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招く家  作者: 雲井咲穂
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欠けゆく (調査1日目.終了)


 ──土屋さん、こと、土屋恵一。



「あやかし」最年長メンバーであり、撮影を主に担当する雄介先輩の親友だった。もともとは家電量販店に勤めていたが、職場環境の悪化により退職。その後、再就職活動の合間に、雄介先輩が立ち上げた「あやかし」の裏方サポートを手伝い始めたという。



 現在は医療品メーカーの営業として働きながら、副業で撮影や動画編集をサポートしてくれている。暴走しがちな雄介先輩を唯一止められるストッパー的な常識人──その土屋さんが事故に遭い、足止めを食らったという。いや、それどころか容態はどうなのか。俺が雄介先輩に尋ねると、



「むち打ち程度で骨折や外傷はなし。ただ、念のため搬送先の病院で精密検査をするとのことだ」



 ひとまず、命に別状がないと聞いてホッとする。だが、よりにもよってなぜこのタイミングで?



「土屋さん、どこで事故に遭ったんですか?」

「トンネルの入り口付近だってさ。ここに来る途中、でっかくて長い高架橋があっただろう? あそこだ」



「いや、先輩。俺、公共交通機関使ってきてるんで」

「あ。そうか。だからインターからまっすぐって言ったのに、通じなかったわけか」



 長距離ドライブで複数県をまたぐなんて、先輩たちくらいなものですよ、と反論すると、同じく公共交通機関で到着したらしい美知佳さんが、気だるげに声を上げた。



「命に別条がないっていうならいいんだけどさ。あの量の編集を私一人でするのって、正直無理ゲーなんですけどぉー」



 だるいわー、と再びソファにひっくり返った美知佳さんの艶めいた太ももから視線を外し、俺は日野さんを見つめた。



「え? 俺にやれっての? 無理無理! ああいう細かーい作業は向かないんだよね」

「あ、そういうあれじゃ」



「なんにせよ、土屋を欠いたのは痛いな。別件の依頼を受けてる水野さんにも話しておかなきゃだし……」

「水野さん? ああ、今回は水野さんも合流するんですか? あの霊能力者の」



 聞き覚えのある名前──というより、かなり印象に残っている人物だった。



 水野さんは「あやかし」の人気を密かに裏支えする「霊能力者」のおじさんである。……おじさんというほどの年齢ではないが、態度はいたって柔和。数回、依頼料の振込確認のために電話した程度だが、始終腰が低く、とても丁寧な口調の人だった。



「水野さんは3日後、調査4日目に来ることになってるんだ。隣のO県で別の心霊チャンネルのロケに同行してて、それが終わったら合流してもらえる」

「人気なんですね、水野さん」



「というか、能力があるんじゃないか? 水野さんが居れば安心して危険地帯にも乗り込んでいけるって、そういう保険的役割なんだろう。多分」

「そういうものですかねぇ」


 日野さんがからかうように言うのを聞きながら、俺は雄介先輩に目を向けた。



「とりあえず、全部の検証が終わらないと動画の編集って難しいんですよね?」

「いつもは撮影後、上がってきた動画を順次通しで見て、面白そうなところや現象が起きている部分をカットしておくんだ。カメラ1台分なら1日中撮影しても24時間分だが、それが5台、10台となると……」



 掛ける撮影時間分のデータ量。考えるだけでゾッとする。



「一度見たからって、それで終わりじゃないからな。素材を別の人間が再チェックして、音声に何か入っていないか、見落としがないか。リアクションが面白い部分を抽出して繋げたり、チェックを入れたり、テロップを入れたり。やることは意外と多いんだ」



「数字だけしか触ってこなかったっすけど、編集ってそんなに大変なんですね……」



 撮影機材の設置も大変だったが、編集となると目が回るほどの作業量だ。そんな俺の肩をぽんぽん、と日野さんが軽く叩く。



「残念だけど、カメラはまだあってね」

「まだあるんですか!?」

「当たり前だろ。そのために撮影部隊が僕と君、二人いるんじゃないか」



 つまり、現場に入って定点カメラ以外に、動きのある実況動画も撮影しなければならない──そう言われ、俺は口から魂が抜ける思いだった。


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