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招く家  作者: 雲井咲穂
8/19

古いのに「新しい」(2)



 この家は築四十年を超えているのに、内装がまだかなり新しく見えるのがとても気になったからだ。長く放置された空き家独特の埃っぽさや湿っぽさ。空気が淀んでたまったような何とも言えない匂いもあまりしない。



 換気をしていたとしても、長い間放置された家の匂いは壁や床にしみついてしまうので、一階や二階の換気程度ではその匂いは外れない。



 もちろん、あちこちに小さな傷はあるものの、定期的に掃除が入れられているのではないかと思えた。五年も誰も住んでいない割には、壁紙がめくれたり黄ばんだりしているところが一切ない。



 リフォーム会社にいたから分かることなのだが、家というのは生き物のようなもので、人が住まなくなると驚くほど速く朽ちる。



 それに比べ、この家は今もなお、まるで誰かがここで生活を続けているかのような妙な生活感が漂っている。



 俺は言葉を選びながら、どうにか意味がつながるように雄介先輩に説明した。



「洋子さん。この家には定期的に手入れが入っていますか?」

「いいえ、これまでは不動産屋さんに任せていたので……。この数年は一度も家の中に入ったことはありません。最初に不動産屋さんに相談した時、賃貸で運用してみてはどうかという話になり、そのために一度掃除に来たことはありますが……」


「その後はどうされたんですか? 外に不動産屋の旗が立っていましたが、売買されて既に手放されたのでは?」



 不動産がこの土地と物件を取得しているのなら、手放した後の管理は不動産屋が担うことになる。その場合、所有権は洋子さんから不動産屋に移っているはずで、家に足を踏み入れたことがないという説明も納得がいく。だが、今回は動画の撮影で訪れている。「依頼人」が不動産屋であるなら納得できるが、「洋子さん」というのがどうしても腑に落ちない。


 その疑問をくみ取ったのか、洋子さんは少し間をおいて、重い口を開いた。



「実はこの物件、相変わらず私のものなんです。登記の名前もまだ私のままで。両親は五年前に他界しましたが、家の状態は悪くないし、リフォームしてからまだそれほど経っていませんでした。そのため、しばらくは賃貸物件として登録してもらい、入居者を募集していました。でも……」



「学校や病院、役所、スーパーにも近くて便利。子育て世代の家族なら喜んで入居したがる4LDKの間取り。確か、相場より少し安く貸し出されていましたよね?」



 雄介先輩は言って、ノートの下敷きにしていた紙をぺらりと取り上げ、机の上に置いた。雪乃さんと一緒に覗き込むと、そこには賃貸物件サイトに掲載された情報がそのままプリントアウトされていた。



 細かい条件の端に、敷金礼金なしで毎月の家賃が7万円と書かれている。このあたりの家賃相場はその隣にメモされており、似た物件の相場は11万円以上とのことなので、かなり安いことがわかる。



「リフォームはしたものの、家自体はもうかなり古いですからね。私も思い出深い家なので、子供を持つご夫婦が暮らしてくれたらそれでいいな、と思っていたのです」



 けれど、思惑はうまくいかなかったようだ。



 洋子さんは、最初に入居した家族が三ヵ月で退去したのを皮切りに、二件目、三件目と次々に家族が入居しては、また家を出て行ったと話してくれた。三件目の家族は、わずか三日で、家財道具をほぼそのままにしたまま、夜逃げ同然に家を出て行ってしまったのだという。



 その名残が、部屋の四隅に積み上げられたままになっている段ボールなのだと洋子さんは追加した。



「三年くらい賃貸物件として掲載してもらっていたのですが、その後はぴたりと入居者の話がなくなり、最初にお世話になった不動産屋さんがお店を畳まれるということで、二件目の不動産屋さんのお世話になることになったんです」


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