破門は右拳を左手の平で受け止めた。

 とりあえず闘魂注入。一応気合い十分。何となくエンジン始動。

 ともかく、何でもきやがれ。

 保健医は破門の目が真剣になったのを確認すると、赤いボタンを一つ押した。その時、破門の後方で気付かれないように小さく天井が割れる。

 そして現れるラジコンコウモリ。NOREを使った自動操縦型のラジコンだ。ただ、市販のものと違うのは。

 羽に刃物がついていること。

 カミソリなんて目じゃない。通販でやっているアルミ缶も楽々切れちゃうあの包丁も比ではない。幾度となく研がれた剣のようだった。


「……」


 破門は集中する。

 あらゆる気配を感じ取れ。テキストの流れ。空気の動き。僅かな音域。自身の鼓動を除いた辺りの気配。

 ラジコンコウモリが高速で動き出す。

 刃をライトに輝かせ、剛速球の如く破門の背中を狙う。

 そして一瞬の出来事。


「あめぇ。そんなんで俺がやられるかよ」


 コウモリ真っ二つ。


「おぉ。やりますねー」


 テキストで刀の如く鋭くした紙を操り、コウモリをぶった斬ったのだ。背後だろうと関係ない。感じ取ることができたなら、破門の攻撃範囲はほぼ全域だ。

 またしても沈黙が訪れ、次はどこからくるかと考える。

 分かる。感じ取る。

 右だ。


「ほほー」


 右方向からやってきたコウモリ二体を最初と同じように紙で斬り裂いた。その断面からは基盤やらコンデンサーやらが吐き出される。

 破門は舌で上唇を軽く舐め、左手の関節に溜まった気泡をポキポキと鳴らす。


「こんなもん、かっ!?」

 

 パンッ! と合掌。テキスト集中。そして上から急転直下でやってくるコウモリ三体を正面から切断する。ガシャンと部品が破門の近くに落下してくる。

 今のところテキスト消費は少ない。テキスト周波も安定しているから操作に乱れが現れることもない。

 使うべきときは使う。使わないときは使わない。これぞ緩急の極み。


「んっ!?」


 はっと気づく。上を見ていたから、下への注意が散漫になっていたからだ。

 破門の足首を狙って、二機のコウモリがクロスするように低空飛行している。

 突差の判断でジャンプ。それはまるで長縄を飛ぶ感覚に似ている。


剣紙つるぎがみっ!!」


 左腕の紙を高速で収束させ、それで剣を模造する。白の剣を破門は手にとり顔の前まで持ってきて、かざす。

 狙うは交点。コウモリとコウモリが重なった、その時だ。

 一突きで二機。つまりは一石二鳥。

 剣が二機のコウモリをまとめて貫き、地面に刺さった。

 破門が着地をしようと足下を見ていたとき、後ろからの気配に感づく。


「うおっ!!」


 左腕に接着する紙を硬質化。それで何とか背後からの攻撃を、振り向きざま防いだ。

 ガキンッと歯車が軋むような音の後、破門はコウモリの勢いにやられ、後方へと吹き飛ばされた。

 しかしすぐに印を組む。片方の人指し指と中指を他方の手でまとめて掴み、テキストを剣紙に送る。刹那、剣紙の真上にいたコウモリは四分割された。


「危ねー」


 軽く冷や汗。


「もうウォーミングアップはいいですねー」


 皮肉にしかとれない、少女の甘い声が鼓膜を揺らす。

 なるほどこれは小手調べか。それに、確かにコウモリは本気で自分を攻撃してくることが、今までで分かった。

 次からは、覚悟も伴うわけだ。

 保健医からのアイロニーに負けじと、破門は声を張る。


「はっ! 何でもきやがれっ!!」


「いい度胸ですよー」


 ポチッとな。それっとな。

 気軽に黄色いボタンが保健医の指で底に沈む。

 待つことなんてない。だってすぐだから。

 絶望するかも。だから覚悟があるんだ。

 逃げたい気持ちがあるように、立ち向かう気持ちもある。けれどその灯火を、これを見てもなお持っていれるだろうか。


「……」


 床以外の面が全て開く。そこから現れるコウモリの群。

 いや待て。何体いる。視界に入りきらない。

 四面楚歌。上もあるから五面楚歌であろうか。

 おびただしい。そして騒がしい。

 幾千の機体から発せられる機械音は、もう破門の耳を塞ぐ一種の攻撃だ。

 巣穴近くの蟻なんかより、カマキリの幼虫の群なんかより、人の小腸の襞なんかより、もっと多くて、気持ち悪いくらいうごめいている。


「大丈夫ですかー」


「……は? 少ねーなぁ。これっぽちかよ」


 最後に、がっかりだぜと破門は呟いた。

 無論やせ我慢。言ってみたに過ぎない。

 しかし倒せない数ではない、かも。テキストを全て使えば『あの技』をもってして一掃できる、といいな。自信はある、っぽい。


「ふぅー」


 『あの技』を使う。

 破門は左腕を高らかと掲げ、目を瞑った。

 体中のテキストを左腕へ。集中しろ。あらゆる知覚を排し、テキストを送ることだけを考えろ。

 嵐は一瞬。

 さぁ。

 見せつけてやる。胸をはる度胸を。本気の覚悟を。

 この—————


桜紙さくらがみ


————俺の力を。


 

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