調査2日目
調査二日目。
結論から言うと、動画には何も映っていなかった。時折、影のようなものが部屋の中を走ったように見えても、別のカメラで確認すると、それは外を走る車のライトが室内に映り込んだだけの現象だった。
音声の方も不発。家が時折軋むような音はするが、それも家鳴りの類としか思えず、「これを心霊現象と断じたら炎上するな」と、雄介先輩が苦笑する。
だが、まったく何も起こらなかったわけではない。
不可解な現象はいくつかあった。
二階の洋室と和室、それぞれに設置していたカメラが、どちらも映像を記録していなかった。録画ボタンを押し、複数人で確認したはずなのにいつの間にか電源が切れていた。カメラはバッテリーが満タンの状態にも関わらず。
おまけにいつ切れたのか判然としなかったのは、メモリには何一つ残っていなかったためだ。
さらに、一階リビングの中央に置いていたはずのボイスレコーダーが一つ消えていた。
それはすぐに見つかったが、なぜか場所はキッチンの掃き出し窓の根元。カーテンの隙間に転がっていた。
録音データを再生すると、途中までは問題なく録れていたものの、ある時点からザザザーと、砂嵐のような音ばかりになっていた。
ヘッドホンをつけ、音声波形を確認しても、それ以上の異常は見つからなかった。
「先輩、今日はどうしますか?」
俺は二階の踊り場で立ち止まり、そこで腕を組んでいる雄介先輩の背中に声をかけた。
下では雪乃さんと日野さんが、一階の機器を再設定しながら、どこに調査の重点を置くべきかを話し合っている。
薄暗い階段を上がりきると、湿った埃の匂いが鼻をついた。空気が重い。
かび臭いというほどではないが、和室の方から、かすかに獣のような動物園で嗅いだ記憶があるような、なんとも言えない奇妙な臭いがうっすら混じっているのを感じる。
「ここが、洋子さんとその兄さんの部屋か」
先輩は開け放たれた扉の向こうを覗き込む。
階段を上がってすぐの場所に和室があり、その隣、踊り場の奥に洋室がある。和室は引き戸、洋室は開き戸だ。
和室には、図面によれば人ひとりがやっと入れるほどの小さな収納があり、四方を古い和箪笥が囲っているという。洋子さんによると中身は空で、処分に手間も金もかかるため、そのまま放置されているそうだ。
一方、洋室はがらんどうだった。唯一、天井から吊るされた古びた電灯があるだけ。
気になるのは、部屋の端から端まで敷き詰められた、年季の入った濃いグレーの絨毯。西陽がよく当たる部屋のようで、半分以上が色褪せていた。
収納は和室よりこちらの方が多く、壁一面に観音開きのクローゼットが設置されていた。
湿気がこもらないようにすべての扉が開け放たれているが、中は空っぽ。
唯一、奥のクローゼットの中には、かつて荷物が置かれていた名残が、薄く残っているだけだった。
部屋の隅々に撮影機材が設置されているが、昨日日野さんとチェックした時と、特に変わった様子はない。
「んー……何もないな」
先輩がぼそっと呟く。
「……何も、ないっすね」
幽霊が出そうな部屋には、お札が貼られていたり、仏具や線香の燃え残り、人形などが置かれていることが多い。
だが、この部屋にはそういったものは何もない。ただ、無機質な空間が広がっているだけだった。
二人で顔を見合わせたその時、階下から、勢いよく誰かが駆け上がってくる音が響いた。
「お兄ちゃん、谷山くん。ちょっと相談に乗ってほしいんだけど」
クローゼットにもカメラを向けるべきか、と先輩が切り出したところで、雪乃さんが現れる。
彼女の表情は、いつになく真剣だった。
俺たちは彼女に促され、階段を降りる。
その途中、ふわっと冷たい風が頬をかすめた。
思わず玄関の方を見ると――戸が、十センチほど開いている。
「……もー、寒いからちゃんと閉めてって言ったのに」
雪乃さんが不機嫌そうに言いながら、靴下のまま框を降り、すっと玄関扉を閉める。
「さっき機材取りに行ってくれた時も開けっ放しだったし。暖房ついてないんだから、締めて欲しいんだよね」
ブツブツ文句を言いながら、彼女がリビングへ入っていく。
その背中を見送りながら、雄介先輩が小声でこそっと耳打ちしてきた。
「昨日、スマホゲームやりすぎて、あんまり眠れなかったらしい。不機嫌」
「おにいちゃぁん? 余計な情報を谷山くんに吹き込まないでくれるかなぁ?」
ギロリと鋭い目つきで先輩を睨む雪乃さん。
先輩は「こわっ」と肩をすくめるが、どこか楽しそうでもあった。




